Rex Orange Countyに会えてしまった
「明日Rexのポップアップあるらしいよ。」と友達から聞いた。
Rexとはご存知、UK稀代のポップソングメーカー、Rex Orange County(以下、Rex)。全米ビルボードチャートで3位を獲得した前作『PONY』から約2年ぶりとなる新作『WHO CARES?』を今月の11日にリリースした。
今でこそ大好きなRexだが今思うとかなり遠回りな出会い方をした気がする。僕は彼が躍進するきっかけとなった『PONY』をリリース当時から聴けていたわけではないし、Tyler, The Creatorの『Flower Boy』の客演で知ったわけでもない。僕はPeter Cottontaleの客演で初めて知った。
2020年のUKで1番聴いたのがThe 1975の『Notes on a Conditional Form』ならUSで1番聴いてたのはこのPeter CottonTaleの『CATCH』。2020年の4月、コロナ禍で先が見えない未来の話ばかりで世界が悲しみに暮れていた時期にリリースされた作品。中心はゴスペルだけど様々なジャンルを横断していてとにかく優しくて陽だまりのように心地が良かった。愛とか救いとか普遍的なテーマだけど、だからこそあの時に出るべくして出たようなアルバムだったんじゃないかなって必然性を感じていた。ここに出てきたRexの声が凄く好きで調べて『PONY』に辿り着き見事にどハマり。てかRex、めちゃくちゃラッパーの客演に呼ばれてるの面白い。
このPeter Cottontaleを一時期死ぬほど好きだった元欅坂46、長濱ねるがInstagramのストーリーに上げていた時には正直、頭が吹き飛んだ。周りで聴いてる人も全然いなくて嬉しすぎてPeter Cottontaleがめちゃくちゃ好きというオタク語りを送ったら、長濱ねるのストーリーにコメントが送れなくなってました。ごめんなさい……。
話が逸れすぎました。そのRexが先日、魔法のようなアルバムをリリースした。それが『WHO CARES?』。皆さん聴きました? 詳しい音楽理論はわからないので省きますが、僕は年に数回だけ「音楽は魔法だな〜」と思う時があって今作はマジでこれでした。ポップスの魔法。メロディーとしてメインに聴いていても、歌詞をメインに聴いていてもどちらの強度もバリ硬すぎる名作だと思う。聴いていて自然に笑顔になって元気な気持ちになれるのはやっぱりポップスならではであって、音楽の魔法だな〜と思う。
そんなこんなで二つ返事で「ポップアップ行く!」と返し迎えた当日。ポップアップのオープンは12時。「平日だしそんなに人もいないだろう」とのんびりと準備をしていたら、案の定バスが渋滞に巻き込まれ到着ギリギリに。せかせかと目的地に向かって歩くと人混みが見えてきた。
いや、並びすぎだろ。平日の真っ昼間だぞ。結果、12時ぴったりに着いたけどもめちゃくちゃ混んでいる。ざっと見て500人くらい並んでる。あっさりとグッズを買えるものだと思っていたからちょっとだけ舐めてました…。ここ数日晴れが続いていたのに今日は朝からどんよりと曇り、雨まで降ってきた。朝から曇り空が何か茶色かったけど雨水まで茶色い。コーヒー牛乳みたいだなと思ってた。サハラ砂漠の砂が飛んできていたらしい。黄砂なんてのは日本にいた時によく聞いていたけど、それがサハラ砂漠と言われると急にレア感が増す感じがしますね…
かれこれ並ぶこと2時間あたり。あまりにも列が進まない。ここ数日の春みたいな気候に慣れてしまったせいかめちゃくちゃ寒い。前に並んでるグループなんて傘を持ってきていないのに雨に濡れ切ってビショビショ。グッズが買えるぐらいのポップアップなのに何でこんなにも進みが遅いのかと思っていたら自分の横を「I saw him!!!!!!!!!!!!」と青年が叫びながら走って行った。マジで?マジでRexいるの?
「いやでも流石に会えんだろう。こういうのって在廊するの大体最初の30分ぐらいじゃないか。でももう2時間経っているしな…。そもそもこういうことは大体期待しても上手くいかないもの」と思いながら「グッズが買えたらいいか〜」と気楽に考えて、さらに並ぶこと2時間。12時に並び始めたのに、時計はすっかり16時を差しかけていた頃、やっとポップアップの目の前まで辿り着いた。既にオープンから4時間経っているけど果たしてRexは…?
いた
彼はまだポップアップストアの中にいた。4時間もファンの対応してたのヤバくね?ざんざか雨降ってる中で並んでるこっちと目が合うと「雨大変だよね、ごめんね」的なジェスチャーをしてくれた。ファーストコンタクトでさえ、もう緊張しすぎて普通に真顔になってしまった。気楽に何買うかしか考えていなかったのに「マジでRex Orange Countyいるんか…」と急に焦り始める。いよいよポップアップストアの中へ。
会えた!会えてしまった!Rex Orange County!直前までこれを話そう、あれを話そうと考えていたけども全て吹き飛んでしまった。というか目の前にいたこと自体が幻だったのかと思えるくらい未だに信じられない。何を話したかさえ覚えていないんだから。それも仕方ないかなと思う。だってYoutubeで何度も見たGlastonburyのライブ映像の人が目の前にいるなんて。唯一覚えているのが「日本で待ってるよ!」って一言に「任せろ!」ぐらいのニュアンスがあったような気がする。
グッズもたんまり購入。ポップアップ限定Tシャツが可愛くて早く着たい。夏が待ち遠しすぎる。4時間で辿り着いたポップアップストアの中はもうほぼほぼ売り切れ寸前だった。元々20時までオープン予定だったのに人気過ぎるな。こう見ると立ち位置は違えど少し日本でいう星野源みたいな感じなのかなと思う。ポップスとバンドミュージックの上手く繋げてる才能含めて。
この日はある意味ロンドンに来て一番緊張した日だった。しかもそれがRexの音楽に救われていたタイムリーな時期だったから。僕は今作のタイトルにもなってるラストナンバーの『WHO CARES?』って言葉がとても好き。単純に直訳すると「誰が気にするの?」なんだけど、その一言が海外に来てからひたひたと感じる自分の汚いプライドや劣等感をどれも許してくれているような気がするから。僕にとってはある意味そんな救いの音楽がたまたまRexの『WHO CARES?』だった。慣れない生活の中で自分は色々なことを怖がっているけど、そんなのいつかはちっぽけな事に変わっている。
まだまだ先の長い異国の生活で嫌なことがあるたびに、彼は「何を気にしているの?」って何度も歌ってくれるのだろう。その度にきっとまた頑張ろうと思える。そんなちっぽけな悩みは誰が気にするの?