香川浩士

香川浩士

最近の記事

源次郎尾根~光と虹~(Kさん・R6年リベンジ編)

まず、昨年の当ガイドのブログ「源次郎尾根~光と影~(2023.8.23)」を読んでから今回のブログを読んでいただきたいと思います。 R5年夏、源次郎尾根敗退を喫したKさんは落ち込む暇を見せず、地元でクライミングジムに行きはじめ、引き続きの通常の登山(冬山ガイド登山含む)、地元の山岳ガイド主宰の岩登り講習など来るべき夏に備え、足りなかった登攀力の向上や体力の維持に余念がなかった。 「1年」という期間を、どう捉えればよいだろうか? 何もせずただ日常を過ごしていれば、1年たって

    • 剱岳・八ツ峰(上半)のガイディング

      「次はどこ行きたいですか?」 「次はやっぱり八ツ峰ですね。」 「それはどうしてですか?」 「んー。やっぱ八ツ峰って、普通じゃないじゃないですか!」 これは、2年前の夏に源次郎尾根を完登した剱岳頂上でのお客様との会話である。 「普通じゃない。」 これは、この岩稜の魅力を端的に表しているといえる。 剱岳頂上からぐるり周囲を見渡した時、北東方向に伸びるギザギザした岩稜。 花崗岩に一部閃緑岩が混じるこの山は、古くから氷河と激しい風雨の浸食により、風化に強い閃緑岩が鋭く削り残った。

      • 冬剱・完登!(令和5年12月・早月尾根)

        冬剱(ふゆつるぎ) その響きは特別である。 夏ですら「日本百名山で最難」とされるなか、積雪期においては誰にでも登れるものではない別格の存在。地元の山岳ガイドとして、この冬剱という課題から目を逸らすことは出来ない。 昨年12月の冬剱は盟友と2人で挑み、悪天候と時間切れで敗退した。 今年はいわゆる「リベンジ山行」となった。 メンバーだが、まずは誰もが認める剱岳最高のガイド、国際山岳ガイドの多賀谷さん。 またその多賀谷さんつながりで、越後湯沢のナンバーワンBCガイドのジュンさん

        • 令和5年の「夏剱ガイド」を振り返って。

          10月第一週の剱岳ガイドを最後に、令和5年の剱岳ガイドが終わった。 剱岳に強い思い入れを持つ地元ガイドとして、今年のガイド活動を振り返っておきたい。 今年の「夏剱ガイド」のスタートは、写真家・高橋敬市さんからの「三ノ窓氷河」のオファーから始まった。 標高差約1000mを真っ直ぐに落ちてくる男性的なこの氷河は、僕自身も久しぶりで、ガイドをしながらも楽しませてもらった。 最上部の「のど」の通過がポイントとなる。 順調だった撮影のガイド行は、偶然、小窓の王基部で2人の墜死した

          槍穂もイケます〜ジャンダルム編〜

          『ジャンダルム』 ジャンダルムである。 初めて名前をつけた方は存じ上げないが、とにかく素晴らしいネーミングセンスである。 衛兵、憲兵といった意味のようだが、その前に「穂高の」という言葉を付けたらしっくりくる。 このルートはよく「国内最難の縦走ルート」と紹介されている。 しかし、通ってみての私の印象では、 「国内最危険な縦走ルート」と言えるのではないだろうか? 私の職場である「剱岳・別山尾根ルート」よりかは明らかに危ないルートだと思う。 具体的には、そのルート上の 「岩

          槍穂もイケます〜ジャンダルム編〜

          源次郎尾根〜光と影〜(今夏の2つのガイド山行から)

          剱岳・源次郎尾根。 これは素晴らしいバリエーションルートだ。 「別山尾根から剱岳を登って初めて、本当の剱岳登山のスタートラインに立つ」 これはガイドの先輩が言っていた言葉だが、全く同感だ。 今シーズンいくつかのガイド山行で源次郎尾根を登ったが、そのうちの好事例と敗退事例を書き残しておきたい。 〜好事例〜 すでに別山尾根からの剱岳を経験済みで、日頃からトレランもされ、最近ではクライミングもされているお客さま。 理想的な経験値をお持ちです。 出だしの渋滞。 この尾根の最初の核心

