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「植物電子の本」 感想


今回は趣向を変えて、9月16日に発売された平沢進の2作目のギターアルバム「植物電子の本」についての感想文を認めようと思う。ただ、普通にやってもつまらないので、今回はいくつかのルールを設けて行うこととする。

【ルール】
1.曲の感想は曲が再生されている間と再生終了後の数分しか書けない。
2.曲は基本完全初見で聴くものとする。(試聴配信された一曲目は事前に聴いたものである。)
3.全ての曲を聴き終えたあとに、文章の修正を行う。ただし、変えてもいいのは文章として意味が理解できない部分のみとする。

まあ、こんなものでしょう。時間を置いてしまうと、初見で感じたモノは劣化するため、出来るだけ新鮮なうちに書き連ねておこうという魂胆だ。キミたちも時間があるときにやってみるといい。

ただし、忠告しておく。これは私個人が音楽を聴いて感じたことだ。少なくとも、これが全てではないということを覚えておくべきだ。そして、自らも聴きながら感想を書いてみて、私のと見比べてみると良い。違いが如実に現れるはずだ。それを楽しむのもいいかもしれない。

〜感想〜

【0.ブックレット内に記載されている文章】
これは平沢進がこのCDを聴くリスナーのために書いた文章である。この文章は、これから、彼が作り上げた音楽を聴くリスナーを導くためのリード文のように見受けられる。彼が70年間の間で見てきた、暗雲が立ち込めてる散々な世界から逸脱したその後の風景を楽しむための説明。そして、無意識によって導かれ、この作品と出会った私たちにかける言葉。その言葉から彼の人間に対する思慮深さと期待が感じ取れる。やはり、彼は創作の途上でこの世界にわずかながらに存在する何かしらの光を認識しているのだろう。

【1.記憶草の万象暦】
試聴配信された曲である「記憶草の万象暦」。この曲は激しいギターと優しいギターの音が貴方を出迎えてくれるはずだ。それは、この世界に来た人間を迎えるためのウェルカムミュージックとも言える。ドリンクよりも快適だ。そして、彼の声が聞こえてくる。その声は安心感を誘う。安心感とともにやってくるのは想起だ。彼が過去作り上げてきたアルバムのテーマでもある「全き人格の回復」。そう、この想起は「全き人格」を呼び覚ますものだ。さて、ここまで来たら、この先に存在し貴方を待っている曲たちと出会う準備ができただろう。さあ、楽しみましょう。輝かしい世界を。

【2.植物電子の本】
アルバム名と同名の曲。その曲は日常を表現したものと感じた。何気なく生きる日々で見つける、幾多もの変化と気づき。そして没落と生還。それを一曲で表したものであろう。次第に壮大になっていく雰囲気は、老化によってより鮮明になる視界によって、向上した変化と気付きのクオリティを表しているかのようだ。謎の男の声は我々を導く声なのか、それとも惑わす声なのかはわからない。しかし、彼の声がなければこの日常はつまらなく退屈なものであっただろう。そして、最後には死の間際に細くも美しい弦の音から「ああ、素晴らしい人生だった。」と考える男の風景が想像できた。美しい人間の生涯を表したような作品だった。

【3.浮揚花の野辺で】
浮揚花がどういったものかはわからない。しかし、最初の十数秒で、それが美しく咲き誇りながら浮き続ける植物であることがわかった。この曲は、それらがたくさん存在する野原の雰囲気を音楽に落とした物だと言えるだろう。その神秘さと不可解さが一気に押し寄せる。そして、そこに突如として現れるギター。このギターがこの雰囲気をさらなるモノへと進化させる。ほら、やってきた。新たな音だ。雰囲気を破壊せずとも、それらを進化させることができるのは、この野原を管理する庭師である彼の卓越した技術と、感性によるものだろう。浮遊する花を剪定するただの庭師。庭師には不思議な要素は全くない。強いていえば、ありふれた存在である人間と浮遊しながら咲き誇る花という、2つの対立したものが醸し出す雰囲気はどちらも美しい。それらが混ざり合い、反応して生み出された麗しいハーモニーに心酔する私。ああ、なんて心地良いのだろうか。その情景を感じ取りながら、紅茶を啜っている私はこう言うのだ。「これが隣接次元のひとつなのか?」って。

【4.登山する植物】
厳しい環境の山を登る植物。しかし、これが本当に植物なのかどうかは分からない。植物にしては少しずつ激化する環境を楽しんでるように見える。暗き激情を感じる曲調の中に確実に存在する美。それが着実に大きくなってきた。ほう。環境をモノにしたのか。さすがは自然の摂理を生き延びただけのことはあるな。軽やかなギターから感じ取れる激しく移ろいゆく場面を楽しむ姿。これは、今を生きる私たちには存在しないものの一つであろう。そうこうしてる内に、彼の登山は終わったようだ。さあ、美しい景色を観に行こうじゃないか。あの植物と一緒に。

【5.連峰の雪の赤い花の領域】
連なり続ける山々に積もる雪。それらとは対照的な姿を示す赤い花々。その花が作り上げる赤い領域。白と赤のコントラストを優雅に楽しもうとする私。そんな姿が一瞬で思い浮かんだ。曲のタイトルに引っ張られているが、正しい情景のように感じる。コントラストの中にある優しさを伴った美しさ、存在の薄さによって軽減されてる不快さを確実に描写している曲だと思う。そこに、楽器と化したヒラサワの声とギターがやってくる。それによってより鮮明になる描写。ゆっくりと、しかし確実に脳裏に浮かんでくる。ああ、なんと美しい。この世界には存在しない美しさだ。しかし、私の脳内には存在する。私の脳内にしか存在しない美しさであるとも言える。さあ、今は独占したこの美しさを楽しむとしよう。

