【二次創作小説】Fate/Dead Line Prologue

 瞬きをも許されぬような速さで、藤堂 雅和の背中に何かが刺さった。女武者の槍だ。
「かたじけない。聖杯戦争のことは一般人には知られてはならぬ。某とて、そなたを殺めたいわけではなかった」
 ひゅー、ひゅー、と音がする。
「六文銭の誓いにかけて、せめてそなたは極楽浄土へ逝けるように、ここに祈りを捧げておこう」
 うまく空気が吸えない。

 ──ふと、月を見る。
 身体が、心が、魂が、紅に染まっていく。

 ──これは死だ。

 月が嘲笑っている。
 これは運命なのだ。ここで死ぬことが確定していたような。
 最後くらいは微笑んでくれてもいいのに。

 懇願する気持ちで、藤堂は月に手を伸ばす。
 ──届かない。

 それでも手を伸ばす。
 ──でも、届かない。

 眠くなってきた。
 最後の力を振り絞って──。

 瞬間、眩い光が辺りを包んだ。
「この気配……剣士のサーヴァントか!」
 オレの目の前に居た槍武者は、トドメを一撃を刺すのをやめ、一歩身を退いた。

 光が止んだ時、槍武者と藤堂の間には、一人の小柄な少女が立っていた。

「s64,3uqt@0qdkjrq3w@rt?」

 わけのわからない言語を使い、少女は藤堂を一瞥した後、槍武者を虎視眈々と睨みつけていたのだった。

  ***

 夏森市は北海道の都市である。
 九月である現在、残暑は終わりを迎えようとしている。ようやく、過ごしやすくなった北海道夏森市のホテルに、恋人同士である彼らは準備をしていた。
「まぁ! キレイね! 北海道の景色。貴方もそう思わない? ジョナサン」
「ああ、俺もそう思うよ。こんな綺麗なばしょで聖杯戦争──殺し合いをするとは思えないだろう? マリー」
 ジョナサンの言葉を聞いたマリーは少し眉を顰めた。
「ねえ、ジョナサン。ここに来てから私、聖杯戦争、グレイルウォーってよく聞くけど。あまりわかっていないわ」
 ふーむ、とジョナサンは指を顎に当てて考える。
「マリー、君には叶えたい夢はないのか?」
「まあ、あるにはあるけど……」
「聖杯戦争というのは、あらゆる時代、あらゆる国の英雄をこの札幌でサーヴァントとして召喚して、最後の一騎になるまで争うゲームみたいなものさ」
「それ怖くない? 大丈夫?」
「俺の言い方が悪かったね。ちょっとした悪戯だ。ごめんね」
 ジョナサンは大きな声で笑った。
「でも大丈夫。俺らには最強のサーヴァントを引く準備ができてる」
「それって何?」
 ジョナサンは、左手に持っていたアタッシュケースをあけて一枚の布切れを出す。
「これ、何かわかる?」
「なに、って……ハチマキ? 六枚のコインが書かれているわ」
「これは、日本のサムライ……真田の六文銭だ。俺らはこれを触媒にして攻めに強いサーヴァントと守りに強いサーヴァントを一緒に引いて無敵になるのさ」
 マリーは話を半分に聞いたまま、テレビをつける。聖杯戦争には興味はない。ただ、ジョナサンがやりたいというからやってきただけ。
 そんなくだらないものにさんかしめいるひまがあったら、もっと自分のことを見てほしかった。
 あの『グレイルウォー』の概念に嫉妬している。今の彼の心は聖杯戦争だ。
 ──しかし、それでも聖杯戦争は聖杯戦争だ。
 彼女はその一端を、テレビで知ることになるだろう。
「ねえ、ジョナサン」
「なんだい?」
「今何月?」
「九月だけど」
「なんで北夏森が豪雪地帯になっているの?」
 マリーの話を聞いたジョナサンは魔法陣を広げるのを一旦中断し、すぐさまマリーの元へと駆け寄った。
「どうやら聖杯戦争は始まってるみたいだな」
 顔を大きく歪める。
 ジョナサン=ウィリアムズは、その恋人マリー=スミスを幸福にせんと、聖杯戦争に参加する。財力もなく、没落したウィリアムズ家はジョナサンの勝利によって、マリーと共に栄華ある家へと返り咲くのだ。
 マリーを迎え入れるその土壌を用意するためには、この聖杯戦争に勝たなくてはならない。
 日本最強と謳われた槍兵ランサー──真田 信繁と、難攻不落の上田城を築いた真田 昌幸と共に、聖杯を手にするのだ。

