柊 冬夏

ひいらぎ とうかです。感想ください。

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最近の記事

私の理解する世界

ある日、こんな夢を見た。 水色の絵の具を天高く絞り出したかのように青く済んだ蒼穹。綿菓子のように浮かぶ雲々。堅牢なコンクリート造りの校舎のある一室で、パンを片手に、着席している男が一人。その周りには派手派手しく服装を乱した女が数名。チョークの文字が消えかかっている黒板、秩序を無くした椅子に目も昏れることなく、いつものように過ごしている、昼休みの時間。 私は手元で練り消しを練りながら、半ば意識を飛ばしつつ男達の姿をぼうっと眺めていた。 「…ねえ、だからね、私の愛情全部あげるよ

    • la if

      凪いだ海に小石が一つ、投じられるような感覚だったのをよく覚えている。 惰性で生きる中で思いつきで入れたマッチングアプリ。脳死で右スワイプを繰り返す中、私はずっと会いたかった人に画面越しで再会した。 私にとってその人は、唯の同じ高校の男性などではなくて、たとえ同じ高校の出身者の中でも他の人とは一線を画すような、私達とは別次元に存在しているような、言うなれば私の元に舞い降りた神様のような存在だった。相手がそうは思っていなくても、私は生きることを辞めたがったあの時から、彼のことをず

      • 少女Aについて

        私の中には私が2人いた。 片方の私は理性的で、如何なる時も物事の最適解を見つけることに苦心した。もう片方の私は本能的で、承認欲求に脚が生えて歩いているかのように愛を希求した。人間であれば誰しも二面性や本能と理性があるものだが、私はそれが生まれつきなのかかなり顕著なものだった。 私の頭は眠っていない限り、まるで新品のモーターのようにいつでもフル回転していた。常にあらゆることを考え続けた。中でもとりわけ私が思考に労力を割いたのは、間違いなく対人コミュニケーションに対してだった。

        • 私が私であるために

          リストカットは数年前に辞めた。と言うより辞めさせられた。 止血が間に合わずどくどくと止めどなく溢れ出す血液を親に見られてしまった。それがいけなかったのだ。もともと鋏やナイフではなくカッターでしか上手く皮膚を切り開けない性分だったので、当然のように廃棄を言い渡されたことで、私は泣く泣く手首を切り開く手段を手放すこととなった。 いざ辞める時は思い切って、カッターを新聞紙とセロハンテープで包み込んでごみ箱に捨てたものだが、自身の左手首の上にかつて鋭利な刃物を血管に沿って縦に滑らせた

          麻薬を砂糖で塗して

          魔法少女に憧れていた。 ピンクのドレスを風に靡かせ、他人に幸福を与える存在。魔法少女は他人を幸せにしないと魔法少女としてのアイデンティティを失う。皆の幸せを願って生かされている存在。それでも私は皆が笑顔になることを願う魔法少女になりたかった。 「愛華、あのさ」 ある日同じクラスの男友達に話しかけられた。 彼は今年からの付き合いではあるものの、移動教室などを共にしているうちに意気投合し多くの会話を交わすようになっていた。昼食を一緒にとることもあり、毎日のようにメッセージのやり

          麻薬を砂糖で塗して

          Boy meats girl

          最初は、意外と食べられるものだなと感じた。 簡単に歯は通るが簡単には噛みきれない硬さと柔らかさの中間にいるような弾力。半分凍ったフルーツのような噛み心地に一口噛んだだけで腰から脳へと登っていく何かで体が支配される感覚に溺れそうになる。ラム肉と牛肉を混ぜたような風味に筋の通った肉質。一口一口に世界三大料理の旨味が詰められたような幸福感に私はロマネコンティを空けて舌鼓を打ったものだ。芳醇な葡萄の風味に歯ごたえもあって深みのある肉の味は今でも忘れられない。この幸福こそが、大天使ミカ

          Boy meats girl

          Which is the pest?

          理由なんてものはない。小さい頃から自分が大嫌いだった。 才能なのか地頭によるものなのか、自分が自分のことを嫌っているという感情や意思を更にその上に重ねて上から眺めて考えることが出来た。そうやって変に客観的に自分を見られたせいで、その傾向は歳を増す毎に加速した。自分の意思、体、顔、素粒子から思考に至るまで自分を構成している全ての要素が頗る嫌いで、自分で自分を否定し続ける人生だった。 数ヶ月前まで働いていた、繁華街の居酒屋。ホールに立って接客をする中でもその意志薄弱さと弱さを捨

          Which is the pest?

          酒と煙草とセックスでしか語れないなんて雑魚

          「ではこれで、様子を見ましょうか」 「はい」 「では次の来院は1ヶ月後で、お大事に」 テンプレートな会話を医者と展開し、私は診察室を後にした。 白を基調としたクリアな廊下をふらふらと歩きながら考える。家にエビリファイが23錠、今日処方された分が1ヶ月分と頓服で70錠、次の診察までに2回はODが出来るだろうか。市販のデパス等も含めれば、もう少し出来るかもしれない。自傷の回数を勘定するなんて馬鹿げた話かもしれないが、私にとって生きる意味などこれしかなかった。どれだけ苦しんだとして

          酒と煙草とセックスでしか語れないなんて雑魚

          生きるために殺す君

          「私のこと、好き?」 彼女は時折、僕に暴力的な言葉を投げつける。 「好きだよ」 まるで脳内の辞書をそのまま読み上げるように、僕はお決まりの言葉を返す。 ベッドに座る僕の膝にその頭を置いて微笑み、恍惚に溺れた表情をする彼女。漆のように長く艶やかな黒髪を僕の太ももからマットレスに向けて垂らし、短く整えられた前髪からは磁器のように美しく白い肌が見え隠れしている。繋がっては解けて、時に巻かれている、程よく乱れた髪。肩紐が落ちて細長く伸びた鎖骨がワンピースの隙間からちらりと見えている

          生きるために殺す君

          白と赤

          「君はそこで何をしているの?」 降る雪の止まない薄明の時間、大通りを少し逸れた薄暗い小道に1人の少女がいた。 「今日は終わったから帰るの」 その少女は道端に広げていた小さな絨毯ほどのレースの布を綺麗に折って畳み、置いていた金属製の小さな丸い箱をゆっくりとリュックに入れた。持ち上げた段階でゲームセンターのコインのようにジャラジャラと姦しい音を立て、中に硬貨のようなものが入っていることは見ずとも明白だった。 だがそれ以上に僕の目を引くものがあった。彼女の左腕、左手首からは鮮血がつ

          落花

          花の周りを蝶が飛ぶ。 その緩く儚い様はまるで水のようにしなやかで、花のように麗しく、道行く人を魅了する。 私もそうなれたなら、どれ程幸せだっただろう。 花のような笑顔、水のように透き通った声、天真爛漫、その全てが私のものであったなら、どれ程救われたことだろう。 緑を踏み締めた。靴がさしゅっと重い音を奏でた後、その音符は空に放り出され空気と同化した。私はそれを何度も繰り返し、森の中を歩いていく。昨夜雨が降ったばかりであるからか、緑は私の靴を湿らせ、独特の不快感が足から湧き上