首都を護る伏魔殿・・・その名は【 警視庁 】
序章:なぜ「伏魔殿」なのか?
まず、最初にお伝えしておくと、伏魔殿とは「悪魔が棲みつく処」という意味です。では、警視庁自体が「悪魔の巣窟なのか」というと、決してそうではありません。
むしろ逆のイメージです。命を賭けて都民の安全を守っています。安全な地域をつくることで安心できる生活を都民に提供しています。だから、個人的には、警視庁には尊敬の念を抱いて止みません。
ところで、「警察組織」に対するイメージ、皆さんはいかがでしょうか?
私は感謝をしているとお伝えしたものの、少々複雑なイメージを持っています。それは、いわゆる「ご厄介になったから」ではありません(笑)。
間接的に、人生を狂わされたのです。そんなに大きくではないですが。
今回のお題となっている警視庁。管轄は国会議事堂や最高裁判所、それに皇居などがある東京都です。
ここは、他の警察組織と比べて、特に「立身出世」を夢見る方々が多いようです。一に出世、二に出世、三・四がなくて、五に出世です。出世という欲望を必要以上に膨らませる魔力を持っている官庁、そういう意味を込めて、敢えて伏魔殿と呼ばせてもらいました。
定年退官後に、「俺は最終的に〇〇の階級まで昇りつめて、△△△という役職を任されたんだ」と自慢する人もいますが・・・
はっきり言って、どうでもいい話なんですよ。犯罪の脅威に怯えながら生活する国民の一人として言わせてもらえればですね。
今回は、その警視庁の中でも花形組織と言われている「刑事部捜査第一課」に焦点をあててみたいと思います。今から15年くらい前の記憶に基づく内容なので、今は多少違っているかもしれませんが、その点はご容赦ください。
1.捜査第一課の責任者
捜査第一課の責任者は、課長です。今では54歳から56歳くらいの方が就任される例も散見されるようですね。このように若くして就任する警察官の場合、概ね巡査拝命後、警部になるまでのすべての昇任試験を一発合格しているようです。15年くらい前までは定年退官間近の警察官が就任していた例が多かったように思います。なので、概ね58歳から59歳の方ですね。
大卒の警察官に限らず、高卒の警察官も就任します。むしろ、高卒警察官の方が大卒警察官よりも数年は捜査実務を多く経験している分、統率力にも差が生じてくるとかこないとか・・・。
実は、捜査第一課長を経験しないと就任できないポストというのもあります。例えば、東京都の千代田区に「麹町警察署」という警察署があります。ここの責任者である署長は、捜査第一課長経験者の指定席のようです。
警察署と冠するので、全国にある警察署と同じく、警察本部に属する管轄署のひとつに過ぎません。ただ、この麹町警察署は、日本全国にある管轄署の中で最も規模の大きい警察署として知られています。
署員数にして、大体350名前後。
昭和11年(1936年)の2月26日に、いわゆる「二・二六事件」が発生し、警視庁本部が旧陸軍のクーデターによって占拠された際には、事件収束までの間、仮の警視庁本部が置かれた警察署でもあるのです。
警察組織は、徹底的な階級社会です。警視庁刑事部捜査第一課も例外ではありません。ここの課長の階級は「警視正」です。警察組織の階級は、全部で9つ設定されています。
下の図をご覧ください。
そして、人事慣行・・・つまり人事の流れとして、どういった人物が捜査第一課の課長に就任できるのか?
