チャプター2-2:花びら舞う帰還
自室に到着すると、まずは軍服を脱ぐことにした。汗で湿った軍服は、予想以上に重く感じられた。肩から外すときのゴロリとした音が、部屋の静寂の中で一層大きく響いた。扇風機の涼しい風が、汗ばんだ肌に心地よく感じられる。
「さて、まずはシャワーを浴びてさっぱりしよう」
浴室に向かう途中、ふと壁に掛けられた写真立てに目が止まった。そこには笑顔の美紗子が写っている。普段からあまり笑顔を見せない彼女の貴重な一枚で、その笑顔がどこか安らぎを与えてくれる。
「美紗子も元気でやっているかな」
軽く微笑んでから、浴室のドアを開けた。温かいお湯が流れる音が、心の中の緊張を少しだけ和らげる。
シャワーを浴びてさっぱりした後、俺は着替えながら明日の任務の準備を始める。少しの間でも、気持ちを整える時間が欲しかった。部屋の隅に置かれた一式の装備を整えながら、戦いのこと、家族のこと、そして美紗子のことを考える。
「美紗子には、今日会えるといいな」
そう呟くと、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
部屋の片隅にある小さな机の前の椅子に座り、次の任務で使う資料を広げながら目を通す。資料の内容は簡単なものでありながら、これからの重要な任務のために真剣に確認しておく必要がある。
進路変更があればそれも記さなくてはいけない。特に飛行距離を間違えて逸れてしまったら、命取りだ。
「ふう…全て準備は怠りなく終わったな…」
やがて時計が深夜に近づく頃、自室のドアがノックされた。驚いた俺はゆっくりドアを開けると、そこには美紗子が立っていた。
「お帰りなさい、慶次郎お兄様。準備は進んでいらっしゃるの?」
美紗子の言葉には、いつもの明るさと優しさがあった。その姿に、心の中の不安が少しだけ和らぐのを感じた。
「ああ、荷物はそんなに多くないから大丈夫だよ」
美紗子は俺の言葉を聞いて、さらに微笑んだ。艦への出陣まで順調に準備が終わったことに、俺と話せることが嬉しいようだ。
「でしたら、慶次郎お兄様、お夜食でも食堂までご一緒に行きませんか?」
美紗子は嬉しそうに、俺の手を引っ張り、自室から連れ出そうとする。
「全く、美紗子には敵わないな」
俺の言葉に美紗子は困ったように照れながらも、手を握り締めたまま離そうとせず、食堂まで歩き出した。
「慶次郎お兄様、次お帰りになるのはいつになるのかしら」
「さあ…こればかりはお上の指示によって、期間は変わるから分かりかねるな」
と、俺は美紗子にそう伝えた。お上の指示によっては、帰還できるかどうかさえ怪しいのだから、断言して期待を持たせて美紗子にがっかりさせるよりも、濁してしまう方がいい。
「そうなのね…でしたら、またお手紙くださると嬉しいわ」
美紗子は俺を見つめながら、いつ届くかわからない手紙を強請るその姿に、俺の心がドクンと弾んだ。
「ああ、それはもちろん、お前のお願い事はいくらでも叶えてあげたいからね。」