放送大学「量子物理学」第1回の解説
第1回 量子論の誕生から量子力学へ
もし、私が講義したら、、、という記事です。
1.ニュートン力学→解析力学→古典論
解析力学は、「最小作用の原理」から、全てが出てくる一貫した理論で
「ラプラスの悪魔」という逸話があるように、決定論です。
また、速度を合成すれば、いくらでも速い速度になります。
(運動する系の変換は、ガリレイ変換)
この解析力学と、マクスウェルの方程式をベースにした電磁気学を
合わせて古典論と呼びます。
電磁気学では、電子が加速度運動すると、電磁波の形でエネルギーを
放出します。
円運動であれば、シンクロトロン放射と言い、
角運動量が減っていって、回転半径が、どんどん小さくなります。
2.古典論の破綻→相対論・量子力学へ
1900年近くになって、この古典論と実験事実が合わないことが
出てきました。
その1つは、マイケルソン・モーレーの実験で
「光の速度に地球の速度を足しても不変であること」
また、ラザフォードが実験で、原子核の存在を発見した結果
「原子が安定である(電子が原子核に落ち込んでしまわない)こと」
そして、レーリージョーンズの理論で、古典論の矛盾
「黒体輻射のスペクトルの強度(明るさ)が波長→0で∞になること」
が、明らかになりました。
その結果、光速度不変=自然界に最大速度があることから、
慣性系の変換がローレンツ変換である相対性理論が生まれました。
また、黒体輻射の分布関数が 1/{exp(hν/kT) - 1} になることから
解析力学で言う作用(=運動量x移動距離=エネルギーx持続時間)
に最小値「プランク定数」があること、
光子は、互いに区別はなく、かつ個数が保存しないことが言え、
(もし、光子に区別があり、かつ個数が保存しないならウィーンの式
区別がなく個数が保存する古典的粒子ならレーリージョーンズの式
が成り立ちます)
その結果、量子力学が生まれました(歴史的には紆余曲折があります)
補足:
「原子が安定である」のは、電子が束縛状態では、
波動関数の時間成分が ψ(t)=exp(iEt/h') となり
=時間変化はないので、山谷の運動がない
したがって、シンクロトロン放射は生じない からです。
3.前期量子論
アインシュタインの「光電効果の実験」に対する光量子説と、
固体の比熱の温度変化の理論(詳しくはp161参照)が貢献しました。
前期量子論自体は、「月火水は粒子で考え木金土は波で考える」
と言われたように首尾一貫した理論ではなく、
それが、発展的解消を遂げて、量子力学になったわけです。
量子力学は、前期量子論を研究して行った延長ではないです。
なので、前期量子論に長々と触れるつもりはありません。
ボーアの原子模型は、水素の離散スペクトルを説明するもので、
電子に飛び飛びの「軌道」があって、その軌道の条件は、
ゾンマーフェルトの「量子化条件」で決まるとするものです。
それが、ド・ブロイの「物質波が閉じる条件」で説明されました。
4.量子力学の確立(行列力学と波動力学とその統合)
ハイゼンベルクの行列力学は、水素原子の準位間の遷移を
行列で表すことを発展させ、解析力学のポアソン括弧に似た
ハイゼンベルクの方程式(ハミルトニアンをH、物理量をq)
∂q/∂t = 1/ih (qH - Hq)
が成り立つとしたものです。
一方のシュレーディンガの波動力学は、ド・ブロイの「物質波」
が従う方程式を求めて、E^2=(pc)^2 + (mc^2)^2 での検討を経て
シュレーディンガ方程式(ハミルトニアンをH、pを -ih'∂/∂x )
ih'∂/∂t ψ(x,t) = Hψ(x,t) = (p^2/2m + V)ψ(x,t)
が成り立つとしたものです。
この2つが実は、同じものであることを、最初に証明したのが
ディラックで、「変換理論」と呼ばれます。
変換理論自体は難解ですので、説明しませんが、
状態ベクトルを使って、波動関数を定義し、
それがシュレーディンガ方程式に従うとすると
ハイゼンベルクの方程式は、比較的容易に導出できます。
(詳しくは、清水明「新版量子論の基礎」p189 参照)
補足:
「変換理論」の厳密な証明は、
フォン・ノイマンによって「一意性定理」の証明という形でなされました。
一意性定理を一口で言うと、
有限自由度系における正準交換関係の既約表現は、
全て「シュレーディンガ表現」とユニタリ同値である。
ということです。
既約表現やユニタリ同値の説明は、清水明「新版量子論の基礎」p127 参照