見出し画像

「失われたものたちの本」と「君たちはどう生きるか」

 映画『君たちはどう生きるか』を見てから数ヶ月、ずっと余韻に浸っていた。過去のジブリ映画の中で最高に気に入って、80歳を超えてこんな映画を撮れる宮﨑監督の才能のものすごさに感服していた。

 そして最近、映画の元ネタと噂されている「失われたものたちの本」をようやく読んだのだが、すると映画の評価がすっかり変わってしまった。

「同じじゃん」と思った。

 舞台設定や異世界の設定こそ違うが、物語の骨子はまったく同じ。特に現実から異世界に入るまでの設定はほぼそっくりそのままで、そのままトレースしたと言っていいほど似通っていたのである。

・母の死
・それを受け入れられない少年の苦悩
・尊大で少年を理解しようとしない父親
・少年の苦しみをよそに再婚する父親
・大きな屋敷に住む、父親の子を妊娠中の新しい母親
・苦しみの中、亡き母の声に呼ばれ、そこで出会う怪物
・怪物に導かれて異世界に入る
・その異世界は母の先祖が王として君臨する世界
・先祖は後継者を求めて主人公を呼び寄せていた

 読み進めながら「おいおいおい……」と思った。

 無論いろいろと違う部分もあるが、これだけ共通していればそれはトレースだろう。クレジットには「失われたものたちの本」も作者名も入っていなかったが、これは何らかの合意があっての翻案なのだろうか。正直に言ってオマージュという域は軽く超えていると感じる。もし無許可でこの映画を作ったのであれば、これはトラブルになるのではないだろうか。

 とはいえ無許可なら日本でもさすがにもっと騒がれているはずだと思うし、僕が知らないところで原案として明記されているのかもしれないが、もし正式に翻案として作られたのであれば、どう考えてもクレジットには原案として明記されていないのは不自然なのではないかと感じる。

 絵コンテ集にも「ジ・アート・オブ 君たちはどう生きるか」にも「失われたものたちの本」の名前は登場しないし、先日放送されたドキュメンタリーでも一切触れられていなかった。ゴールデングローブ賞で「原作を持たないアニメ作品としては初」と大々的に報じられた。もし意図的に隠しているのだとすれば、それはとてつもなく不誠実な行為ではないかと思う。

 アカデミー賞にノミネートされ、個人的には受賞確実と思っているが、この部分がはっきりしないと喜べないと思う。もし無許可であの映画が作られたのであれば、それは大問題ではないだろうか。

 宮﨑監督!
 児童文学の信奉者ならば、優れた児童文学を隠すようなことはするべきじゃないんではないでしょうか。せっかくの優れた作品、それも、今度こそ引退すると決めた自分をこの世に呼び戻した作品を、もっとたくさんの人に読んで貰う絶好のチャンスだったのに、その作品を隠して「原作 宮﨑駿」「ストーリーはオリジナルです」というのはあまりにも酷いのではないでしょうか。

 監督の良心に期待し、今後「失われたものたちの本」が正当に扱われることを望みます。

いいなと思ったら応援しよう!