書物巡礼
『A子さんの恋人』
「なんで好きなのか、
ひと言で言うのは難しいよね。
僕も本当はうまく言えないよ、なんでえいこちゃんのこと好きなのか。
でも、ひと言では言えないけど好きなんです。」
「A太郎さんもアメリカの彼も
えいこさんが完璧な人だから好きなんじゃないと思うな。
お互いの悪いところをわかった上で
「ふたりで許し合って生きていきませんか?」
って、言ってるんじゃない?」
「「like」じゃなくて、「love」のほう。
「I love you」。
それはつまり日本語に訳すと
「一緒にいたい」ということです。」
自由と尊厳。
私が好きなひとといる上で1番大切にしたいことである。
誰かと人生を共にするのは中々に厄介なことで、厄介だからこそ、それを叶えるために自分は何を大切にしたいのか。自分にとって“誰かと生きる“ということはどういうことなのか。それをはっきりさせないといけないなと思う出来事があった。そうして辿り着いた答え、それが自由と尊厳。
「好き」という感情で作り上げた籠の中でしか互いが羽ばたくことを許し合えないなんて、ひどく寂しくつまらないことだなぁと勝手きままに生きてきた私は思う。
私は恋人であっても夫婦であっても、いつだってそれぞれが飛びたい空を飛びたいように羽ばたいていくことを喜び合える関係でいたい。その姿を見ながら、お互いが「あぁそんな飛び方もあるんだね」とか「君の羽ばたく姿はとっても素敵だね」とか言い合っていたい。
難しいことかもしれないけど、でも私はそうしたい。
私が大切にしたいひとなのに、自分が安心したいがためにその大切なひとの可能性を狭めるなんて、いやだな。
この漫画の主人公えいこちゃん、A太郎、A君も、まさに、自らの愛情と互いの生き方の尊厳の狭間でそれぞれ自問自答を繰り返していくのだ。
学生時代から7年付き合ったA太郎との縁切りに失敗したまま3年間渡米していたえいこが日本に帰国した。アメリカで恋人になったA君からの婚約の申し出に返事をしないまま。
A君への返事の期限は一年。A太郎とA君。東京で生活を営みながら、えいこはどのような決断を下すのか。
A太郎はいわゆる“モテ男“で、顔の良さと要領の良さでいつも人に囲まれ女の子にチヤホヤされるタイプ。スルっと人の懐に入り込むちょっといけすかないやつ。
最初読み始めた時は、そんなA太郎にえいこちゃんが翻弄されてるうちに、“ヨリ戻しちゃいましたっ、チャンチャン!“的な、ラブコメちっくな流れになるのかなぁと軽い気持ちで読んでいたのだけど、それがとんだ間違いで、話が進むごとにそれぞれの心の底にある不協和音が明るみになっていき、日常のやりとりでの穏やかさとのコントラストにハッとさせられ、どんどん話に惹きつけられてしまうのだ。愛情故の臆病さ、自分が自分でいることへの不安と焦り。身に覚えのある感情に出くわしては静かに胸が痛む。
そして、そんな主要人物たちの心の揺れを見守るサブキャラがまた非常に味わい深くて良い。
人物像が1人1人リアリティがあり、愛嬌もあり、読み終わる頃には全員を好きになる。
私的なオススメはアイコちゃん。最初「私この子と絶対仲良くなれないなぁ...」って思ってたけど、最後、「アイコちゃん頑張ったね!」と心の中でハグしてしまった。切ない。
詳しくは4巻を。
単純な「スキキライ」だけでは物事を片付けられない大人の私たち。自分の人生に誰かとの人生をどうやってリンクさせて進んでいくことがほんとの幸せなのか。『A子さんの恋人』それぞれの登場人物の答えのなかに、きっとあなたにピンとくる答えがあるはず。
軽やかに、じっくりと読んでいただきたい1冊。
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