子どもの外国語習得はもはや大人の義務?
私は英仏2言語が公用語の国カナダに住んでいます。しかし、カナダ人、特に英語が第1言語でフランス語も話せる人は、私のまわりにほとんどいません。英語を話せれば外国へ行っても特に困らないからです。また、日本も小学生から英語が必修・教科となりましたが、週1~2度の英語の授業に任せていては、話せるようになるには程遠いでしょう。今の時代、子どもに有効な外国語教育をしないのは、とても損をしているように感じます。
子どもは語学の天才
「子どもは外国語をすぐに話せるようになる。」とよく言われますが、それはある意味本当です。もちろん、たとえ現地に住んだとしても、会話ができるまでには2年ほどかかりますが、子どもの間なら、母語と同じようにして外国語も習得できるので、大人より楽に話せるようになります。なぜなら、子どもの言語習得方法は大人の外国語学習とは違うからです。
子どもには「言語形成期」というものがあり、生まれてすぐは周りの言葉を聞くだけの沈黙期を経て、1歳で母語を話し始め、文法が確立し、会話の基礎力が6歳までに着きます。学校に上がると読み書きの基礎力が着き、読解力、作文力、抽象的思考力が伸びていき、言語形成期は12歳頃に終わります。
その言語習得黄金期である言語形成期に合わせて、たっぷり外国語に触れさせると、子どもは母語と同じように、自然に外国語を吸収していきます。また、子どもはどんな外国語の音でも楽に聞き取れ、それゆえ自分でも発音できる能力を持っていますが、その万能力は1歳を境に下降し、思春期の始まる12歳で閉じるので、それも大人の外国語習得を難しくしている原因です。
子どもの言語習得はトライアンドエラー
赤ちゃんも最初から正しい言葉を正しい発音で話し始めたわけではありません。喃語(なんご)から始まり、聞いた言葉を自分でも言ってみようと、何度でも口に出します。楽しいお歌が聞こえてきたら、意味が分からなくても、自分の発音が間違っていても、子どもは真似して歌います。娘は2歳でカナダに移住しましたが、日本の祖父がくれた古い童謡のカセットテープを何度も聴いて、「ニンジンさんに連れられて行っちゃった。」と歌っていました。
子どもは少し話せるようになると、「あれ何?」と親に言わせて自分も何度も言ってみます。物と名前を一致させていく作業です。もう少し年齢が上がると、「○○ってどういう意味?」と親や先生に質問するでしょう。子どもの言語習得はトライアンドエラーの繰り返しです。そこに外国語が入ってきた場合でも、同じように外国語と認識しないで、語彙や文法を吸収していきます。
ところが大人の場合は違います。すでに日本語は確立されているので、物の名前や現象、抽象的思考の概念はすでに持ち合わせています。あとは外国語の文法や表現、語彙の習得ですが、母語の干渉が強く影響することと、音が聞き取れないことで苦戦を強いられます。また、子どものように無邪気に言葉を繰り返し練習しないのも大人の欠点です。
2言語話せたら3つ目は楽
幼いうちから子どもに外国語を学習させることが大事な理由は、2言語話せると将来有利というだけでないメリットがあるからです。そのうちの1つに、2言語話せると3つ目や4つ目の言葉の習得が速いというものがあります。私の子どもたちは日英仏の3か国語を自由に話します。私も日英語に加えてフランス語を勉強中ですが、3つ目のフランス語の学習は2つ目の英語の時より楽だと感じています。
英語とフランス語は同じヨーロッパ語で、文法や語彙が似ているということもありますが、1つでも外国語が話せると、3つ目の言葉の習得のコツがわかるのだと思います。娘は高校大学で第4言語にスペイン語、第5言語に中国語を習っていましたが、バイリンガルなら5言語くらいまでなら比較的楽に言葉を増やしていけます。まずは外国語を1つでも子どもに身に着けさせると、言葉の世界がどんどん広がります。
テクノロジーの恩恵
今は外国語学習には夢のような時代ですね。ユーチューブでは無料で(しかもキャプション付きで)ネイティブ話者の発音をいくらでも聞くことができます。また、スカイプやズームでネイティブやバイリンガルの先生に、比較的安価に外国語を教えてもらうことができます。無料の教材も探せばインターネット上にたくさんあります。
私が子どもたちにカナダで日本語教育を始めた20年前は、インターネットが普及し始め、かろうじてカナダで日本のテレビ番組配信が始まった頃でした。もう少し早く子どもを産んでいたら、これらテクノロジーの恩恵は受けられなかったかもしれません。
外国語学習をするのに場所もお金も限定されない時代になりました。このチャンスを利用しないのはもったいないですね。また、子どもは親を見ています。親が勉強しないと子どもは着いてきてくれません。外国語は何歳になっても身に着くので、親御さんも2言語や3言語に挑戦してはどうでしょうか。
参考:中島和子「バイリンガル教育の方法・12歳までに親と教師ができること」、吉川敏博「第二言語習得における臨界期仮説再考」
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2021年2月号に寄稿したものです。 https://torja.ca/kaede-trilingual-12/
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