源次郎尾根~光と虹~(Kさん・R6年リベンジ編)
まず、昨年の当ガイドのブログ「源次郎尾根~光と影~(2023.8.23)」を読んでから今回のブログを読んでいただきたいと思います。
R5年夏、源次郎尾根敗退を喫したKさんは落ち込む暇を見せず、地元でクライミングジムに行きはじめ、引き続きの通常の登山(冬山ガイド登山含む)、地元の山岳ガイド主宰の岩登り講習など来るべき夏に備え、足りなかった登攀力の向上や体力の維持に余念がなかった。
「1年」という期間を、どう捉えればよいだろうか?
何もせずただ日常を過ごしていれば、1年たっても変わらない(いやむしろ退化した)自分がいるだろうし、日々、できる範囲で努力を積み重ねた人なら、そこには「1年前とは違う自分」が存在していることを実感するだろう。
かくして令和6年の8月20日。
Kさんの源次郎尾根へのリベンジ戦の幕は、切って落とされた。
取り付きまでのアプローチ。
例年ならば、未だ安定している剣沢雪渓をどんどん進み、何のストレスも感じないだろうが、昨今の地球温暖化の影響を受け、かなり下部まで割れており、右岸沿いの「夏道」を使わざるを得なかった。
しかし、ここは雪渓を通過する時と比べて時間がかかる。加えて、結構ワイルドで気の抜けない道だ。
バリエーションルートに向かう場合、アプローチで時間は使いたくないものだが、Kさんはこの不安定な場所で苦戦する。
「この先大丈夫か?」
と早くも不安が漂い始めた頃、ふと振り返った剣沢上部に、大きな2重の虹が出た。
3人で「剱からの予期せぬプレゼント」に声を上げる。
雄大な自然の中で、ふとした風景が勇気を与えてくれることがある。
この時、このチームの雰囲気が明らかに変わった。
急な片斜面のザレ場を、時に短く確保しながら源次郎尾根取り付きに向かう。
取り付きの岩場。(写真なし。去年のブログ参照)
岩のコンディションは悪くはない。
Kさんの弱点の一つは、クライミング能力だ。
取り付きでいきなり強傾斜の岩場を迎える源次郎尾根。
ここでハマるか直ぐに抜けられるかは、この後に続く岩場での出来不出来を占う一つの指標となる。
一言で言うと、ボルダー力。
加えて、強傾斜の岩場にビビらない、イマイチ甘いホールドスタンスでも次の一手を出す「度胸」も必要だ。
履きなれた自分の登山靴(アプローチシューズ)でのクライミング経験(この靴なら、どれくらいのスメアリングに対応できるか)も重要だ。
あとは、フィジカル的に良いホールドが遠い場合、ワイドクラック技術に近い、「身体を岩にあてがってのずり上がり」のような、泥臭い技術?も駆使してハイステップ!
スタンスを上げなければ、次のホールドには届かない。
つまり、上に抜けて行けないのだ!
(ここら辺りの動きを文章化するのはとても難しい・・・。)
もう一人のお客様(トレラン・アスリート)の下からのサポートも受け、去年と比べると時間をかけずに抜けられたKさん。
もちろん、この1年の努力の成果でもある。
そして、昨年の敗退地点、我々の中で勝手に名付けた「K岩」に来た。
まずはガイドがレクチャーしながら先行し、上部で確保する。
さあ、Kさんの番だ。
テレビドラマだとここで、何の苦労もなく抜けてくるところだが、なんと今年も苦戦。
引き付けの力が弱く、強傾斜の下部岩場を登り上がることができない。
イヤな空気が流れ始める。
ガイド的には、昨年はKさんに、とことんこの岩場と向き合ってもらった。
縄バシゴを使ってでも、無理やりお客さんにルートを登らせることに疑問を持つ自分がいた。
しかし、今年は違った。
Kさんがこの一年努力を積み重ねたことを知っていたし、もし今年このルートを登れなければ、3度目は無いことを知っていた。
ロープを駆使し、手助けとなる手がかり、足がかりを作成する。
それでも、エレベーターに乗るのとは訳が違う。
最後は自分の力で登らなければ、この岩場をクリアできない。
最初のルートとは違う箇所からのアプローチを探り、トレラン・アスリートさんの下からのアドバイスも合わせ、ついにこの岩場を乗り切った。
もはや、ガイドとお客様3人での「共闘」の様相を呈してきた。
試練の岩場を過ぎると、そこからリズムが出てくる。
ガイドが気持ち良くロープを伸ばし、お客様が後続する。
練習してきた懸垂下降。
昨年は出来なかった懸垂下降。
高度感抜群のⅡ峰からの懸垂下降をスムーズにこなすKさん。
そこからは1時間弱、急登を本峰まで頑張るだけだった。
Kさん、1年越しの源次郎尾根リベンジなる!
(Special Thanks トレラン・アスリートさん。)
激闘を終えて@剣沢小屋。
一度は一敗地にまみれて、1年後にリベンジを果たしたKさん。
やり遂げた清々しい顔で記念撮影。
バックには、間違いなく自分が完登した源次郎尾根のラインが・・・。
ルートや山の難易度が問題ではない。
大事なのは、「自分にとってどれだけの挑戦だったのか」ということ。
純粋に自分と山との戦いではなかったかもしれないが、山のガイドのサポートを受けて、憧れのルートを完登する。
そんな、ガイドとお客様の関係性がある。
ガイド登山という、一つの形態がある。
なかなか日本では認知されていない側面もあるが、こんな登山もあることを、世の中の人に広く知ってほしいと思う。
そしてKさん、おめでとうございました!
(Special Thanks トレラン・アスリート)
(剱岳の山岳ガイド 香川浩士)
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