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四季のフォトスポット 初夏・新緑の候Ⅱ
1.木曽路を巡るカメラ旅
◆島崎藤村ゆかりの馬籠宿
―木曽路はすべて山の中である―。
言わずと知れた、島崎藤村の名作「夜明け前」の、あまりにも有名な書き出しだ。
主人公・青山半蔵のモデルは、中山道馬籠宿で代々本陣・庄屋・問屋を務めた島崎家十七代当主・正樹である。
私の「木曽路のカメラ旅」は、藤村の足跡を辿ったわけではないが、藤村ゆかりの「馬籠宿」から始まった。
馬籠宿は、石畳が敷かれた坂に沿う宿場町。
日常から離れ、水のせせらぎ、小鳥のさえずり、街道を横切る風を感じながら、都会にはない雑貨屋さんや、レトロなカフェなど、新しいのに、どこか懐かしい街道だ。
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古い街道を通り抜けると、そこには長閑な田園風景が広がっていた。カメラマンとしては、むしろ、こちらの方に写欲をそそられた。
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岐阜県・馬籠宿から長野県へ移動し、木曽駒高原「キビオ峠展望台」を経て「開田高原」で宿泊、翌朝「霜の降りた木曾馬の里」の撮影。帰路「寝覚めの床」で撮影という一泊二日の旅だった。
◆キビオ峠
展望台木曽駒高原にある展望スポット。木曽谷をはさんで御嶽山等の山々がきれいに望める。
昼間の凛々しい山もさることながら、夕暮れ時、紅に染まった空に浮かび上がる御嶽山の雄大な姿は格別だ。
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◆木曽馬の里
長野県の天然記念物の木曽馬は千二百年にも及ぶ歴史の中で優れた馬として名声が高まり、木曽義仲が京都へ攻めのぼる際の軍馬の主力であったといわれる。ここでは木曽馬が三十頭ほど飼育されている。
木曽馬の里では早朝の風景を撮るために四時半頃に着いた。
まだ馬の姿は見えず、整備された散策道を歩きながら、露や霜のついた草木を撮っていると、十時過ぎに漸く、雄大な御岳を背景に、ゆったりと草を食む木曽馬を撮ることができた。
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◆寝覚めの床
長野県木曽郡上松町に位置する寝覚の床は、日本五大名峡の一つに数えられ、国の名勝にも指定されている景勝地だ。
浦島太郎は竜宮城から地上へ帰るが、まわりの風景は変わっており、知人もおらず、旅に出ることにした。
旅の途中、木曽川の風景の美しい里にたどり着き、竜宮の美しさを思い出し、乙姫にもらった玉手箱をあけた。玉手箱からは白煙が出て、白髪の翁になってしまう。
浦島太郎には、今までの出来事がまるで「夢」であったかのように思われ、目が覚めたかのように思われた。
この里を「寝覚の床」と呼ぶようになった所以である。
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2.新緑の阿蘇を巡るカメラ旅
◆菊池渓谷
阿蘇外輪山の北西部の標高500m~800mの間に位置し、菊池川の源をなす菊池渓谷は、1,180㏊の広大な面積からなる「憩いの森」である。
うっそうとした天然生広葉樹で覆われ、その間をぬって流れる淡水は、大小さまざまな瀬と渕と滝をつくり、その変化に富む渓流と美しい森林とがおりなす姿は絶景だ。
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◆草千里ガ浜
阿蘇五岳の一つ、鳥帽子岳の北壁に広がる大草原と、雨水が溜って出来たと云われる池とが織りなす自然のコントラストが美しい草千里ケ浜。
朝陽に染まる水面を撮ろうと池の畔に着いたのは五時。ここから光のドラマがはじまった。
昇り始めた太陽が少しずつ明るさをまし、5時34分、雲間から差し込む光が水面を染めた。
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◆阿蘇仙酔峡
阿蘇仙酔峡は、標高が約900mあり、眼下には阿蘇カルデラの北側に阿蘇谷と北外輪山が一望できる。
約五万株のミヤマキリシマツツジが阿蘇中岳と高岳の北陸に位置する渓谷に自生し、五月上旬~中旬ごろに見頃を迎える。
生憎雨が降ってきたが、傘をさした人々が添景となって平凡な画面を引き締めてくれた。
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3.佐賀の棚田を巡るカメラ旅
◆土谷の棚田
日本の棚田百選の中でも指折りの棚田との呼び声も高い土谷の棚田。
毎年四月末から五月初旬にかけて行われる田植えの時期には、約400枚の水田が太陽の光に照らされて様々な表情に変化する。
太陽と島影、そして棚田の美しいコントラスト・・・
一瞬の瞬間を捉えるため、全国各地から多くのカメラマンが撮影に訪れる。
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◆大浦の棚田
かつて弘法大師がこの地の美しさに筆を投げたと伝えられる「いろは島」を背景に広がる大浦の棚田は、伊万里湾を見下ろす斜面に約1,100枚の田んぼが連なる、美しい棚田として知られ、日本の棚田百選にも選ばれている。
棚田は台地の端にある道路のすぐ下方の「みかん畑」から海まで、等高線状に切れ目なく続き、水を張ったばかりの時期は、光が水面に反射して幻想的な風景を醸し出す。
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