浜田知明展@町田市立国際版画美術館
町田市立国際版画美術館にて「浜田知明 100年のまなざし」展を観てきました。町田駅から15分ほど坂を登って歩くと、芹が谷公園に併設するような形で町田市立国際版画美術館があります。(公園、桜が咲いてて綺麗だった!)
展覧会タイトルの「100年のまなざし」のとおり、浜田知明さんは昨年12月に100歳を迎えたのだって。そんな長い間、社会を、人々を、そして自分をも見つめてきた浜田さんによる、機知とアイロニーのあるまなざしで制作された銅版画が多数展示されていました。
浜田さんの作品で有名なのは「初年兵哀歌」シリーズ。自身が第二次世界大戦に徴兵された際に体験した戦争の苦しさ、辛さや、実際にそのまなざしで見た屍だらけの風景などを描いている。モチーフとして描かれている人の身体や顔はわりと簡略化されていたりもしていて、肉体が生々しく血が飛び散っている、とかそういうグロさのある絵ではないのだけど、だからこそ、胸にツーンと静かな哀しみが伝わってきた。銅版画の持つ「暗」が浜田さんが当時感じた果てしない闇を、また、細かく鋭い線の描きこみが戦争の途方のなさを表しているようだった。横たわる死体の絵で、死体のお腹がまるく膨れて描かれていたので、わざと死体の身体を印象的にするために丸いカタチに描いてみたのかなぁ、なんて思っていたら、解説を読んで知ったのだけれど、死体が腐るとガスが溜まってお腹膨らむのね...。当時、そんな中国の兵士の死体がゴロゴロしている風景も浜田さんは見ていたよう。私はあまりにも戦争のリアルを知らなすぎるなぁと思った。こういった作品から、その作家のまなざしを通して、少しづつでも教科書以外で知れるリアルを、知っていくのは大事なことな気がする。自らの辛い記憶に向き合い、それを絵に残すのはなかなか出来ることじゃないよね。
他にも社会を皮肉り、見る者に問題を投げかけるような風刺作品が多かった。ノイローゼ気味になった自身の体験をシリーズ作品にしたものなどもあり(お先真っ暗な気持ちや心情不安定な自分を描いたもの、気にしない気にしないと自分で自分に言い聞かせる自身を描いたものとか、私も分かる分かる、と共感しながら見ていた。ストレスの多い現代人なら皆、手に取ったようにその絵の主人公である浜田さんに成り代わった気持ちで見れるはず!笑)、ユーモアやシュールのエッセンスが入っているものも多くて見ていて飽きなかったな。
そんな作品群の中でひときわ光っていたのは「月夜」という絵。月夜の下で裸で横たわる男女を描いたもの。
ポスターにも使用され、この看板でタイトルの真ん中上にも掲載されている、今回の展覧会でメインビジュアルの扱いを受けている作品なのだけれど、この作品だけは他の作品と違って、ただただ深い愛という純粋なテーマが感じられるものでした。愛し合う二人には何もいらない、そんな歓びを改めて教えてくれる絵です。黄緑の色もとっても綺麗!初年兵哀歌やノイローゼのシリーズを見てから展示中盤でこの絵にたどり着くと、浜田さんが辛さ苦しさ猜疑嫌悪不安などの絵だけでなくこういう幸せな絵が描けて良かったな〜って私が思うのも変な話なのだけれど心から思った。時に心を暖められ、時にクスッとさせられながらも、ふと立ち止まって社会を、自分を考えさせられる、心に問いかけてくる作品たちでした。
町田市立国際版画美術館、版画の技法の違いについても教えてくれるコーナーがあって、わかり易くためにもなるので、機会があれば足を運んで、是非にじっくり版画作品に触れてみてください!
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