  ***

「よし、ここかな」
 北夏森の森の中。江口 翳郎はリュックサックをおろして、サーヴァント召喚の準備をする。
「……彩花のためだ。僕はどんな手を使ってでもこの聖杯戦争に勝利してみせる」
 江口 翳郎の娘──江口 彩花は不治の病にかかっている。何年も植物状態でいつ逝ってもおかしくない状況だ。
「誓いを此処に。我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者──」
 彼の妻──彩綾も同じ病でこの世を去ってしまった。
 もう二度と、大切な人を失いたくない。その一心で今日という日を待ち焦がれていた。
 触媒はない。誰が召喚されるのかは、江口にもわからない。
「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!」
 北夏森の森の中に渦巻く疾風。眩い閃光。
 そして次第に、気温は低下していく。
「吹雪……だと。まだ九月だぞ」
 疾風は、やがて吹雪となり江口を襲う。
 そして──

〔サーヴァント、アサシン。召喚に応じ参上しました〕

 サーヴァントの姿が見当たらない。
「どこにいるんだ。アサシン」

〔目の前におりますよ。目と鼻の先です〕
 と言っても、アサシンがどこにいるのかは目星が立たず、姿を拝することすらできない。
 しかし、寒い。長袖のポロシャツを着てきたとはいえ、厚着はしていない。
「アサシン、寒い」
〔……ご辛抱を。これは我が宝具です。聖杯戦争に勝利するためには、この宝具は必要不可欠なのです〕
 アサシンは得意げに語る。それに薪をくべるように江口はアサシンに返答を返す。
「それはどんな宝具なんだい?」
〔私の半径十二キロメートル以内を真冬の吹雪に変える宝具です。この宝具で私は気配を完全に消したまま、狙撃することができます〕
「……それって位置がバレない? てか宝具の特性でアサシン、キミの真名がバレてしまうのではないかとすごく心配なのだが」
 吹雪が止む。目の前に現れたのは、小柄な人物だった。白い装束に身を包み、顔は仮面の如く、布で覆われている。
 つまるところ、本人の顔は伺うことができない。
「私はシモです」
「は?」
 吹雪がおさまった後の第一声に思わず聞き返えしてしまった。
「だから、真名。私の真名はシモ=ヘイへ。もしかしてご存知ない?」
「いや、知らないわけではないが……」
 シモ=ヘイへ。フィンランドの狙撃手であり、コッラ川の戦いでロシアを退けた『白き死神』。
 圧倒的不利だった戦況で正確かつ緻密な狙撃で、『コッラ川の奇跡』とも呼ばれたスナイパー。
 アサシンの真名は『白き死神』なのはいい。
「どうして真名を名乗った。この近くにサーヴァントや魔術師がいたらどうする気でいた?」
 サーヴァントは、あくまであらゆる時代に存在した英雄。その真名は有名であるほど、弱点をつかれることが多い。
 なので、聖杯戦争では真名を隠し、逸話に応じて与えられる『役割クラス』でサーヴァントを呼ぶ。
 シモの場合は、アサシンだ。
 シモは、きっとコッラ川の戦いでの逸話が昇華され、かつ腕前が神域に達したスナイパーであったから、アサシンとして召喚されたのだ。何か別な要因がなければアーチャーとして召喚されていたのかもしれない。
「……二十世紀の大戦争じゃあるまいし、しかも極東の辺境の森でヤマを張ってる魔術師なんていないだろうと思って。私の名前を知るニホン人はそんなにいないし、何しろ私は、こと吹雪の中では"負けない"」
 絶対的な自信を誇るシモ──アサシンに江口は口を歪ませて、豪笑した。
 ──まるで、勝利を確信したかのように。
「よろしく。アサシン」

