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2/15(土)16:32

「うは、できた、最高チョコレートケーキ」
今朝コンビニに煙草を買いに行くついでに発見した、バレンタインが過ぎたことで値引きされていたチョコレートケーキ。その上に医者から先日処方されたばかりの抗うつ薬をマーブルチョコレートの如く散りばめて完成した、オリジナル作品だ。暗褐色の三角柱に不規則に散らされた白い円形の錠剤が、良いコントラストを取っているようで絶妙に共存していない異色の存在感を放っていた。
「新感覚OD。やっぱ季節は大事だよね」
床に積まれた書籍や書類、脱ぎ捨てられた服を踏まないようにキッチンへと向かい、フォークを取り出すと、そそくさと元居た場所へ向かった。が、その刹那、数歩目で足を置いた紙がつるりと床と摩擦し、私の体は大きく左へ傾いた。
床に体を打ち付けるようにガチャンという大きな音を立てて尻餅を着いた私の目に飛び込んできたのは、床に自由落下した、先程までチョコレートケーキだった何かだった。B5の書類全体にその身を委ねたチョコレートは右上のブルーバックの顔写真をスタンプの如く隠し、その下に書かれた、たった数行の学歴にペンキを塗りたくったかの如く覆っていた。載せていたマーブル抗うつ薬が周りをぱらぱらと雪のように彩っていたのも風情が合って丁度良く見えた。
「まぁ…いっか」
途端にチョコレートのことなどどうでもよくなった私は、重い体を起こすと再びキッチンへと向かった。そして電子レンジの上に積まれていた大量の缶詰の買い置きから蟹缶を取り出し、コンロ近くの調味料棚から味の素を手に取った。缶を開けて顕になった薄紅のそれが無臭だった辺りを潮の匂いで塗り替えていく中、私は味の素を饂飩に七味唐辛子を振りかけるようにその身を空に落とした。それも何振りも。先程の雪のような抗うつ薬とはまた別の形で粉雪のように薄紅へ降り積っていく白い粉々に、瓶に描かれた赤いパンダの笑顔も少し気まずそうに見えた。
「できた、太宰治概念」
そう呟くと私はコンビニでセルフレジから持って帰ってきたプラスチックのスプーンを棚から取り出し、一口掬って口へ運んだ。微かに海原を感じさせる潮のような蟹の風味が存在していたが、直後それを蹂躙するかのような旨味の弾幕射撃が口内を刺激した。これまた真っ白い雪のように染まっていく頭でぼうっとしながら頭上に備え付けられた換気扇を眺めた。
「あぁ就職するなら味の素がいいなぁ、ホワイトって聞くし」
スプーンをシンクに置いて書類を踏まないようにベッドに戻ると、そのままマットレスへ身を預けた。ちらりと下に目をやると脱ぎ散らかされていたスーツが目に入ったので、日を浴びていない日数を数えていたが、百を超えたところで眠りについた。

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