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チャプター1-2: 別れと誓い

「敬礼!やすめ!」

号令が響く最中、ちらっと横目で零式艦上戦闘機を見つめる。お前と僕は一心同体、生きるのも死ぬのも後悔はないようにやるしかない。

「梅田ァ、貴様、話を聴いているのかァ‼︎」

山砂上官の怒号が聞こえた。
俺は「ハッ、聴こえているのであります‼︎」と大声で応え、右手で敬礼の形を取ってから素早く腕を下ろした。上官は呆れた表情で集まった仲間たちに向けて告げた。

「これより、零式艦上戦闘機に乗り込む者の名を挙げる。名を挙げた者は前へ出て、横一列に並び、我々と向き合い、目の前にある杯を取り、片手で掲げて一気に飲み、そのまま割って意気込んで行け。いいな?」

「はい!」

次々と名前が呼ばれ、同期たちが横一列に並んでいく。その中で、俺はふと目の端に池松直人の姿を見つけた。彼は整備士として最後の見送りをしてくれているのだ。

「慶次郎、出撃の準備は整ったな。」

直人が俺に静かに声をかけた。

「ああ、整った。」

「そうか、いよいよだな。最後のひとときだが、しっかり頑張ってこい。」

直人の目には、普段の彼の無邪気さは見られず、真剣な眼差しが宿っていた。彼のその言葉に俺は深く頷いた。

「ありがとう、直人。お前が整備してくれたおかげでここまで来られたよ。昔、機体を壊して帰って来たときはおかんむりだったけどな」

と、にやけた顔しながら直人にそう言うと、直人は一瞬不機嫌な顔したが、気を取り直しこう言った。

「五月蠅い、解ってんなら今回も無事に帰るのを待っているからな。機体を壊してでもだ」

直人の言葉には、仲間としての深い感情が込められていた。俺はその言葉を胸に刻みながら、整備士たちと最後のひとときを過ごした。

その時、山砂上官の声が再び響いた。

「梅田、出撃準備はできたか?」

「はい、整いました!」

俺は深く息を吸い込み、零式艦上戦闘機の前に立った。エンジンの轟音が耳を打ち、コクピットの振動が体に響く。ここからはもう、戻る道はない。

「梅田、生きて帰れよ。お前が戻ってくるのを待ってるからな。」

その声が聞こえたのは、俺の横に立っていた井上 大輔だった。井上は冷静で物静かな性格でありながら、深い友情を見せてくれる仲間だ。

「ありがとう、井上。ここまで来たらもう後戻りはできない。」

「それでも、生きて帰ってこい!」

井上の言葉には、彼らしい真摯な気持ちが込められていた。

「嗚呼、勿論だ。」

その後、明るく元気な同期の田中 俊介が話しかけてきた。田中は普段はおちゃらけているが、戦いの前には真剣な一面を見せる人物だ。

「梅田、いよいよだな。お前が無事に帰ってきたら、また一緒に飲みに行こうな!」

「おう、田中。もちろんだ。生きて帰るために全力を尽くす。」

「それでこそ、俺たちの仲間だ!」

田中の言葉に、僕は力強く頷きながら心の中で決意を新たにした。皆との別れは切ないが、これが運命であるならば、全うするしかない。

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