場末の病院の夏は。
その医師に会うのはいつも同じ用事であった。
決して清潔感があるとは言えない、かなり古くなった病院には、その病院と同じような時の流れを感じさせる病人が、いつもそれなりにいた。
待合室には何もない。
あるにはあるのだが、20年以上前の本と、3年前の雑誌、それから古ぼけてくたびれたウサギのぬいぐるみが雑然と置かれていて、誰もそれに触れようとしなかった。
加えて、受付と看護師は感じが良いとは言えず、保険証を返し忘れても連絡すらしない上、医師に対してあからさまにぞんざいな態度を取るものさえいた。その上医院長と不倫の噂までたつ者もいるのだ。
要するに、ものすごい
場末感のある病院
なのだが、不思議なことにそこに常に人は居るのだった。
かつてその土地には、皮膚科はなかった。
キラッキラに輝きどんどん駐車場を増築していく美容皮膚科を兼ねた皮膚科ができるまで、皮膚科というものは、その病院を除いて存在せず、よって皮膚になんらかの異常を感じたらそこへ向かうしかなかった。
そんなわけで、まだ小学生の頃、銭湯で
性器に猛烈な痒みがでる病気
をうつされてしまい、親子共々そこにかかったのが始まりだった。
初めての皮膚科の診察は、性器周りの皮膚の採取(というかモロ性器)というセンセーショナルな出会いだったのだが、相手は50代くらいの優しいおばさん医師だった。
そう、この優しそうなおばさん医師こそが、この地域の皮膚の健康を支えまくった、
非常に良い先生なのである。
そんなセンセーショナル(2回言ったぞ)な診察で、なぜか
寄生虫
まで疑われ、今は行われない
ギョウチュウ検査
までやった。
全くもって何を疑ったのか(だからギョウチュウだよ)サッパリだが、この痒みが消え失せるのに1年以上かかった。全くもって迷惑な話だが、その謎な皮膚疾患を治してくれたのは他でもない彼女である。
そんな皮膚科だが、その後は思春期ニキビでお世話になったりしていた。が、当時日本で認可された薬は抗菌剤と抗生物質しかなく、大した効果は出なかった。が、紹介された洗顔料は私の肌に合っていて、ニキビは次第に落ち着いていった。
当時、1番重要だったのは洗顔料と、適切なタイミングと適切な方法でのニキビの潰し方。
ニキビはひどくなる前にとどめを刺すのが肝心だ。
あらかじめ炙った針でニキビの先を突き、排膿口を作って、
一気に殺る。
そうすることで奴らは死ぬ。跡は残さぬよう全て消し去るのが、一流の仕事人。
蝶のように舞いハチのように刺す。
私はまま10代だったが、そんな仕事をいくつもこなした。
…いまはたくさん良いお薬が認可されたので、私のようにニキビに悩む人は減ったはずだ。多分。(ニキビは皮膚科に行こうね)
今はもう私も30代。ニキビの出る幕はなくなった。もっぱらその皮膚科に通うのはなぜか。
水虫だからだ。
何度でもいおう。
水虫だからだ。
うわーん。過去に5年くらいかけて治して、そこから5年くらい再発しなかった記憶があるが、確か娘を産んだ後くらいで再発した。
ちなみに、一度でも水虫になった物は水虫になりやすい体質らしい。気をつけよう、奴らはゴキブリのように貴方の足をねらっている。
ちなみに私は痒くなるタイプではなく、どちらかというと水疱がたくさんできたり、皮膚の厚いところがモロモロになるタイプ。爪水虫までイッてはいないので、今のところこれ幸い。
なんにせよ、現段階は塗り薬で退治できるレベルなのでそこで一気にカタをつけたいところ。
やる時は殺る。
そんな主婦の意地を見せたい。
そんなわけで2019年は底意地の薬塗り塗りで、やつを倒した。だから2020年には
奴はいなかった
のだが、どういうわけか今年再発した。
だから私は今年も薬塗り塗りに勤しんでいるのだ。
おのれ水虫、全員ぶちのめす!と意気込んで、目ん玉ファイヤーみたいな気合いで毎回診察に臨んでいたのですが、先生はたおやかにこうおっしゃる。
「また水虫になったらお薬塗ればいいじゃない」
いやさ、そんな
マリーアントワネットみたいな。
ちなみに先生は、声もお顔もなんとも可愛らしいく素敵な方なので、一緒にきた我が子も
付き添いの方
と表現される。今回の付き添いは2歳だった。
なんとも頼り甲斐のある体つきの付き添いではあるのだが、いかんせん頼りにはならない。
とにかく私は水虫な人生は嫌なのだ。お薬手帳にどーみても水虫だとわかるお薬が載るのは嫌すぎる。
ぶっちゃけ上記の謎性病?よりも嫌だ。
そもそもあの性器の痒みは、悲惨な貰い事故みたいなもんなのであまり恥ずかしいとは思ってない。むしろ大人になって性交渉しだした頃の方が複雑で、様々な事を疑われ辛い思いをしたかも分からん。とにかくあの猛烈な性器の痒さが小学生でよかった。私はそう回想する。
なんにせよだ。
またしても水虫に悩まされるシーズンが来た。
♪しぃ〜ずんいんざぁさぁ〜〜ん
がやってきたのである。
大変楽しみな季節なのに、今年は水を差すようにアイツがいる。
この夏はあの場末の病院へ通うことになるだろう。夏の終わりから秋まで、多分キリギリスがギリギリになる季節までは薬を塗らねばならないからだ。
頑張ろう、私。
私の足の裏が健康を取り戻すまで。
追記:あの性器の痒みの正体は結局よく分からなかった。ただ、性器周りの皮膚採取では大量のワーム状のような物体がうつっていた記憶がある。
とにかく考えられる要因は銭湯しかない。
銭湯で移る、性器周りの病について知ってる人がいたら、教えてほしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?