          源次郎尾根〜光と影〜(今夏の2つのガイド山行から)

          プロ写真家・高橋敬市さんをガイド

          何の業種であれ、『プロフェッショナル』な方との仕事は、心躍るものがある。 お金はかかるが、得るものはそれ以上だ。 今回、剱岳撮影の第一人者である写真家・高橋敬市さんからのオファーで、剱岳の奥地・三ノ窓氷河や三ノ窓周辺での撮影のガイドをすることになった。 三の窓から標高差1000mをほぼ真っ直ぐに落ちてくる三の窓氷河。 僕はこの「男らしさ全開」の氷河が大好きだ。 そして御多分に漏れず、「体力必須」のルートである。 左上方の2本の尖塔は、左が「クレオパトラニードル」で右が「

          プロ写真家・高橋敬市さんをガイド

          尖山(とがりやま・559m)から剱岳へ。~『笑われるかもしれないけど私、剱岳に登ってみたいんです』と言った女性の軌跡~【第1回・中山(1255m)】

          剱岳。 それは、いわずと知れた、本邦山岳最難関に位置付けられる山。 尖山。 「とがりやま」と呼ばれるその山は、登山のグレーディングとしては、10段階中「1」に位置付けられる往復2時間ほどの山。 富山県民で登山を始めるなら、まずはここからという方も多いのではないだろうか。 今年5月、初めてお会いしたその方は、会話の中でこう言った。 「笑われるかもしれないけど、私、剱岳の頂上に立ってみたいんです。」 僕は、その言葉をもちろん笑わずに受け止めた。 チャレンジをする人を応援したい

          尖山(とがりやま・559m)から剱岳へ。~『笑われるかもしれないけど私、剱岳に登ってみたいんです』と言った女性の軌跡~【第1回・中山(1255m)】

          残雪期の剱岳のガイディング(長次郎谷~本峰~平蔵谷)

          今年の春の積雪はかなり少なかった。 季節が半月~1カ月早く推移している感じがする。 初日は雷鳥沢の登りを450mほど。 高度馴化を意識しながらゆっくり登る。 にしても、暑い! 夏山並みだ!! 剣御前小屋に到着した後、別山北峰まで行って剱岳とご対面。 やっぱでかい! お客様が吸い込まれそうだ! 撮影も大好きなお客様。 早起きして撮られた写真がこの天の川! これまたスゴい!! さて、谷のルートは早朝出発が必定。 御前から長次郎谷出合まで標高差1000m一気に下げますよ!(

          残雪期の剱岳のガイディング(長次郎谷~本峰~平蔵谷)

          地図読み講習2days(積雪期バージョン)

          やって来ました、立山町のカフェ、AREさんの離れ小屋「カガワハウス」。 さあ、まずはここでコーヒーを飲みながらリラックスしつつ座学で地図読みの基礎を学びます。 いまどきGPSがあるのに、どうして地図読みが必要なんですかね? まずはそんなお話から入っていきますよ・・・。 この写真では色々書き込むのでプリントアウトした地図ですが、何度も行くエリアの地図は、いわゆる「本紙」を推奨しています。 紙自体の強さ、耐水性、見やすさなど、総合的に見て「本物の」地図が良いとボクは思っていま

          地図読み講習2days(積雪期バージョン)

          R4年・冬剱(早月尾根2400mまで)

          「冬剱」 その響きは特別である。 他の季節とは一線を画す厳しさ。 半端な覚悟で足を踏み入れると命を失うことになるのは、歴史が証明している。 コロナウイルス禍も抜けつつある令和4年の年末は、少々の悪天では中止にしない意気込みで、12月に入ると「対冬剱用」のトレーニングを重ねた。 そして、12月下旬のクリスマス寒波をかわすために入山を2日遅らせ、12月26日に満を持して入山した。 馬場島の警備隊詰所の前のこの青い看板が、その年の積雪量の目安だ。 今年は入山時で110cmという

