組織の未来「DAO」とゲーム業界
Web3のテクノロジーの上に、新しい組織形態としてDAOという概念が新しくできてきている。人類において組織とはなんなのか?と、DAOのどんなところが新しいのか?という疑問と、これから展開される未来について書いてみよう。
人類にとって組織とはなにか?
人類の組織の歴史
人類という種族は、組織を作ることで、生存・繁栄をしてきた。人類の組織に対する欲求はとても強く、遺伝子レベルで刻まれている。すなわち、ミラーニューロンによる共感や寂しさ、アルファオスなどは人類を組織として機能させる仕組みとして存在している。
インターネットができようが、メタバースができて発展しようが、人類は人類を求めている。テクノロジーによって、人類は、たくさんの人間と接触できるようになったが、昔からやっていることはそんなに変わらず、居心地のよい人間関係・組織を求めている。これを否定する個体は例外的に存在するが、ほとんどの人類はこのニーズがある。
人類は、組織という形をテクノロジーによって形を変えてきた。
例えば「農業」は、定住して安定した住居環境や、余剰生産物を作り出し、余剰によって生存に有利な組織を作り出した。
例えば「お金」は、腐らず持ち歩くことが可能な価値を作り出し、金利や貸し出しという概念を作ることで市場をふくらませることに成功した。組織は、食料を生産しなくてもお金を生産できれば、食べていくことができるようになり、より多くの人が食糧生産以外の仕事ができるようになった。
技術によって、組織の形が変わるたびに、常識は変わり、我々を取り巻く環境は変わった。
原初組織
組織というのは、複数の人間が所属をするので、意見というのはその人間の数だけ存在する。そしてその意見が割れたときに、どちらの意見を採用するか、またはその間を取るのかというのが問題として発生する。
人類の遺伝子に刻まれたアルファオスという仕組みを説明する。古代人類は数十人の群れで暮らしていた。他の群れや、肉食動物、または異種の類人猿は敵だった。そんな中で生き残るためには、素早く意見を一致させ協力をして、問題解決をする必要がある。
人類の遺伝子は、その群れ環境においてオス同士にヒエラルキー競争をさせトップにアルファオスというリーダーモードを作った。アルファオスをリーダーとして、組織を運営して行くことにより、意見が割れたときの問題を解決できるようにしたのだ。そして、アルファオスの特徴を持ったオスをメスは魅力的に見えるという形で、その遺伝子を多く次世代に繋ぐという、遺伝的アルゴリズムを採用した(類人猿を見るといくつかの別の戦略を見ることができる)。
その戦略は、いくつかの類人猿がもつ遺伝子戦略のなかで競争をして、生存競争に打ち勝ち、世界を牛耳るようになった。現在でも、人類にはこの遺伝子は残っている。
国家とは
農業が始まり、特定の場所に定住するようになり、村が大きくなり町となり、町と町の争いを収めるために町が連合を組むようになり、大きくなったものが国である。暴力を使い、対外と内側に対して行使することや、ルールを作り、軍隊・警察という暴力を取り締まる機構を作り、国の間に平和を作り出した。その結果、暴力を気にせずにすむような空間を作り出した。
国は言語・農業・お金・武器などの複数のテクノロジーの集合体であり、最近でも使われている組織としての大きな形の一つである。
初期は王国などの、世襲型のトップが決まる仕組みだった。時代が進むに連れて銃というテクノロジーによって、誰でも数週間の訓練で戦争に参加できるようになり、総力戦という戦争形態ができ、国民のパフォーマンスを引き出すために、人権や民主主義という形で選挙によって民の意見を取り入れながら運営する形態が生まれた。
いずれも、生存競争のためであり、メリット・デメリットがある。今でも君主制の国もあるし、共和制の国もある。生態系においては、環境が変わるので、多様性があることは良いことなのだ。なので、民主主義が今後において必ずしも最終的な生存者になるかというと、その環境に依存をするため断言はできない。
株式会社とは
価値生産組織として、大きな変化が生じたのが「株式会社」だろう。最初の株式会社として有名な17世紀の東インド会社がある。
当時の貿易航海は、非常にお金がかかるし、成功すれば利益がものすごい出るが、うまくいくかどうかは博打だった。この条件をクリアできるひとは大富豪や、王などの既に膨大な富を持っている人だけだったのだ。株式会社は、出資の分割とそれに応じたリターンと、失敗時の責任の限界を区切り(出資元本を責任の上限とする)、今まで手が出せなかった人にも手が出せるようにしたのだ。
この試みはとても成功し、今でも経済活動をする組織は、株式会社を取ることが多い。