  ***

 アサシンの召喚より一時間ほど前。
 西夏森の住宅街で、とある女子高校生──須藤 萌香は自宅のリビングでサーヴァントを召喚した。
「我こそは『弓兵アーチャー』の霊基を以て現界したサーヴァントである──ふむ?」
 和風の装束を身に纏い、髭を蓄えた鷲鼻の男。声高らかに名乗りを上げるも、目の前にいる少女を見てアーチャーは目を点にした。
「キサマが、ワシのマスターか?」
「ええ、そうよ」
「こんな小童こわっぱが聖杯戦争に参加するだと? 冗談も程々にしろ!」
 豪笑するアーチャー。その笑いは、マスターである須藤への敬意は微塵も含まれておらず、ただただ若いという理由でアーチャーに軽蔑されている。
 だが、須藤は何も言い返すことはせず、冷たい目でアーチャーを睨みつける。
「ほう? それでもワシを恐れんのか。大した女だ。肝が据わっとるな」
「当たり前じゃない。アナタはわたしのサーヴァントよ。怖気付いたら何も始まらないわ」
「覚悟は一流だが、ワシはそこらのサーヴァントと違って倭人に従う気はないのだ。むしろワシの願望は倭國を滅ぼすことにある。キサマと共に聖杯戦争を勝ち抜く気はない」
 それは、アーチャーによる拒絶だった。
 そもそも、倭人──日本人を憎むアーチャーにとって、須藤でも御するのは難しい。
 令呪を使って強制的に従わせるでもあるが、それは
「だが、こんな小童をすぐ殺めるのもワシの良心に傷がつく。ワシとて女子供を殺める羅刹にあらず」
 ふーむ、とアーチャーは顎に手を当てて考えた。
「ワシを恐れず、睨みつけた報酬だ。一〇分、キサマに時間をくれてやる。その間に家族に対する遺言状を書いたり友人に会いにいく、最後のメシを食ったりして、キサマに残された最期の時間をゆっくり過ごすがよい」
 須藤は怯えることもせず、アーチャーに背を向ける。家族はいない。どうせアーチャーが家にいたところで誰も見たりはしない。
 台所に立った須藤は、冷蔵庫の中から『鮭の切り身』を二つ取り出した。
 手早く塩胡椒をふって、小麦粉に浸した後、熱したフライパンで焼き始める。
「あと五分だ。そんな呑気に飯を作っ──」
 鮭の香りが立つ。リビングのソファーで寝ていたアーチャーが飛び起きた。
「この香り、まさか……」
 こんがりと焼き目がついたソレを持って、須藤はリビングのソファーに向かう。
 アーチャーはソレを釘付けだ。目がソレから動かない。
「いただきます」
 小さく呟いて、須藤はソレを食べる。
「なんだ、ソレは」
「何って、シャケのムニエルよ。食べたくなったから作ったの」
「シャケ……神の魚カムイチェプだと……?」
「もしかして、食べたいの?」
「ワシはキサマを……」
 ぐぬぬ、と美味しそうに食べる須藤を見て、アーチャーは眉間に皺を寄せる。
「寄越せ」
「何? 聞こえなかったわ。もう一度言って」
「二つあるのだから、一つワシに寄越せ」
「よくできました」
 ニッコリと笑顔を見せて、須藤は立ち上がる。
「皿持ってくるからちょっと待ってて」
「器はいらん。棒を一本持ってこい」

 須藤の持ってきた竹串を持って、ムニエルに齧り付く。
 アーチャーは咀嚼する。
「ふむ、なるほど」
 何を考えているのか、顔から判断することはできない。ただ、眉間に皺を寄せてその味を堪能している。
「……美味うまい」
「え?」
「……この、マニャエレ(注:ムニエルの言い間違い)というもの、実に美味だった。キサマを侮っていたワシをどうか許されたい」
 アーチャーは今までの態度から一変し、穏やかな表情で須藤に深々とお辞儀をした。
「え、ええ」
「だが、ワシの願望は倭国の滅亡よ。この聖杯戦争を以て倭國を滅ぼす。それは変わらん。キサマと共に聖杯戦争を駆け抜けてもキサマも同様だから勘違いせぬよう」
「ええ、異存はないわ」
「よろしく頼む、我が主よ」
 