【6.放浪種子 電離層へ向かう】
私は、辛く苦しい感情を少し感じ取った。それは今までの曲調とは少し違った雰囲気だ。軽々しく生きる人間の中にあるなんとも言えない辛く苦しい感情。そんな物を感じ取った。しかし、スパークが発生した。そう、救いがやってきたのだ。少しずつだが着実に変わってくる。そして、輝きを取り戻した人間の美しさがやってくる。そこには暗い感情を残したまま、輝く人間の様子が見える。その姿は輝き始めの瞬間しか見えない。彼の存在を惑わそうとする声を振りほどいて逃げ去る人間。しかし、それはすぐに断ち切れる。この曲の短さからもわかるだろう?電離層はすぐそばにあるんだよ。

【7.遠征する青い花が光に根を張る谷】
遠征の終わり、世界の果てにたどり着いた私が見た景色。それは無限に続く高原。その間に存在する青い花は眩い光を放っている。それは、まるでこの旅路の難易度を評価し、ここまでたどり着いた私を肯定するかのようであった。その花は、私たちを正しい方向へと導くかのような光に根を張る。しかし、私たちはそれらに触れることはできない。触れたら最後。彼らは光を失ってしまうのだ。その光を遠くから楽しむ。そうしたらわかるだろう、自らに光を宿す方法が。そして、理解するだろう。その青き谷と高原に存在する緑を同時に楽しむ方法を。現実で生き抜く方法は、それらと同じだ。
ここまで来て身につけたものがそれだけかって?それさえ身につければ大丈夫だろう。まだ、道はあるんだから。それはこの曲が6曲目であることが示している。別の道をたどれば、さらなる困難でさえも達成する手段を獲得できるだろう。さあ、そろそろこの場所を立ち去るときだ。美しい景色の下から立ち去ろうとしたとき、其処に住んでいる住民から言葉をかけられた。「よし。行って来い。新しい世界にな。」って。

【8.受粉電荷 未来へ帰る蔓】
電子音とノイズ。この2つが同時に存在するのにもかかわらず、この曲は軽い足取りを取る人間のような雰囲気を持つ。それは、この世界を謳歌しながら何かを探している人間のようだ。これは、私が目指す姿の1つである。そう確信した私は彼のあとを追いかける。そうすれば、何かしら新しいものを見つけられるはずだ。そうやって私は彼をずっと追った。どれくらいの時間が経ったのか分からない。しかし、私は見つけた。私が見つけたこともないそのフレーズを。それを拾い上げた彼はさらに楽しみながらこの世界を歩き続ける。それを見送った私は、ふと時間を見る。まだ3分半しか経ってない。永遠に続いたように感じた時間がそれほど短く感じた。しかし、不快感はなかった。こんなに楽しめて、もっと享受したいと思った3分半はそうそうないだろう。

【9.見えるのは光ですか? はい 光です】
さあ、ここまで色んな物を見つけてきた私に示された一つの音楽がこれだろう。全ての終着点で流れるようなゆったりとした曲調。それが、今まで聴いた曲の中で感じたことを思い起こさせる。それがどんなものだったのかを問いかけるギター音。反響するかのように感じるギター音が示した問いは私の心に深く届いた。それは他者からの攻撃が刺さったときの感覚とは違う。心に突き刺さる感じではない。まるで、じんわりと優しく温められながら心の奥深くにゆっくりと伝達していくかのようだ。少し明るい弦から弾かれる音とともに、私は考える。それは確実な記憶として蘇ったものに対する感想だ。植え付けられた価値観を取り除き、何気ない日常を楽しんだ人間の素晴らしい人生の様子。2つの相反する雰囲気が示したハーモニー。私たちにはできないような行為をやってのける植物の数々。脳内に生成された美しさを独占できたことへの喜び。技術を得て、さらなる進化のために別のタイムラインへと行く私を見送る人間の、素晴らしい言葉の数々。辛くても、スパークを見つけ出し、動き始めた生物の歓喜と創造の様子。それらを思い出した私に、曲調とギター音が再度問う。「見えるのは光ですか?」私は、「はい 光です。」と答えて、この旅路を終えることにした。

【10.思い出してください やってきます】
さあ、元の日常に戻ってきた。しかし、私が今まで見たものとは違う輝かしい日々だ。何気ない気付きと変化。それによって色付く景色の数々。ああ、なんてことだ。光があるだけでここまで変わるのか。そんなことを感じ取らせる最後の曲。確かに、10曲目にふさわしい曲だ。そんな日々の中でも、忘れないように、今回の旅路で見てきた景色と問われたことを思い出す。その瞬間、遠くから声が聞こえてきた。それは、思い出したことで向こう側からやってきた、より美しい景色と優しさに溢れる世界への道標だ。今の景色を楽しみながら、その世界へと向かう。思い出すことは必要だ。思い出せば勝手に向こうからやってくる。苦しまなくても思い出すだけでいい。人間は本来、これを享受する才能と権利があるんだから。


読み返してみると、意図してないのにも関わらず、関連性のあるようなものになった。Instrumental曲だけのアルバムを買うのは初めてだが、曲順によってストーリーが形成されるということを理解した。そのエビデンスはこの感想が示してくれるだろう。確かにこの世界を生み出すためには、牛人などの曲を廃棄しなければいけないのも納得だ。

現在、平沢進は核P-MODELの新譜を制作中だ。また発売されたときに同じことをするつもりだ。なんとなく軽い気持ちで始めたことだが、かなり楽しめたから。

さあ、ここまで読んだキミたちも同じことをやってみるといい。別に初見じゃなくてもいい。文章を書き起こそうとしたら勝手に脳が情景を思い浮かべてくれるはずだ。ほら、紙とペンを用意して!

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