ただ、株式会社は、経済的な投資機構は作ったものの、組織の中の話は特に定義されていない。株式会社的には、株を持っている人が投資者であり、組織の中のひとは従業員でしか無い。
組織フェーズの分類
組織の内部の話としてティール組織を提唱したフレデリック・ラルーは、ケン・ウィルバーのインテグラル理論における「意識のスペクトラム」というものがありそれで組織の段階の説明をしている。
この5つの段階は、価値の生産パフォーマンスを上げるためにどのような組織形態を取るとよいのかというのとそれの段階である。
ただティール組織というのは、実現はかなり難しい。理由は、株式会社のメカニクスとずれているからだ。株式会社の従業員は、契約で仕事をもらい仕事をこなすことで給与が支払われる。
それと、この自分の視座を組織全体と同じくらいに広げ、自律的に自らがオーナーとして動く動き方は、ある種株式会社のインセンティブなどを無視して動くという、二律背反が要求されるのだ。この、ベースのルールと理想的な動き方がずれているという状態を実現するためには、メンバーにとても教育をしたり、かなりハックをしないと難しい。
DAOとは
DAOとは、「Decentralized Autonomous Organization」の略であり、日本語では中心のない自動的に動く組織、つまり自律分散型組織と訳される。DAOというのは、Web3技術のベースのもとに作られた「株式会社」の次の形なのだ。それは、先程説明したティール組織のベースとして機能する。
DAOとはどんなものなのかを説明しよう。DAO自体は発展途上なので、定義は固まりきっておらず、1つのイメージとして聞いてほしい。
DAOは中心のない市場のような組織形態であり、DAOの方向を決定するにはコントリビューターという中心メンバーの提案する選択肢に対して、ガバナンストークンを持っているメンバーが投票をすることで、大きな方向が決定されるという仕組みで運営をしていく。これが、外部に公開されるため、少人数で密室で決まるような納得感のない決め方と違い、何が起きているのかが理解ができる。
DAOは、経済市場であり組織であるので、メンバーは個人で他のメンバーとコミュニケーションをしながら取引を行うことで仕事をして、そのリターンとして何らかのトークンを得る。
DAO自体は組織でありながら経済市場であるので、DAOの作り出す独自トークンは、DAO自体が外部に対してメリットを作り注目を浴びたりすることでニーズが増え、値段が上がる。値段が上がることで、参加メンバーは経済的に潤う。こうすることで、株式上場のように参加メンバーは利益を得ることができる。
いままでユーザーはユーザー、開発者は開発者だったのが、そこの間が取り払われ、トークンを媒介にすることでステークホルダー(利害関係者)になる。組織であり、経済市場である新しい組織形態が、テクノロジーによって生まれつつある。
DAOで何ができるのか?
DAOは、今の所トークン発行に関わるところが注目を浴びていることが多いが、本来的にはただの組織形態の1つである。なので、やろうと思えば株式会社と同じように、ある程度実行をすることができる。
現在のDAOでも、いろいろなことが実行されている。DAOのツールを作るDAO、投資系のDAO、金融系のDAO、NFTなどを収集するDAO、特定のサービスを運用するDAO、特定のプロジェクトを推進するためのDAO、特定の町を発展させるためのDAOなどだ。ビジョンを決めてその方向に進める推進装置なので、特にできることの種類は選ばない。株式会社と比べて、意見を合わせて推進する調整コスト(マネジメント)が必要ないため、注目が集まりメンバーが増えるなら大きなことをやれる可能性は高い。
マネージャーレスな組織
今までの組織は、「意見を合わせて、どこに進むのかを決める」のにものすごいコストを払っていた。それは、リーダーという仕組みだったり、アルファオスだったり、投票だったり、議論だったり、会社におけるマネジメントである。国家の投票はイメージとしてわかると思うが、膨大なお金を使った上で意見が割れていることが可視化され、その意見が選ばれなかったひとはやる気が無くなるのである。膨大なコストを使って一つの意見にまとめていると考える事ができる。
会社のマネジメントも、役員の決めた方向性に向かって組織を進めるための方法論である。会社におけるマネジメントコストはとても大きく、20~50%程度払い出していると考えてもおかしくない。これをみんな自由にやろうよというのがティール組織ではあるが、これは実現自体がかなり難しい。DAOはこのマネジメントのコストをかなり少なくすることができる可能性がある。
