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書評:グリーンケミストリー
読んだ本
Paul T.Anastas, John C.Warner 著、日本化学会・化学技術戦略推進機構 訳編、渡辺正・北島昌夫 訳、グリーンケミストリー、初版第4刷、丸善、2002年、124頁.
分野
グリーンケミストリー、環境化学、合成化学
対象
グリーンケミストリーに関心のある合成化学者
評価
難易度:易 ★☆☆☆☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★★☆☆ 良
総合評価:★★★☆☆
グリーンケミストリーの入門書
内容紹介¹
“物質を設計し、合成し応用するときに有害物をなるべく使わない、出さない化学”。この21世紀を貫くキーコンセプト、グリーンケミストリーについて、その必然性・哲学・着眼点・具体例をわかりやすく述べた教科書。
感想
SDGsとやらが声高々に叫ばれる現代、化学者もその潮流から逃れることはできなくなってきている。というよりも、多くの社会問題の原因は化学にこそあり、ある意味当然の流れではある。したがって、”グリーンケミストリー”という概念は避けて通れなくなっている。ただ、本気で環境問題を解決するため、というより、開発した合成法の箔をつけるために使われていると感じるのは私だけだろうか。何を隠そう、私自身が本気でグリーンケミストリーに取り組んでいるわけではなく、後付けでグリーンケミストリーを騙っている。全員がそうとは言わないが、グリーンケミストリーという思想に殉ずる化学者は少ないように思われる。だが、裏ではどう思っていたとしても、定義も知らないでグリーンケミストリーを騙るのはどうなのかと思い、当書を読んでみた次第である。
まず、原著の著者のPaul T. Anastas氏は、グリーンケミストリーという概念を提唱したFather of Green Chemistryであり、その道の権威である。彼は博士号を取得した後、米国環境保護庁 (EPA) に入庁した役人上がりであり、見るにセントラルサイエンスに否定的である。純化学者との思想のずれはここからきているのか、と納得した。しかし、だからこその視点があり、言われれば当たり前だが、言われないと気付かなかったからこそ社会問題が山積したのだろう。
当書の基軸はPaul T. Anastas氏の提唱したグリーンケミストリー21箇条であり、それだけならばネットで調べればいくらでも情報はでてくる。ただ、その後に実例を織り交ぜた解説が簡潔になされており、合成化学者が理解しやすい書き方になっている。はっきりいって、環境問題がどうのこうの、条例がうんぬんかんぬんと書かれても、合成化学者は眠くなるだけである。しかし、当書では転移反応や付加反応の利点であったり、溶媒や原料の選択といった、かなり合成化学者にむけたメッセージが込められている。したがって、当書には単なる思想表明では終わらない価値がある。ほぼ新書サイズで頁数も少ないので、簡単に読み切ってしまうので、グリーンケミストリーの概要を知りたい人にはおすすめできる。
購入
当然ながら絶版。ただし、中古で数百円で購入可能。