          R4年・冬剱(早月尾根2400mまで)

          妙義山(今も昔も修験の山)

          北陸から高速(上信越道)を使って東京方面に車を走らすと、軽井沢の大きな下り坂を過ぎたあたりから右前方に奇怪な岩峰群が見えてくる。 妙義山だ。 「妙義」とは言い得て妙。 しかし、実際その山名の由来を少し調べてみると多くの諸説があり、ここで「にわか」たる私が知ったかぶりして書くのはおそれ多い。 山麓の妙義神社は、なんと1500年の歴史を誇るという。 150ではなく、1500だ。 日本では6世紀前半で、「古墳時代後期」となるらしい。 ちなみにまだ、聖徳太子も生まれていないと言

          妙義山(今も昔も修験の山)

          黒部峡谷・下の廊下!!

          スゴいエリアがある。 富山県・黒部峡谷・下の廊下。 日本一の深さを誇るV字谷の断崖に穿たれた登山道は、毎年谷間を埋める膨大な残雪の影響で、「一応の」整備が終わり登山者が歩けるようになるのは1年でわずか1カ月程度。 しかも毎年のように転落死亡事故が発生する上級者コースであること、小屋の予約を取る難しさなどが相まって、登山者にとっては昨今、憧れの「プレミアムコース」といっても良い状況である。 ここのガイドは難しい。 ある意味ガイド泣かせと言っても良い。 剱や穂高の岩稜ルー

          黒部峡谷・下の廊下!!

          槍穂もイケます~大キレット編~

          学生時代から登ってきた剱岳との付き合いは、かれこれ『四半世紀』となり、この山を体感的に捉えることができている。 一方北アルプスの、というより日本を代表する山岳、槍穂連峰の経験は、これまでかなり少なく、個人的にはまだ未知のルートが残るエリアだった。 数年前、一念発起して公務員を辞め山岳ガイドの道を志したわけだが、それから年に数回地道にこの槍穂高エリアに通い、ガイド可能エリアを増やしている・・・。 涸沢にやってきた。 この大岩壁に囲まれたカール地形は、見慣れた剛毅な感じの剱と

          槍穂もイケます~大キレット編~

          源次郎尾根『光り溢れる剱岳東面のバリエーションルート』

          早朝。 特徴的なマイナーピークの向こうの、朝焼けの後立山連峰へ向けて剣沢雪渓を下る。 夏の剱のバリエーションルートへ向かうシーンとしては定番だが、何度行っても心躍る時間だ。 取付きで準備をしていると、下方から「トレイルランナー」然とした方が抜いていったが、出だしの岩場で間違ったラインから無理やり登ろうと四苦八苦している。 服装も下は短パンで、ザックも小さい。 懸垂下降用のロープが入っていることを差し引くと、有事の際を想定した各種装備はほとんど入っていないのだろう。 体力があ

          源次郎尾根『光り溢れる剱岳東面のバリエーションルート』

          シーズン前に危険な芽をつみ取っておく@剱岳

          6月某日、剱岳。 雪たっぷり、しかし良い感じに安定している剱に一人でやってきた。 今回の目的は表題のとおり。 ここ最近、某バリエーションルートの支点で気になる箇所があったのだ。 それは「下降支点」になるものなので、崩壊すれば重大事故に直結する。 報酬はもちろんどこからも出ないが、誰かがやらねばならない「仕事」だ。 八ツ峰の峩々たる岩稜。 氷河の作用による、素晴らしい尖峰。 これは、日本を代表する岩稜という評価で異論はないだろう。 危険な「通勤路」を通って、現場到着。

          シーズン前に危険な芽をつみ取っておく@剱岳