  ***

 夏森中心部。街を一望できるビルの屋上から、男と少年が立っている。
 左に立つ男は、黒い帽子にコートを着ている青年で、右に立つ少年は、小柄で大きいメガネをかけている。
 街を眺める男に、少年はふと気づいたように訊いた。
「何を考えているんだ。ボーッとしてたらやられてしまうぞ」
「いやあ。いよいよ聖杯戦争が始まるなぁ、と思って。妙に緊張感が走らないかい?」
「本当にお前という奴は……。どこまでお人好しなんだ。もしかして馬鹿なのか? まあしかし、俺も物語を書くことしかできない三流サーヴァントだ。まあ今の俺はサーヴァントですらないただの幻霊だがな。いくらお前の列車に乗車してたとはいえ、過度な期待はよしてもらおう」
「何、原稿に締め切りはないよ。僕がこの聖杯戦争で歩む物語を存分に書いてほしい。それがこの聖杯戦争でキミが呼ばれた理由だと思う。そして僕がこうして呼ばれたのにも理由があるハズだ」
 少年は鼻で彼を笑った。
魔術師キャスターじゃないくせに道具作成か。元々は俺のスキルだぞそれ。お前のクラスはなんだ? 騎兵ライダーだろう? いくらなんでも俺のスキルに頼りすぎだ。自分の力でどうにかしろ馬鹿め」
「物書きの先輩だからね。尊敬してやまない先輩の生原稿は読んでみたいものさ」
「青臭い冒険譚は好きじゃないがな。だが、どこまでもお人好しな男の話を書いても悪くはなかろう。……よし、いいぞ! この聖杯戦争でお前の話を書いてやろう。あまりの為体ていたらくさに俺を飽きさせるなよ。賢治」
「はいはい。銀河鉄道呼ぶから、ちょっと下がっててね? 僕は少しこの街を散策しているよ」

 夏森の夜空に流星の如く列車が走る。
 コートの男──ライダーのサーヴァントとして召喚された宮沢 賢治の宝具、即ち──『銀河鉄道の夜ぎんがてつどうのよる』である。

  ***
 
 藤堂 雅和は為体な毎日を送っていた。
 何も変わらない毎日を過ごし、一体何のために生きているのか。
 それでも、宇宙には興味はあって休日は宇宙記念館に行く。
 夜は星を観察し、朝は学校に向かう。
 楽しいことといえば、本当に星を観察することしかなかった。

 放課後。
 テスト期間で、遅くまで学校で勉強してようやく帰路に着いた。
 最寄駅の幸町駅で降りる。いつもの風景と同じだ。何も変わりはしない。
 住宅街が周りにあるため、静かだ。
「ねえ、そこのアナタ」
 声がする方を一瞥する。駅の隅には小さなテントがあって、その中には見るからに怪しいローブを被った女性がいた。
 この人とは関わらないほうがいい。そう本能で察知した藤堂は彼女を無視することにした。
 しかし。
「視える。視えるわ。貴方の未来がわたしには見える」
「恥ずかしいので声をかけないでください」
 冷たく女性を突き放す。
 女性は、不敵な笑みを浮かべたまま
「貴方、今日は運命の日なのね。それが吉と出るか凶と出るか……ふふ」
 ──運命を舐め回すような声。
 苛立ちが頂点に達した藤堂は、とうとう女性を無視できなくなり、
「あなた、何者なんですか?」
「通りすがりの占い師だと思ってちょーだいな。名前なんてわたしには無意味だから」
「は、はぁ」
 怪しい。でも、この人と関わると余計なことが起こるような気がする。
「では、失礼します」
 苛立ちを噛み殺し、藤堂は家路へと戻っていく。
「喜びなさい。貴方の願いはようやく果たされようとしている。わたしにはそれが見えるのよ」
 藤堂は、一瞬足を止めた。
「日常から非日常へ、何でもない日からずっと新たな発見ができるような毎日が欲しければ──せいぜい生き残ることね」
 藤堂はその占い師の言葉をも無視して前へ進む。

 占い師の言っていることは、あながち間違いではなかった。心のどこかでは、この日常を脱却できるような刺激を求めていたのかもしれない。
 超能力すらないのに、言い当てられていたのがあまりにも悔しかった。
 今日は遠回りして帰ろう。少しでも日常を脱却したい。何か新しいものを見つけたい。
「……?」
 近くで大きな音がする。好奇心で足が勝手に動く。
 ふと、頭の中で占い師の言葉がよぎった。
 "貴方、今日は運命の日なのね。それが吉と出るか凶と出るか……"
 ──行っちゃダメだ。
 わかっていても本能には逆らえない。
 ──引き返せ。

