3月1日『くらやみガールズトーク』発売です
新刊が出ます。
怪談専門誌『幽』で連載していた怪談をまとめた短編集が3月1日に発売されます。
何を隠そう、私はかつて「世にも奇妙な物語」を毎週楽しみにしていた子供でした。(当時としては、ごく普通の子供ですね)ホラーはあまり好きではない私ですが、地価高騰で郊外に家を買った男が帰り道を見失う、偏差値教育に疲れた高校生が受験前に露店で脳を買ってしまうなどなど、時代のうねり(当時はバブルでした)が日常に歪みをもたらし、ごく普通に生きている人たちに怪奇がもたらされる……。そんな物語が多いことも魅力でした。
だからでしょうか、『幽』の編集者さんから怪談を書きませんかと勧めていただき、うっかり引き受けてしまったのは。
しかし、私がいったいどんな怪談を書けばいいのか。悩みました。
私の書くものといえば普通の人たちの物語です。まじめに働くしかとりえがなく、時代が要請する社会に過剰適応してしまう人たちを書かせたら、私に敵うものはいないという自負があります。なぜなら私がそうだから。(小説家にむいているかどうかは疑問ですが)だったら、そのままを怪談にしてしまえばいいのではないか。そう思いました。
今、もっとも時代の歪みを引き受けさせられているのは、男性社会でなんとか自分の生き方を貫こうとする女性たちのような気がします。そう、私たちは新しい時代にいるはずなのです。なのに、なぜだろう、私たちに新しく「変われ」と言ってくる社会が、同時に、驚くほど古くてプリミティブなものを押しつけてくるように思えるのは。そして、なんだろう、この心に墨汁のように湧きでてくる暗闇は……。
収められている短編は8つ。
歪んだ家庭で育った女の子が変わろうともがく『鏡の男』。
旧姓を剥がされ婚家にとりこまれていく花嫁の復讐劇、『花嫁衣裳』。
こけしと男性コレクターの攻防ファンタジー『ガールズトーク』。
Amazon.co.jpで買えるという事実が一番怖い気がする『藁人形』。
身重になった夜から人であることを捨てた若い母親の物語『獣の夜』。
母の老いを受け容れられずに葛藤する『子育て幽霊』。
恋愛市場に放りこまれた女子中学生がのたうちまわる『生まれ変わるために死にゆくあなたへ』。
そして、妹の誕生に怯える小学生の心の旅を綴った『帰り道』。
正直、どれもとっても黒いです。『わたし、定時で帰ります。』を書いたのが白帰子なら、今作を書いたのは黒帰子だと思います。読んでくださった方の中には「感受性の強い女性は読まないほうがいいのでは」とおっしゃった方もいらっしゃいました。二度と私と話したくない、と思う人もいるかも。
でも、「同じくらやみを抱えた人がいたんだ」と安心してくださる人が、一人でもいるかもしれない。だから、この本を世に放ちます。
装幀は佐藤亜沙美さん。こうの史代さんの「ぼおるぺん古事記」の装幀に衝撃を受けて以来、憧れていた装幀家さんです。イラストレーターの土屋まどかさんの描くなんとも可愛い、ふわふわしたガールズを、今にも何かをやらかしてしまいそうな、不穏な集団にしあげてくださいました。触れたら指からとれなそうな蛍光ピンクもお気に入りです。
編集者さんは最初、「希望のある内容だし、装幀は白にしましょうか」とおっしゃってくださったのですが、私は「いいや、真っ黒で!」とワガママを押し通し、編集者さんが装幀案を見せたKADOKAWAの女性社員の皆さんたちも「真っ黒で!」とおっしゃったそうです。
とっても思い入れのある本になりました。私のくらやみを覗く勇気のある方は店頭でぜひお手にお取りください。