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書評:有機分子の分子間力


読んだ本

都築 誠二 著、有機分子の分子間力: Ab initio 分子軌道法による分子間相互作用エネルギーの解析、初版、東京大学出版会、2015年、298頁.

分野

量子化学、物理有機化学、計算化学

対象

有機化学、計算化学系の研究室に配属されたB4, 修士以上

評価

難易度:易 ★★★★☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★★★☆ 良
総合評価:★★★★☆

分子間力を学ぶならこれ

内容紹介

 $${\textit{Ab initio}}$$ 分子軌道法は、計算機の進展により分子構造、反応機構、励起状態など種々の研究で広く使われるようになっている。読者が独力で分子間相互作用を解析できるよう、具体例を示しながら分子間力や計算方法について体系化したテキスト。(1)

感想

 ひと昔前の有機化学であれば、クーロン力とパウリ反発さえ分かっていればなんとかなっていたものの、今では軌道論や分子間力の理解は必要不可欠である。特に近年は、不斉反応などの選択性に関する課題に対して、分散力などの弱い相互作用を用いてエレガントに解決する手法が増えてきた。ノーベル化学賞となった有機分子触媒は、まさに分子間力(水素結合など)が肝となる分野である。
 しかし、理論嫌いが多い有機化学者にとって、分子間力は仄かな量子化学の香りが漂うため、苦手意識をもっている人は少なくない。結果として、聞き齧った"分散力"や”水素結合”や”π-π相互作用”をよく理解せずに使っている人が多い。これらの3つは分子間力の中でよく聞くワードであるが、これらは決して並べて語ることができる概念ではないことに注意する必要がある。
 著者が本文中で述べているように、分子間力には静電力や分散力といった物理化学的な原因による分類と、水素結合やπ-π相互作用といった構造的特徴に基づく分類の2種類に大別される。そして、多くの (実験系) 化学者はこの違いを認識しておらず、結果として分散力と水素結合などをごちゃまぜで語ってしまう。これは世に散らばっている教科書も同様で、特に生物、薬学、有機化学系の教科で分子間力の分類を意識して書いている書籍は (ほぼ) ない。したがって、このことを理解していない人は、いますぐ当書の第1章を読むべきである。個人的には、この第1章だけでも十分すぎる価値がある。
 第2章以降は、どちらかというとデータ集のようなものになる。例えばπ-π相互作用の計算に対して計算レベルが与える影響や、π-π距離、角度といった様々な視点から分子間力に関するデータがそろっている。実際、私がπ-π相互作用を用いた不斉反応を開発する際に、これらのデータは大変参考になった。

購入

学部生の頃、計算化学の先生におすすめしてもらって購入した書籍。知識が全くなかったあの頃から、今でも常に役立つ書籍で手放せない存在。星4か星5かでかなり悩んだが、ニッチすぎるのと、”本”というには些か論文チックなので星4とした。

参考サイト

  1. 有機分子の分子間力 - 東京大学出版会

  2. Microsoft Word - 07(1)_書評_rev.docx


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