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メルケル首相の退任セレモニーとスピーチ〜心に明るさを持って

グーテンターク!皆さまこんにちは。フランクフルトのYokoです。

昨日はついに4期16年、ドイツ連邦首相、ブンデスカンツェラリン(カンツェラーの女性形)の退任式が行われました。日本でも報道されていましたね。

セレモニーのハイライトはうまく編集されていますが、どうしても泣かせたいといいますかセンチメンタルな側面とニナ・ハーゲンの選曲に焦点があたっていました。

なので私のnoteでは退任式のセレモニーのユニークさと格式の高さ、それからメルケル首相のスピーチについて書いてみます。

まずメルケル首相の退任式はドイツ連邦軍 によるGroßer Zapfenstreich という軍楽のセレモニーで軍の最高の格式で執り行われました。

英国風だとミリタリータトゥー(もとは帰営ラッパ)でしょうか。行進と軍団ドリルの要素が入っています。エンタメ感は少ないのですが、夜松明をかざして行進する兵士の姿は勇壮で厳粛な雰囲気です。所作やドイツ語による掛け声も独特ですし、普段なら緑のベレー帽なのにヘルメットだから尚のこと軍隊の儀式であることが強調されます。

よかったらこちらの動画で雰囲気を感じでくださいね。式典は大きく3つに分かれメルケル首相の退任スピーチ、メルケル首相が選んだ3曲の演奏後にGroßer Zapfenstreichが続きます。

さてGroßer Zapfenstreich のグローサーは偉大なという意味なのはわかりますがツァプフェン•シュトライヒは”栓をなでる”が直訳です。

変わった名前ですよね。これは16世紀のランツクネヒト(傭兵)時代に遡り、ワインやビールの栓をサーベルでなでて夜の休息としたことにはじまります。当時騎兵はトランペット、歩兵は笛と太鼓で帰営したそうです。この慣習が19世紀に祝祭としての儀式となりました。現在の音楽行進の原型は1838年に遡ります。ベルリンで、ロシア皇帝を讃えるコンサートの最後に初めて演奏されたことが始まりです。

この儀式はいつも夕方に行われます。兵士たちはベートーベンの「ヨルクの行進」の音に合わせて行進、フォーメーションの後には、表彰される人物へのメッセージが表渡されます。

第2部はセレナーデで、表彰される人が選ぶことができる3曲を軍楽隊用にアレンジして演奏、メルケルさんが選んだ曲の1つがニナ・ハーゲンのDu hast den Farbfilm vergessen でした

第3部がGroßer Zapfenstreichです。1922年から最後を飾ることになった伝統セレモニーです。

寒そうですが…🥶全神経を指揮官の合図に集中させる兵士の方々の緊張感とレベルの高いパフォーマンスに引き込まれました。

脱帽ならぬ、脱ヘルメットでメルケル首相に敬意を表する兵士の皆さん

この後、撤収の報告を首相に口頭で述べるのですが、敬礼後最後に一瞬口元が微笑まれるシーンが印象的でした。メルケルさんも頷かれ互いの職務への敬意と労りが感じられてじんとしました。

写真もこちらのサイトにあるのでご覧くださいね。

さて最後に式メルケルさんのスピーチの意訳を掲載します。私が特に印象に残ったのは民主主義に関する言及、相手の目を通して世界を見て利益のバランスをとることやドイツ国民の心の明るさを願うという部分でした。

親愛なる連邦大統領閣下
連邦議会議長の皆様
閣下
淑女の皆様、紳士の皆様
親愛なる市民の皆様

本日、皆様の前に立ち、私は何よりもこのことを感じています。それは、感謝と謙虚さです。長い間、役職に就くことを許されたことへの謙虚さ、そして、経験することを許された信頼への感謝です。信頼とは、政治の世界で最も重要な資産であると私は常々認識しています。それは自明のことではなく、私は心の底からこのことについて感謝しています。
また、連邦大臣である親愛なるアンネグレット(注クランプ=カレンバウアー国防相)、そしてドイツ連邦軍の皆様にも感謝いたします。私たちの歴史の中で非常に重要な場所であるベンドラーブロックで、グローサー・ツァプフェン・シュトライヒを開催していただきました。また、パンデミックという厳しい状況下で演奏をしてくださるドイツ連邦軍音楽隊にも感謝いたします。
私は同時に、パンデミックの第4波に全力立ち向かい、命を救い、守るためにすべてを捧げている人々のことを考えたいと思います。これらの方々には私をはじめとする私たち全員が特別な感謝と最高の評価を捧げるべきです。