大体のルートは決まっています。同じ刑事部内に「鑑識課」という部署があり、そこの課長からの昇任が既定路線のようです。
ちなみに、鑑識課長の階級は「警視」なので、捜査第一課長へ就任するのと同時に、階級も「警視正」へと上がるわけです。
また、この捜査第一課には約400人の捜査員が在籍していますが、そこの課長にキャリア官僚は就任できません。
ここの捜査員に言わせれば・・・
捜査第一課の捜査員は、全員が血気盛んな「地獄界の赤鬼・青鬼」のような猛者ばかりで、そんな野獣のような猛者たちを「捜査の実務経験のない頭でっかちなキャリア官僚」にまとめられるわけがない、ということが理由だそうです。
2.【S1S】 徽章の意味
警視庁の捜査一課の捜査員に限り、こんな徽章をつけています。
これの意味ですが、【S1S MPD】と書いてあります。
S1Sは、「Search 1 Select」、すなわち「選ばれし捜査第一課の捜査員」という意味です。下の方のMPDは「Metropolitan Police Department」、日本語で警視庁を意味します。
これこそが花形組織の一員であることの証であり、誇りなのだそうですよ。
3.捜査第一課内部の組織 【13名の管理官】
15年くらい前の記憶だと、一課の内部には、たしか約20程度の係があったはずです。名称は、「殺人犯捜査第〇係」のような名称だった気がします。殺人犯だけではなく、強行犯もあれば特殊犯もあった気がします。
そして、その約20の係をまとめていたのが、13名の管理官と呼ばれる一課の幹部たちです。人によっては「12名」と仰る方もいますが、厳密には13名です。これも、今は人数が変わっているかもしれませんが・・・
この13名のうち、12名の管理官は、巡査を拝命して後、何年もかけて捜査の実務経験を豊富に積んできた、いわゆるたたき上げのベテラン刑事たちです。だから、野獣のような猛者たちの扱いにも慣れっこなのです。
特に、殺人犯捜査第一係を担当する管理官は、通称:ショムタン管理官又は筆頭管理官と呼ばれ、課内の庶務(総務)を取り仕切っています。ショムタンとは、庶務担当を省略した呼称です。
捜査第一課という組織が、ひとつの課にしてはあまりにも規模が大きすぎるので、「課内総務」の部署をつくり、そこで調整する必要が出てきたというわけです。管理官にも序列があるようですね。
さて、残りの1名の管理官には、どんな人物が就任するのでしょうか?
実は、この1名分の席にはキャリア官僚が就任します。15年ほど前で、この管理官に就任するのは、たたき上げの刑事で大体54歳から57歳くらいの警察官がほとんどでした。
しかし、このキャリア官僚は、最短ルートだと29歳で就任することになります。細かい内容は失念しましたが、4年生大学卒業と同時に警察庁に作用され、警部補に任官。そして・・・たしか2年間は警察大学校で教養を受け、5年間は警察庁本庁や各警察本部で企画立案の基礎を実務を通して学びます。
初任時代最後の警察大学校卒業時の成績・・・この中には現場研修での成績も含みますが、それらを総合的に勘案した結果で、警察大学校卒業後の現場配置先が決まります。その同期の中でトップの成績を修めた者が、警視庁刑事部捜査第一課へと配属になり、同課内13人目の管理官(=課長代理)のポストが与えられるわけです。
そして、ここでいろいろな意味で可愛がられ、その後も特に何も不祥事を起こすことがなければ、将来の警察庁長官または警視総監になる人物となります。従って、この13人目の若き管理官には渾名が与えられており、「長官」または「総監」と呼ばれます。
このキャリア官僚たる管理官は、ドラマなどと違い、捜査第一課における捜査実務など全く知りません。つまり「仕事ができない」捜査員とみなされるのです。ですので、某ドラマのように、キャリア官僚の管理官が捜査の陣頭指揮を執るなど以ての外です。
仕事ができないのであれば、できる仕事を与えればいい。そんな発想から生まれたのが、「鍋づくり」と「酒の用意」ですね。捜査本部が組まれた場合などに、人数分の鍋と酒を準備する。これが「将来の長官または警視総監」に与えられた仕事なのです。
そして、鍋の味がイマイチな場合、遠慮なく先輩刑事からの檄が飛びます。本当に容赦ないですよ。「もう一度、キャリア試験からやり直してこい!」くらいのことを言われるのは、茶飯事らしいです。
4.捜査第一課の業務範囲
これは、意外と皆さん、勘違いされますね。
一般的には、「捜査第一課は別名:殺人課とも呼ばれており、殺人や強盗殺人のような凶悪犯罪の対応を専門にしている部署」と言われることがあるそうですが、これは誤解です。
例えば、警視庁刑事部の場合、「捜査第〇課」と数字の入る課は、以前までは捜査第一課から第四課までの4か所が存在しました。しかし、制度改正により、捜査第四課が組織犯罪対策課という名称に変更されました。いわゆる極道対策の部署として独立性を持たせた形です。
では、それ以外はどうでしょう?
捜査第二課は、詐欺・横領・背任・選挙違反・一部の組織犯罪などを扱います。捜査第三課は窃盗犯罪専門と言っていいでしょう。
実は、捜査第一課は、上記の犯罪以外のすべてを扱います。なので、非常に多岐にわたります。爆破事件、誘拐事件、立てこもり事件、列車転覆事件、殺人事件、強盗事件、傷害事件、暴行事件、不同意性交等の事件、放火事件などなど・・・。
5.最後に
だいぶ長くなってしまいました。
何か参考になれば幸いです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。