鏡征爾

小説家。講談社BOX新人賞(『メフィスト』姉妹誌『ファウスト』後継)で初の大賞を受賞† 東京大学博士課程→東京大学研究員 †サイバネティクス/情報芸術論† 御依頼等▶︎ kagamiseiji@gmail.com

鏡征爾

小説家。講談社BOX新人賞(『メフィスト』姉妹誌『ファウスト』後継)で初の大賞を受賞† 東京大学博士課程→東京大学研究員 †サイバネティクス/情報芸術論† 御依頼等▶︎ kagamiseiji@gmail.com

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1.ちいさくても良い。ちいさいからこそ良い。

1.ちいさくても良い。ちいさいからこそ良い。 これまでの創作の経験から得た第一の気付きは、ちいさくても良い、ということ。 自己完結できる最小単位の世界だけに心を向ける。 たとえば、名前や規模や影響力の大きなものがある。近くにそういったものがあると縋りたくなるが、他者も権威も、自分のものではない。 自分のものではないものの力を借りようとするのは、借金と同じ。利子は巨大で、取り立て屋が始終あなたを責め立ててくる。 そんな世界で生きたいですか。 もちろんうまく拡張させる

    • 人間機械論

      サイバネティクスの始祖N.ウィーナー再読。 人間を機械と等値するノイマン・パラダイム的な見方に対し憂慮を示したはずの晩年の著作が、人間機械論と訳されてしまったことが逆説的な状況をあらわしている。 攻殻機動隊に繋がる思想はベイトソンの影響が大きいという見解です。 其処から今に至るまで人間=コンピュータと等値する機械論的世界観に対し、個人の主観性を重視する科学的思想はあまり育ってこなかったように思う。 だからこそ私はいまオートポイエーシス論に可能性を感じるのです。 情報

      • 焦がれた相手を葬り去るたったひとつの冴えたやり方

         山手線の列車で暴漢に襲われ怪我をした。顔面は裂傷しているが大したことはない、問題は頭部の損傷で大事に至らなければいいがと言われた。  美しい楕円状の筐体に入りながら、私は奇妙な安心感にとらわれていた。顔は最悪皮膚移植で何とかなるだろう。しかし出血がある場合、このまま昏睡状態に陥りかねない。連続的に回転しながら水素原子をコンピュータ上に再現する近未来的な機具に身を委ねながら、私は小さく溜め息を吐いた。   「愛は元素記号に還元されない」  あなたの肉体は主に十一の元素記号で構

        • 『雪の名前はカレンシリーズ』あとがき:誰にでも忘れられない夏がある。

          『雪の名前はカレンシリーズ』(著・鏡征爾/絵・Enji) https://www.amazon.co.jp/dp/B08P4M4WCK/ より抜粋: ――――――――――――――――――――――――――――  あとがき      誰にでも忘れられない夏がある。それはおそらく十代の頃だ。    十代の頃に読んだそんな蔵書の一節を、いまでも覚えている。十代の頃、すべてを手に入れているような錯覚と、すべてを失っているような焦燥に、駆られていたのを覚えている。光に手をかざすと、指先