 この道のすぐ右から音が聞こえる。
 そこには──

 槍を持った女武者と黒いコートを着た男が対峙していた。男の後ろには少年が立っている。
「我が名は『槍兵ランサー』のクラスにて現界したサーヴァントである! 真名は真田 信繁! そなたは如何なるサーヴァントか!」
 声を高らかに女武者──ランサーは名乗った。
「僕の名前は名乗るに値しない。真田家の次男とここで相見えるとは至極光栄なことだ」
「おい賢治、名乗ってやったらどうだ」
「先生、少し静かにしててくれ」
 ランサーはまっすぐと男を見据える。
「死合う前には最初に名乗りをあげるのが武士道なれば、某は全てのサーヴァントに我が真名をこの日本ひのもとの空の下に晒け出そう」
「僕は武士道を極めたことがないただの教師、いや物書き──いや、僕には肩書きが多すぎていささか名乗りづらいな」
 ランサーは昼行灯な青年を見て、大きくため息をつく。武士道精神に反して、死合う様子がないので調子が狂っているのである。
「それで、そなたの真名は?」
「僕はライダーだ。真名に特に意味はないよ」
 二人の間に流れる重たい空気。いつ爆発しそうかわからない、そんな空気がこの住宅街の路地に漂っている。
「先生、お願いします。少し時間を稼いでください。僕は列車を呼びます。僕らはここでランサーとやり合ってはいけない」
「俺に戦えと? 何を言うんだお前は」
「僕らの目的はあくまでも──、──だ。攻撃手段を持たない僕にとってはセイバー、ランサー、バーサーカーの三騎士は特に相性が悪い。幸村公には申し訳ないが、僕らは撤退しなければならない」
「なんだお前は。何しに来たんだ?」
「五分時間を稼いでください。その間に列車を呼び出します」
「できるかどうかはわからんがやってみよう。それはそうと、列車に戻ったら創作のネタを弾んでもらうからな。鬼め!」
「はいはい、わかりましたよ」
 ランサーは腰を沈めた。凄まじいほどの殺気。
「では……いざ尋常に参る。ご覚悟を、騎兵ライダーのサーヴァント!!」
 ランサーの宣戦布告で、戦いに火蓋が落とされた。
「小夜啼鳥」
 少年の呼びかけに応じて、鳥がくちばしでランサーを攻撃する。
「何だ、この鳥は?」
「身を──いや、魂を粉にして書いた俺の傑作だ。その身で味わうがいい」
 鳥は絶えず、ランサーを攻撃する。
 その刹那、ランサーは少年の後ろに人がいることを認めた。
 
 女武者と男の不毛な戦いを藤堂 雅和は見ている。
 ──あれは殺し合いだ。
 あんなのに介入したら、自分が殺されてしまう。関わらないのが一番だ。そうわかっているのに、目を離すことができない。
 だが、あんな殺気をこちらに向けられたら確実に死ぬ。
 心臓が波打つように跳ね上がっている。
「に、逃げなきゃ……」
 ようやく身体が動くようになったその瞬間。
「ぐ──!!」
 背中から激痛が走った。

「かたじけない。聖杯戦争のことは一般人には知られてはならぬ。某とて、そなたを殺めたいわけではなかった」
 ひゅー、ひゅー、と音がする。
「六文銭の誓いにかけて、せめてそなたは極楽浄土へ逝けるように、ここに祈りを捧げておこう」
 うまく空気が吸えない。胸を貫通している。

