NTLive「リーマン・トリロジー」がすごかった
10日前のことだが、書評家の三宅香帆さんがTwitterで、ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)の「リーマン・トリロジー」が面白いとつぶやかれていた。2008年に破綻し100年に1度の金融危機、リーマン・ショックを起こしたことで有名なリーマン・ブラザーズという企業を描いた演劇作品があり、今まさにシネ・リーブル池袋で上映されているという。
以下、上記サイトからの引用です。
いま確認したらまだ上映中でした。上映権利が7/27までなのでギリギリまでやるのかもしれませんが、行かれる方は上映スケジュールを確認した方がいいかも。
リーマン・ショックといえば私の小説デビューのきっかけを作った経済災害でもある。
2008年の秋。小説家になりたいので会社を辞めて派遣社員にでもなりますと上司に退職願を出した。その数日後にリーマン・ショックが起きた。
倒産した自社に入れないままウォール街に立ち尽くすリーマン・ブラザーズの社員たちの呆然とした顔がテレビに映っていたのを覚えている。大企業の人事部に勤める友人から「正社員にしがみつけ」と言われ、「リーマン・ブラザーズめ、なぜ倒産してしまうかなあああ!!!」と怒りつつ、慌てて面接に臨んだリクルート・エージェントからは「採用数が数ヶ月前の3分の2(3分の1だったかも)になっています」と言われ、同社のセミナーでは「心が折れたら転職活動は終わり」「自分を1億円の商品だと思って売り込め」と言われていた。
そのストレスを発散させるため深夜に書いていた小説がデビュー作『マタタビ潔子の猫魂』だ。この小説に登場するさまざまな外来生物たちは、今から思えば、海の向こうからやってきた金融危機とグローバリゼーションへの恐怖を表していたのだと思う。
身の丈を超えた危機に煽られまくった私の必死さが伝わったのだろう。転職活動をしながら送ったその作品は、私が転職先の内定を得るのと同時に、ダ・ヴィンチ文学賞の大賞に選ばれた。「受賞しました!」という連絡をもらったとき、それがすごいことなのかどうかよく分からなかった。子供の頃からの夢だった小説家になれたという喜びがすぐには湧いてこないくらい、リーマン・ショック下で、私は生存を脅かされていたのだろう。
しかしその恐怖がなければ、文学賞を取るような作品を私が書くこともなかったのだろう。小説家になれたのはリーマン・ショックのおかげだと言えるかもしれない。それでもやはり「リーマン・ブラザーズめ、なぜ倒産してしまうかなあああ!!!」という叫びは残り続けている。
前置きが長くなりすぎた。
リーマン・ブラザーズへの暗い情念をたぎらせて、シネ・リーブル池袋に向かった私。「リーマン・トリロジー」の3時間にわたる上演を見終わった後は「すごいものを観た!」という感想しかなかった。いつか私もこういう物語が書きたいと心から思った。ここ十年で観た映画(正確には演劇作品なのだが)のなかではベストワンではないだろうか。
あまりに感動したので、図々しくも、三宅香帆さんに「リーマン・トリロジーについて語るスペースをやりませんか?」と持ちかけ、承諾をいただいた。二時間にわたって語り尽くしてしまった。下にリンク先を貼ってあるので、聴ける環境にある人はぜひ。
「リーマン・トリロジー」の感想を語るスペース
面白そうと思った方は、ぜひすぐに観にいってほしい。冒頭で書いた通り、いつまでやっているかわからないので。
関連情報を置いておきます。
紙のパンフレットは売り切れですが、電子なら買えます。