完璧な「秋剱」、そして・・・。
秋空高し、剱岳。
台風一過、完璧な秋空の中、今年最後の剱山頂へのガイドが始まった。
朝、黄土色に紅葉した一服剱が朝日を浴びて輝く。
「今季一番の晴れっぷりですよ。」
一昨年はケガ。昨年はコロナ禍と、2年越しの想いを携えて来られたお客様に、今日の天気の素晴らしさを力説しながら登っていく。
身を乗り出して写真を撮るお客様。
天気は最高。お客様の足取りも順調。
すべてが完璧に近く、我々は本峰に近づいていった。
やがて、タテバイ。
ここでも運が良いことに渋滞にハマらず、私はお客様を確保するために、肩に巻いていたロープをほどいていたまさにその時、
「キャー!」(ドンッ、ドンッ!!)
人が落ちた!
タテバイを登り始める直前の、私の前の登山者の転落だ。
その瞬間、現場の空気が変わる。
すぐさまその登山者のもとに駆け寄り、状態の確認を行う。
「大丈夫か?」「手足は動くか?」
幸いなことにその方は、身体のどこも折れてなく、受け答えも比較的しっかりできていた。
タテバイの出だしで落ちたので、落下距離が地面をバウンドしながらの3~4mで済み、かつヘルメットを被っていたので、致命的な頭部の負傷を免れることができたのだ。
自分のお客様を安全な場所に退避させて、額の裂傷に対する応急処置を実施する。
その後、なおも頂上に向かうというその方に「ここから下りるべき理由」を説明したところ、最後には素直に応じてくれた。
その後、我々は気を取り直して無事に登頂し、本日泊まる予定の剣御前小屋に向かった。
馴染みの山小屋スタッフが、いつもと変わらない笑顔で迎え入れてくれる。
色々あったけど、終わってみれば良い一日だった。
夕食後、お客様と夕陽を見に行くことにした。
奥大日の向こうに、今日の夕陽が沈んでいく。
素晴らしい夕陽だ。
お客様は、この時間を楽しんでくれているかなと思いふと横を見ると、真っ直ぐ夕陽を見つめ、その頬の上にはひとすじの光るものがあった…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?