また、DAOで現在行われている議題としてマネジメントの質が大きく変わるという話がなされている。一般的な管理職から、コミュニテイマネジメントに質が変わるのではないかという話だ。コミュニティの盛り上がりがコミュニティの存続を決めるため、いかにコミュニティを盛り上げるのかという方向にマネジメントがずれるのだ。
未来の予測市場
なにかを実行するときに、経済的合理性から話を進めると、未来は不確定なので、いくつかの分散投資をしようという話になる。いわゆる分散投資の原則「すべての卵を一つのカゴに盛るな」というやつで、いくつかの投資をしてみて、うまく行ったところに再投資を行うという方法論だ。未来は見えないので、未来の認識コストのための投資を行うという形だ。
株式会社であれば、役員が計画をして、分散投資をする。でも、そもそもとして、メンバーが違う意見であるならば、その信じる意見でそれぞれ投資してもらって、その意見でうまく行ったところに再投資をしていけばよいのではないだろうか?そうすることで、経済合理性で自然にうまくいく方向に話が進むのではというのが市場原理であり、DAOの基本原則である。少人数の賢者よりも、大多数の参加する市場のほうがパフォーマンスが出る。
普通の人たちを予言者に変える 「予測市場」という新戦略この本では、お金に交換できるトークン(ブロックチェーンではなく)を媒介とした予測市場(予測をだして、その予測が当たるとリターンが帰ってくる)を開いて、パフォーマンスをみることで、特定の天才を超える未来認識力を得られるという話が書いてある。
これは、遺伝子が行っている「遺伝的アルゴリズム」と同じ仕組みである。遺伝的アルゴリズムは、組み合わせで新しい世代を作って、その世代で評価が高いものを、再度掛け合わせることで精度を上げていくという仕組みである。遺伝子は、生殖による掛け合わせによって、分散を作り出し、その分散で未来を観測し、成功した個体はより多くの子孫を残せるという方法で、種全体としての環境合わせと生存可能性の引き上げを行っている。
人類は期待値と所持が好き
ゲームでご存知のように、人類は期待値と所持が好きである。理由は、原始人類社会においてそういう人類が生き残りやすかったからだ。期待値とは、未来予測におけるリターンの期待である。未来を見て希望が持てるかどうかだ。
所有は、生存率を引き上げるためのものだろう。人類は道具を発明した。道具や食料を所有することで、生存率が引き上がったのだと予想できる。
DAOは、この2つを存分にHACKしている。ビジョンで人をあつめ、所持によって欲求を満たし、将来のトークンの値上がりによって期待値をもたせている。(最近)の株式会社では、(株主出ない限り)そこまでの期待値は持てないというのはみなさんご存知だろう。
GIVERの市場であり組織
DAOは基本的に、すべてのコミュニケーションを好意として解釈をする文化である。DAOへのコミットは好意的である。逆にいうと、こうしないとDAO自体成立しないのだ。株式会社はまだ契約・報酬で縛ることができなくもない。
私はDAOはGIVERの組織を作るためのフレームだと考えている。上記は私の記事だが、私はネットの新しいロールモデルとしてGIVER(与える人)を考えている。より多くを与えて人を幸せにする人が、より多くのリターンが手に入る可能性があるような社会は望ましいと考える。DAOはそのポテンシャルを持っており、与えることでより社会が発展していく基礎になるのではないかと期待を持っている。
日本の法律の問題点
色々夢を語ったが、日本では現状税制が対応していないため、本当にDAOを実現しようとすると税金ですべて持っていかれる仕組みになっている。なので現状日本にあるDAOは、PreDAO(いずれちゃんとしたDAOにしたいけど、まだそうじゃないよ)の状態である。法律対応してほしい。
現状のDAOでの課題点
DAOの良いことを語ったが、現状のDAOで起きている課題点も(普通の組織もあるように)当然ある。これから、いろいろな問題点も経験とともに解消する方法が見つかっていくのだろう。そして、問題の方向性が株式会社とは違う。
DAOは組織体なので、これで全ての問題が解消できるわけでは当然ない。非中心化と言っても、誰かが熱意を持って始めなければ何も始まらない。そのビジョンと熱意をアピールし、メンバーを集め、ルールを作ってインセンティブとなって組織を駆動するというものだ。これは、株式会社でもやっていることだ。ただし、速度がとても早く、スケールもうまく行った場合は極端に大きくなる。ビットコインやイーサリアム自体も広義のDAOとして考える事ができ、人々の欲望をインセンティブに自身の価値を増大させた。
経済的合理性と社会的合理性の統合が現時点ではうまく行かないことがある。安定した関係性と儲けるというのがぶつかっているのだ。短期で儲けることができそうであれば、儲けてEXITしてしまうのが良いのではないかと考える人がそれなりの数いるのだ。