 ──ふと、月を見る。
 身体が、心が、魂が、紅に染まっていく。

 ──これは死だ。

 月が嘲笑っている。
 これは運命なのだ。ここで死ぬことが確定していたような。
 最後くらいは微笑んでくれてもいいのに。

 懇願する気持ちで、藤堂は月に手を伸ばす。
 ──届かない。

 それでも手を伸ばす。
 ──でも、届かない。

 眠くなってきた。
 最後の力を振り絞って──。

 瞬間、眩い光が辺りを包んだ。
「この気配……剣士セイバーのサーヴァントか!」
 オレの目の前に居たランサーは、トドメを一撃を刺すのをやめ、一歩身を退いた。

 光が止んだ時、ランサーと藤堂の間には、一人の小柄な少女が立っていた。

「s64、3uqt@0qdkjrq3w@rt?」

 少女は藤堂を一瞥して、ランサーを睨みつける。
「問おう! 汝は如何なるサーヴァントか! 我こそは槍兵ランサーの霊基で現界した真田 信繁なり!」
「4.xe、4.xe4.xe4.xe4.xe」
 少女は鬼のような形相でランサーを睨みつける。瞬間、ランサーの顔が強張り始めた。
「……ぐぬぬ、なんだこの頭痛は……」
 ランサーは苦悶の表情を浮かべ、その場から立ち去った。
 その場に残された少女は、藤堂の方へと駆け寄る。
 何も言わず、肩を揺する。
 ──しかし、反応はない。
 人間のやっていたように鼻に手を当てたら、彼は生き返るだろうか?
 しかし、鼻に手を当てて
「キミがセイバーだね?」
 少女はライダーの方を見るやいなや、再び鬼のような形相で睨みつける。
「6j5mdiqet?」
「いや、僕はそんな意図があるわけじゃあない。そのマスターを助けたいんだ」
「s@4e4bsq@?」
 ライダーの言葉に耳を傾けるセイバー。
「僕を信用してほしい。決してキミを裏切ったりはしない」

『銀河ステーション、銀河ステーション』
 という音と共に、後ろから列車がやってきた。
「ケンジ! アンデルセン! 迎えに来たよ!」
「何してるんだよー! 早く行こうよ!」
 車窓が子ども二人が手を振っている。
「今乗るから少し待っててね。カムパネルラ、ジョバンニ」
 車窓の子どもたちに声をかけたライダーは、セイバーに手を差し伸べる。
「もしも僕を信じられるようだったら、列車に乗ってほしい。列車の中ならキミたちを保護できる」
 セイバーは思案する。ここでもしもこの男の誘いを断れば、マスターが死んでしまうかもしれない。
 でも、意思疎通できる人間はいない。ここはこの男の誘うに乗るしかなさそうだ。
 セイバーはライダーの手を取った。
「よし、じゃあキミのマスターを列車に乗せるのを手伝ってくれると助かる」
 ライダーはセイバーに列車の入り口を指差した。

To be continued...


○CLASS:ASSASSIN

マスター:江口 翳郎
真  名:シモ=ヘイへ
性  別:男性
身長体重:152cm・54kg
属  性:中立・中庸

筋力:B     魔力:D
耐久:C     幸運:A+
敏捷:A     宝具:A+++

[クラス別スキル]

寒冷適応 EX:どれだけ寒い気候だとしても的確な判断や戦闘、そして気配を消すことができるスキル。このスキルがあってか、気配遮断に該当スキルは存在しない。吹雪の中でのみ、気配遮断はEXクラスとなる。

単独行動 A+:マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクA+ならば、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合ではない限り単独で戦闘できる。


[固有スキル]
 
射撃 EX:銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。彼の持つ銃器の才能はもはや神域に達している。


[宝具]

『殺戮の丘に白き死は現りて(コッラ・ケスター)』
ランク:EX    種別:結界宝具
レンジ:??    最大捕捉:??

 シモ・ヘイヘの持つ第一宝具。聖杯戦争が開催された季節の問題により、万が一『寒冷適応 EX』が発動できなかった場合にのみ使用可能の宝具。あたり一面の地形を保存したまま季節を強制的に冬にする宝具。季節が冬になった場合、半径12km以内にシモ・ヘイヘが潜んでいるということになる。この宝具を使うのにはかなり魔力が必要なので必ず仕留める時にしか使用しない。

『???』
ランク:A++   種別:??
レンジ:??    最大捕捉:??

 現時点では詳細不明。


  あとがき

 どうも、カガリです。
 やってみたかったFateの二次創作です。テキトーに楽しんでください。
 型月世界による分岐点はありません。完全にオリジナルです。
 裏話ですが、鮭のムニエルを作ったのは須藤さんなりの命乞いです。最初からアーチャーに対して鮭のムニエルをあげるつもりでいました。初見で須藤さんはアーチャーの真名を看破したので、一か八かの賭けに出たということですね。気丈に振る舞っていましたが、実際彼女は怖かったと思います。
 アサシンのマスターである江口 翳郎ですが、これはスターシステムによる彩の旅のシエロです。絵に起こすと、シエロとほぼほぼ同じ外見になります。娘の彩花はヴァリです。
 セイバーのマスターである藤堂 雅和もスターシステムです。後々『星の大海』という小説を出す予定です。

 この作品は、Fateシリーズの二次創作です。原作との細かい設定齟齬が生じている可能性があります。平にご容赦ください。
 多少ギャグっぽく進行します。シリアスなシーンも用意しておりますが、作風に慣れない方はブラウザバックしてください。
 なお、一応、大まかな設定は借りておりますが、本作のキャラクター設定は全て篝 永昌が致しました。盗用や流用は禁止といたします。

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