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書評:反結合性軌道の役割


読んだ本

M Orchin, H. H. Jaffe 著、米沢貞次郎 訳、反結合性軌道の役割、第1版第7刷、東京化学同人、1979年、102頁、(現代化学シリーズ, 53).

分野

量子化学、分子軌道法

対象

学部生以上

評価

難易度:易 ★★★☆☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★☆☆☆ 良
総合評価:★☆☆☆☆

単なる量子化学の本

内容紹介

分子軌道法の概念は、すでに化学の領域において、ほとんど定着したといって良く、化学反応を始め種々の現象を理解するために極めて有用となっている.。反結合性軌道の役割”と題する本書の意図は、結合性軌道に比してとかく注意が向けられなかった反結合性軌道が、結合に、反応にいかに貢献しているかを示すことによってそれに興味を向け、分子軌道理論の理解をさらに深める点にあると思われる。特に分子の励起状態の性質を理解するためには反結合性軌道をぬきにして考えることは不可能であるし、また金属が結合に関与する様な場合しばしばこれが結合の安定化に寄与することが知られており、その重要性を認識することは甚だ大切なことである。本書は五章より成り、まず分子軌道法の若干の原理を理解するために必要な適当な背景の説明 (第一章 :原子軌道 論ならびに分子軌道論) から始まり、N2、02、COの様な二原子分子の構造の説明 (第二章: 二 、三の二原子分子の構造)、反結合性軌道がその構造や性質に深く関与している点で豊富な実例を提供する金属カルボニルについて (第三 章 :カルボニル錯体の構造と赤外線吸収スペクトル)、反結合性軌道が中心的役割を演ずる分子の励起状態の性質および反応性に閧するトピックス (第四章 : 紫外線吸収スペクトルと光化学)、そして最後は励起分子における被占反結合性軌道が反応の経路を決定するエレガントな例としてWoodward−Hoffrnann則を挙げてしめくくっている (第五章: 電子環式反応におけるWoodward−Hoffmann則)。本書は100頁足らずの小冊子であるが、以上の内容が極めて簡潔にまとめられており啓蒙的な好書である。

広部雅昭 ja (jst.go.jp)

感想

 量子化学の成書は、和書に限っても腐るほど存在している。しかしながら、反結合性軌道に焦点を当てて書かれたものは珍しい。少なくとも、私は当書の他を知らない。そのため、読む前は非常に楽しみにしていたのだが、いざ読んでみてがっかりした。はっきり言えば、単なる量子化学の本との違いがあまり感じられなかった。第1、2章は、原子軌道や分子軌道に関する説明で、中身は一般的な他の成書と同じである。第3章以降はカルボニル錯体や光化学、Woodward-Hoffmann則についての説明がされ、この点では他の成書との違いが表れている。しかし後半は駆け足でそれぞれの応用分野の説明がなされ、はっきり言えばそれぞれの分野の専門書を読んだほうがいい。
 つまり、一般的な量子化学の教科書と、光化学、有機軌道論などの教科書を一緒くたにし、100頁まで濃縮したのがこの本である。”簡潔”と言えば聞こえはいいが、はっきり言って当書で何かを理解しようとするのは難しい。また、後半の応用分野も統一性がなく、まるで自分の好きな食べ物だけ食い散らかしているようだ。ただ、どうやら訳者も似たようなこと感じたらしく、以下のように述べている。

~ただ、このような観点にたってさらに多くの化学的現象(単に錯体の分子構造、励起状態の反応以外)との関連についての記述があればより刺激的なInstructiveな著書が得られたのではないかと思われる点もないではないが、著者らの意図は序言にもあるように、そのような総括的記述ではなく、読者にさらに広く学び考えようとする意欲をおこさせるところにあるのではないだろうか。

訳者序

普通、訳者序では中身をべた褒めするのが普通である。しかし訳者の米澤先生は、若干貶した書き方をしている。最後に多少擁護はしているが、流石に苦しさが隠しきれていない。
 はっきりいって、令和で当書を読む価値は感じない。現代で同様のタイトルの書物を発行するのであれば、せめて超共役やσホールなどに対する記述が欲しいところである。

購入

どこで購入したのかは定かではない。現状、値崩れしているので数百円で買える。

参考サイト

  1. ja (jst.go.jp)

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