【物語】海底紀行
「早く帰らないと……」
サチにはそう聞こえた。
しかし、先生は、その言葉には釣り合わない余裕を持った笑顔をしていて、とても帰りたいようには見えない。サチはその言葉を聞き間違えたのかもしれない。
海中では空気の代わりに水が振るえることで、音が伝わる。
あいにく、人間の耳は、水中の音を上手に聞き取ることができるようにはできていないのだ。サチが聞き間違えたのも仕方が無い。
二人は人間である。
先生はお医者様の格好をしている。
先生は人間で、お医者様であるが、患者は全て植物である。
一方、サチは、人間であるのでもちろん服は着ているが、そして先生と同じように白衣を着てはいるが、その下は先生のようなシャツではなく、深い紺色の水着を着ていた。
二人は人間であるはずなのに、海の底を歩いていた。
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