これ自体は、ゲームデザインでも似たような側面がある。課金と時間と技術をどれくらい強く設定するかだ。このバランスがおかしいとユーザーは即座にいなくなる。DAOでもこのあたりのバランスが求められているのだと感じる。
現在では、儲かるに焦点が行き過ぎている印象はあり、ハイプ曲線が曲がり角を超えることによって、もう少し落ち着いて成長する組織が作れる可能性は高い。
ゲーム業界とDAOの未来
一例として、ゲーム業界の未来予測をしてみよう。基本的に株式会社ベースの業界は残り続けると考える。それはオープンソースが流行ったとしてもソフトウェア会社があり続けるように。今回のDAOの展開は、インディーとユーザー、そして副業あたりに展開されると考える。
株式会社と違い、DAOではそこまで固くない組織ができることが予測される。組織論的には、クリエイターと相性が良いと思うので将来的には流行るのではないかと予想される。組織に所属しなくても組織体感は得られ、同じ目的のために集まった仲間がいるコミュニティだ。ただの集まりだけでもなく、取引なども行われる場所だ。インディーゲームは、インディーゲーム同士でよほど近くない限り競合にはならないし、そのため、協力関係を作ることで、品質の向上などのメリットは大きいと考える。ただ、今までネットでの100%公開か、非公開かくらいしかなかったので、コミュニテイに所属をして、そこにコミットできるというのは、ありだと思う。私も、仲がいい人には色々教えたい欲求はあるのだけども、あまりにも全てをネットに公開するのには躊躇がある。
現状ゲーム業界では、インディーゲーム開発支援&パブリッシュの話が割と多いが、こちらもDAOに統合されそうな気配はある。
共通のリソースの作成なども流行ると思われる。具体的なイメージとしてはオープンソースならぬ、コミュニティソースとして、ある程度のトークンリソース支払いで使えるイメージになるだろうか。いくつかのゲーム開発系DAOを予測してみよう。
ロビー・ライフスタイル型DAO
開発者主体の相互開発支援DAO。作り方や売り方、リソースの共有などを行う。プロジェクトを共同で作ったりする。開発者主体のYコンビネーター的なものができると良い。またパブリッシャーなどと話をしたりもできるイメージ。ゲームづくりのレベルデザインを引く役割。
・例:インディーゲーム開発DAO、ハイパーカジュアル開発DAO
ジャンル特化開発型DAO
特定ジャンルの開発者が集まって、それぞれリソースの融通だったり、うまく行った方法論・設計の奥義だったりを共有するDAOだ。ファンコミュニティ、クローズベータテストも内包してしまう路線もあり。深みを一緒に掘っていくイメージ。
・例:アクションゲーム開発DAO、ローグライクゲーム開発DAO、シューティング開発DAO、VR/AR開発DAO
プラットフォーム型DAO
特定のプラットフォームの上のコンテンツを作るために集まって作るDAO。メタバースプロジェクトはこの形になりそう。
・例:メタバース開発DAO、プラットフォーム型ゲーム開発DAO
プロジェクト型DAO
特定のプロジェクトを作るために集まって作るDAO。ロビー・ライフスタイル型の子DAOとしてできる可能性が高い。クラウドファンディングの先に進んだ形になる。
まとめ
人類にとって組織とは切ってもきれない居場所と夢
人類にとって、組織形態は技術に伴い進捗をしている
集落→村→町→国
パトロン型投資→株式会社投資→DAO式投資
DAOとはなにか?
組織であり経済市場であるコミュニティ
予測を市場にまかせて、遺伝的アルゴリズムで整合をとっていく組織
マネジメントではなく、コミュニティマネジメント
マネジメントの立ち位置が変わる
GIVERのベースになり得る
ティール組織のベースになり得る
日本の法律ではまだ、DAOの全てが実行できるわけではない
DAOは全てを解決するものではなく、課題点はある
ゲーム業界はDAOが普及することでどう変わるか?
インディーゲームやユーザーコンテンツの発展を支援する可能性が高い
個人では超えられない壁をコミュニティで超えるという方法はこれから増えるだろう
ゆるいリソースや仕事の共有などはDAOベースでやりやすくなりそう
ユーザーとクリエイターの壁がこれで薄くなる可能性は高い
DAOによって組織の多様性はふえ、多くの生き方や新しいプロダクトが生まれる可能性がある。組織という人類の基盤が技術によって多様性が生まれるのは、未来が垣間見えて楽しい。個人的にはDAOで、組織デザインやインセンティブデザインをやってみたい。インセンティブBOTを作るのも楽しそうだと思う。
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