TBS火曜よる10時に、ありがとう
『わたし、定時で帰ります。』放送が終わりました。今夜も11回目の放送があるのでは、などと、つい妄想してしまいますが、本当に終わりなんですね。
みなさんへの感謝の言葉に替えて、私が垣間見たドラマ制作現場の様子を書いてみたいと思います。
「原作者はドラマの制作現場に顔を出さないほうがいい」ドラマの話が決まるたびに周囲から忠告されます。たしかにその通り。原作者の仕事は原作を渡した時点で終わっています。現場で役に立てることもありません。でも…。
出版不況を背景に、エンターテイメント作家は「ドラマ化する作品を」と望まれることが多いです。言うは易しですが、そもそもドラマが、どんな規模のプロジェクトで、どんな人たちによって、どんな思いで作られているのか、よくわからない状態で、その要望は無茶もいいところ。なので、今回は現場に誘っていただいたら遠慮しない、ことにしました。(忙しいのに、ご対応いただきすみません…)
ドラマは、たくさんのプロフェッショナルが集まって作っていました。
原作を書店で見つけてくれたプロデューサーの八尾香澄さんは、結衣と同年代の女性です。まず言われたのが「仕事描写が難しい」ということ。小説では業界特有の描写は省いていますが、ドラマではそうはいかない。しかし、そこは『重版出来』の八尾さんです。 LIGのウェブディレクター・北川パーヤンさんを監修に迎え、ホワイトな社風のウェブ制作会社と、クライアントの間に発生する業務とを、詳細に作ってくださいました。
TBSドラマ火10『わたし、定時で帰ります。』のドラマ内Webサイト制作をLIGが担当しました。
また、もう一人のプロデューサー、新井順子さんは誰もが知るヒットメーカー。面白さのためならどんな困難も厭わない方。八尾さんとともに、ビジネスマン数百人にヒアリングをしてくださったそうです。数百人って…大企業のマーケティング調査でもなかなかやりません。会社員のドラマを作るために、そこまでしてくれた人たちが今までいたでしょうか。このエピソードを思い出すだけで、ちょっと泣いてしまいます。また、現場では働き方改革も行われていたそうで、そのマネジメントにも対応されていたようです。
「定時に帰れるわけない」と考える自分が間違ってたのかも? ドラマ「わたし、定時で帰ります。」プロデューサー2人が語る仕事観
そして、脚本を担当くださった奥寺佐渡子さんと、清水友佳子さん。「なんでも言ってください」とおっしゃっていただいたのをいいことに、脚本をいただくたび、原作者として、また元会社員として、忌憚なく意見を言わせていただきました。忌憚なく言いすぎて、「ド素人の私が…時間もないのに…余計なことを…」と何度も反省して落ちこみましたが、改稿された脚本を拝見するとさらに、桁違いに、面白くなっていました。敵わない。その一言に尽きます。ストーリーテラーとして、本当にたくさんのことを教えていただきました。
俳優さんのお仕事は、モニター越しに拝見しただけです。でも、カメラが回りはじめると登場人物にしか見えなくなる。あの瞬間は何度見てもゾクッとします。なんであんなことができるんでしょうね。
従来の会社員ドラマでは、主人公の仕事ぶりが同僚のセリフのみで表されることが多かったように思います。実際の業務のシーンは省略されているか、簡略化されています。お仕事ドラマで一番見たいのはそこなのに。
でも、今回のドラマでは、実際の業務の進行を丁寧に描くだけでなく、クライアント企業の椅子に座る姿勢一つ、社内を歩くスピード一つ、細やかな仕草で、登場人物たちの仕事との向かい合い方を見せてくれました。その地道な演技の積み重ねの上に、登場人物たちが心情を吐露するシーンの爆発力といったら。
その他、美術さんや、衣装さんや、拝見させていただいたお仕事全部について感動したことを書きたいのですが、本一冊くらいになってしまうので、また別の機会に。とにかく印象的だったのは「人」であり、「チーム」でした。一歩先の面白さを追求し続ける、火曜よる10時ドラマ枠の攻めの姿勢でした。このチームに、この枠に、原作者として選んでもらうためにはどんなテーマに挑めばいいのか、と考えると、毎日が楽しくなりそうです。ま、簡単にはいかないですけどね。
最後に、演出の金子文紀さんに挨拶に伺った時に言われた言葉が心に残っています。「僕は長時間働いてきた人間。このドラマを作る資格があるのだろうかと思っていた」
でも、そういう人たちが作り手でよかった、と私は思います。仕事が好きでたまらない人、種田晃太郎の心がわかる人が作るのでなければ、真の意味で働く人の心に寄り添うドラマはできなかったのではないでしょうか。
ありがとうございました。
最後に、原作者としての立場を忘れて、無責任に言わせてください。いつかまた、このチームの皆さんが作る『わた定』が観たいです。
よろしくメカドックです。
朱野帰子