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源次郎尾根『光り溢れる剱岳東面のバリエーションルート』

早朝。
特徴的なマイナーピークの向こうの、朝焼けの後立山連峰へ向けて剣沢雪渓を下る。
夏の剱のバリエーションルートへ向かうシーンとしては定番だが、何度行っても心躍る時間だ。

取付きで準備をしていると、下方から「トレイルランナー」然とした方が抜いていったが、出だしの岩場で間違ったラインから無理やり登ろうと四苦八苦している。
服装も下は短パンで、ザックも小さい。
懸垂下降用のロープが入っていることを差し引くと、有事の際を想定した各種装備はほとんど入っていないのだろう。
体力があるのは素晴らしいことだが、「剱バリエーション」の世界に入ってくるのなら、もっと謙虚に装備・服装を準備すべきだろう・・・。

気を取り直して、我々も最初の岩場に取りつく。
前日までの大雨で、ルンゼ上を小さな水流が流れているほどであったが、普段からクライミングにも取り組んでおられるお客様、上からロープで確保すると、苦も無く上がってこられた。

その後、急傾斜の木登りを楽しみつつ、「ハーケンのある岩場」に着くと、大学山岳部らしきパーティーに追いついた。
しばらく様子を見ていると、かなり危なく、突っ込みどころ満載の登りをしていたので、あれこれアドバイスをする。
(ん?これって突然の「登山研の夏山講習」?)

らちが明かないので、途中で抜かせてもらってやっと我々のペースに。

東方から降り注ぐ午前中の日差しをいっぱいに浴びて、気持ちの良いスラブを登る。

やがてⅠ峰頂上に着くと、そこには絶景が広がる。
対岸に八ツ峰が、その堂々とした峰の連なりを惜しげもなく見せている。
お互いを写真撮影。

八ツ峰上半、長次郎谷右俣、熊の岩たちが日の光を浴びて、どっしりとした芸術的な山岳景観を創り出す。


やがてこのルートのハイライト、Ⅱ峰からの約30mの懸垂下降だ。
写真では高度感があまり感じられないけど・・・

下から見上げるとこのスケール!
なかなかのもんです。

懸垂下降後の、意外と長い登りを頑張って、剱岳山頂着!
快晴ですね!

登ってきた源次郎尾根を振り返る。
それは、『剱東面の、光溢れる尾根。』

今回のお客さまのように、クライミングと体力系のトレーニングを日常でできる範囲で積んで挑戦したならば、この尾根の登行を楽しむ余裕もでき、より充実した山行に繋がることでしょう。

剱岳・源次郎尾根。

私の大好きなルートの一つです。

(山岳ガイド 香川浩士)










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