今日、私は各州の政府代表とともに、パンデミックに関する協議を行いました。その数時間後、私は連邦首相として16年の歳月を経て、この厳粛な場で皆様に別れを告げる光栄に浴しました。この一連の流れほど、私たちが今生きている時代がいかに素晴らしいものであるかを示すものはありません。

連邦首相としての16年間は、波乱万丈で、しばしば非常に困難な年月でした。政治的にも人間的にも困難なことが多かったのですが、同時に常に私を満たしてくれました。特にパンデミックの発生したこの2年間は、政治、科学、社会的言説における信頼の重要性がクローズアップされましたが、同時にそれがいかに脆いものであるかということも示されました。

私たちの民主主義は、批判的な議論と自己修正を行う能力の上に成り立っています。絶えず利害関係のバランスを取り、お互いを尊重することで成り立っています。また、科学的知識が否定されたり、陰謀論や扇動が流布されたりした場合には、反対の声を上げなければならないという事実もあります。私たちの民主主義は、憎しみや暴力が自己の利益を主張するための正当な手段であると考えられる場合には、民主主義者としての私たちの寛容さに限界があるという事実からも成り立っています。

国内のさまざまな課題は、パンデミック以降だけでなく、外交政策にも反映されています。2008年の金融・経済危機や、2015年に多くの人々が難民申請を求めたことは、私たちが国境を越えた協力にどれほど依存しているか、また、気候変動、デジタル化、難民、移民といった現代の大きな課題に取り組むために、国際機関や多国間の手段がどれほど不可欠であるかを明らかにしました。私は皆さんに、相手の目を通して世界を見続けること、つまり違和感があり対立する相手の視点を察知し、利益のバランスを取る努力をしていただきたいと思います。

皆さん、私の政治活動は、国内外の政治家仲間からのさまざまな支援がなければ実現しませんでした。すべての方に心から感謝いたします。連邦政府、ドイツ連邦議会、ドイツ連邦参議院の同僚の方々には、私たちの協力に感謝しています。また、他の多くの国が羨むような政治的議論の文化にも感謝しています。私の身近なスタッフには、非常に特別な、卓越した感謝の念を抱いています。また、私の家族にも感謝しています。

これからの課題に対する答えを見つけ、私たちの未来を切り開いていくのは、次の政府にかかっています。そのためにも、オーラフ・ショルツさんと、あなたが率いる連邦政府には、最善を尽くし、幸せな手を差し伸べ、大きな成功を収めていただきたいと思います。私は、嫌悪や恨み、悲観主義ではなく、3年前に別の場面で申し上げたように、心に明るさを持って仕事に取り組むことで、私たちは今後も未来をうまく切り開いていけると確信しています。少なくとも私は、ドイツ民主共和国(注: 旧東ドイツ) での生活において、そして自由の下(注: 統一ドイツ) ではなおさらのこと、常にそう考えてきたのです。この心の明るさこそが、私たち全員に、そして比喩的に言えば、将来の国にも願っていることなのです。

心の底から感謝しています。

アンゲラ・メルケル首相のスピーチ(2021.12.02 ドイツ、ベルリン)

メルケルさん、16年の長きにわたりドイツ首相として大変お疲れさまでした。連邦政府のトップとして、またEUリーダーの一人として非常に難しい国の舵取り。評価されたときも批判されたときもありましたが重責と孤独に耐えて尚、心に明るさを持って仕事に取り組むことで、今後も未来をうまく切り開いていける、皆と国にも願うメルケルさんはやはり卓越した人物であり、リーダーと呼ぶに相応しい方であると思います。

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
Bis dann! Tschüss! ビスダン、チュース!(ではまた〜)😊

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