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童貞について―クンデラの場合
私は女気のない二十歳の若者にしか味わえない不幸を経験していた。それは肉体的な愛を二、三度だけ、それもそそくさと拙劣に知っているだけなのに、そのことばかりにたえず頭を悩まされる、かなり内気な若者の不幸だった。毎日が耐えがたいほど長く、空しく感じられ、私は読むことも、働くこともできず、日に三度も映画館に行った。午後の部も夜の部も全部観ていたのは、ひたすら時間を潰し、たえず心身の奥底から発してくる梟のような鳴き声をかき消すためだった。(私が巧妙に尊大なふりをしていたので)マルケータは私のことを女に飽き飽きしている男だと感じていたらしいが、そのじつ、私は街を行く娘たちに声をかける勇気もなく、彼女たちの素晴らしい脚もかえって目の毒にしかならなかった。
―『冗談』(ミラン・クンデラ)
【註釈】
「私が巧妙に尊大なふりをしていたので」という括弧書きに注目されたい。
(覚書・GunCrazyLarry)