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書物巡礼 2021.6.13


「女の園の星」

「今日お昼購買ダッシュね」
「おっけ〜」

「ね〜、次の授業誰だっけ?」
「えーっと…..。ポロシャツアンバサダー」
「ああ大使か」「ダル」


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高校生活はたのしかった。
それなりに揉め事もあったけど、総じてたのしかった。
特に思い出深いのは1年生のクラス。
いつも一緒にギャアギャア騒いでいたお馴染みのメンバーとは今だに連絡を取り合い、去年はとても久し振りにみんなで集まってランチをしたのだが、その時もギャアギャア騒ぎ過ぎてお店の方から注意されてしまったほどだ。
半数以上が結婚しママになったけれど、彼女たちと会うと一瞬で1年5組教室廊下前にタイムワープする。制服姿で笑い転げていたあの私たちに。

高校の時代のたくさんの思い出。友だち同士、
クラスメイト、部活、先生、先輩後輩、憧れの人、仲の悪かったあいつ.....。
そこで”面白かった”と頭に残っていることの大半は本人達以外には共感してもらえないもので、例えば「ねぇ、高校のときにさぁ」と彼に得意げに話してみたところで面白さの半分も伝わりはしない。「へぇ」と返され、何が面白いか分からない時特有のあの虚ろ顔で目を逸らされ期待外れな雰囲気になるのが関の山だろう。
同じ空気の中で同じ景色を見ていた私たちだけが、その面白さを分かり合えるのだ。
この漫画のなかで起こる日常は、そんな「身内だから面白い話」の応酬なのだ。「学校」という特殊な環境下の中だからこそ起こる事件。平和でシュールなやりとり。
漫画で起きた出来事と同じことは経験していなくても、「分かるわぁ」という気分になる。とてつもなく懐かしい感覚が蘇り、読んでいてニヤニヤが止まらない。
そしてこの漫画を読んでしみじみ感じる。当事者同士でしかシェア出来ない思い出って、良いよなぁと。
巨大な箱の中で感じたドキドキやワクワク、しょんぼりやしくしく。蜃気楼のように遠く揺めき、もう手の届かないあの日々。時折「あれは幻だったのじゃないか」なんて思いそうになるあの日々。それでも今も脳裏に鮮やかに蘇るあの日々。

わたしはずっと「早く大人になりたい」と願っていたタイプで、今も「大人はたのしいなぁ」と思って生きている。「あの頃に戻りたい」と考えることはない。
それでも、夏の照りつける日差しのなかを歩く制服姿の女の子たちを見かけると、胸の中でしゅわしゅわと音を立てて湧き上がる。メロンソーダのように幼い甘さだった私たちが。

”くだらない。”
大人になるほど価値を見出せなくなっていくソレが、かけがえのない財産である事にこの漫画の彼女たちが気付くのは、きっと制服を脱いで数年後。
私と同じように、しゅわしゅわするのだろうか。

(楓幸枝Exhibition書き下ろし)


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