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『財布は踊る』の文庫解説を書きました

新刊をだすたびに重版がかかり、既刊本にも重版がかかり……といういまや超売れっ子である小説家、原田ひ香さんの『財布は踊る』が文庫になりました。

『財布は踊る』については以前にも「おもしろいよ〜」という暑苦しい文章を書いていますので、こちらをごらんください。

単行本が発売されたときに帯文を書かせていただいたのですが、そのご縁もあって、光栄にも文庫解説も書かせていただくことに。
以下、解説より、一部引用です。

 会社に入社した頃から、将来や老後のことを考えて貯金をしていた。
 
 本書を読んでいて、ページをめくる手が止まったのはここだ。
 原田ひ香の小説を読んでいると、なぜ私のことを知っているのですかと尋ねたくなってしまう。
 冒頭で引用したのは、登場人物のひとり、野田裕一郎のモノローグだ。二十代の会社員である野田はこう語る。
 
 ずっと、自分の将来には悲観的だった。このまま一生働いていても、たいして年金ももらえそうにないし、老後は一人で孤独に死んでいくのかな、と半ば諦めていた。
 
 彼だけでなく本書に登場する登場人物たちはみなお金のことばかり考えている。お金がないということが自分の人生を左右すると感じているからだ。

『財布は踊る』文庫解説より

そうそう、そうなんです、と自分の解説に対してうなずいてしまうのだが、原田さんの小説に出てくるのは「私か? 私なのか?」という人物ばかり。なので、内容を知っているにもかかわらず、何度読んでも面白い! そして原田さんが書いているお金のエピソードはほんとにディティールがちゃんとしているので、マネーリテラシーが上がってから読み返すと、さらに面白いのです。

文庫解説にはマニアックすぎて書けなかったのですが、インデックスつみたて投資をしていた会社員が株の信用取引をはじめてしまう心理描写などは、株やっていなくても面白いのですが、株を始めてから読むとさらに面白い。「原田さん!信用取引やってるんですか!」と尋ねたくなってしまいます。ちなみに私は信用には手を出しておりません。そこだけには手を出すなと株の師匠から言われているので……。

 物価がどんどん上がっていて、卵一パックの値段を見て恐怖を覚えたり、レジで合計金額を告げられて「こんなに買ったっけ?」と思ったり、給与明細から引かれている数字を見て絶句したり、心の中ではたくさんの思いが生まれているはずなのに、胸の奥に押しこめて生きている。
 でも原田ひ香は書くのである。小説だからこそ書けるのである。お金にふりまわされて生きたくないと願う人たちの見ているものを、彼らの成功としくじりを。「そばで見ていたのか?」と思わされるほどに詳細に書くのである。すぐ目の前で生きている人たちの心を温かく平等に観察して描き、彼らの人生を「正解だ」とか「正解じゃない」とか評価したりしないその姿勢が、多くの読者に支持されているのだと思う。

『財布は踊る』文庫解説より

こういう市井を生きる人たちの小説、いまは原田さん一人が書きまくっておられるけれど、もっと増えてほしいなーと思っています。