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合言葉は「理解不能」。

あの日、私はスマートフォンにかかってきた非通知の電話に出た。その瞬間、私は本来いた世界から消失した。

私は今、テレビだけが置かれている空間に一人きりだ。なぜこの空間にいるのかはわからない。テレビには、定期的に謎の人間の視点映像が映る。その映像の内容は、高層ビルを見上げるだけのものや、山を登っている映像。時には、言葉にすることすら悍ましい惨状が広がっている。しかし、基本的にはある人間の日常風景を映している映像が流れている。

なぜ、私がこの空間に飛ばされたのだろうか。わからない。最近流行りのBackroomsというやつだろうか?しかし、アレはいろんな階層が存在するはずだ。それに、アレはインターネットのミームであり、現実には実在しないはずだ。

それに、この空間にはテレビ以外なにもない。真っ白な空間だ。本当に何もない。真っ白い地平線が広がっているだけだ。一体、これは何なのだろうか?これが死後の世界だというのだろうか。だとしたら、あまりにも退屈だ。それに、元の世界にいたとき、死の直前という場面でもなかった。唯一思い当たることは、非通知の電話に出たことくらいだ。

一体どれくらいの時間が経ったのだろう。この空間には、時間を測るものも存在しない。昼夜もないし眠気もない。空腹を感じることもない。ああ、退屈だ。私のやることは、不定期に映像を映し出すテレビを眺めていることしかできなかった。


しばらくしてから気がついたことがある。最初は何気ない生活の一部分と思われる映像が流れていたが、次第にその頻度は減っていた。代わりに増えていったのは人々が殺し合いをする風景だ。着実に映像の中の世界は変わっていった。そして、この映像を撮っているであろう人間も、撃たれて死んでしまった。誰かから撃たれて倒れる瞬間の視点の映像を最後に、テレビは砂嵐を映し出すようになった。砂嵐なんか一度も映ったことがない。このテレビは電源のON・OFFが繰り返されるだけだった。

私が異変に気がついて少しした頃、男の声が聞こえてきた。
「これでキッカケができた。さあ、もうすぐ貴様を呼ぶ声が聞こえる。準備せよ。」私はいきなりそんな事を言われ、困惑した。突然のことだ。

私は説明を求めたが、その声の主が返答することはなかった。少ししてから、私を呼ぶ声が聞こえてきた。次第にその声は大きくなっていく。一体何だ?
それと同時に、白い空間の一部分が少しずつ色を持ち始め、瓦礫だらけの世界を映し始めた。そして、それと同時に何かが焼け焦げた臭いや、空気の流れを感じるようになった。

「さあ、行け。正常な価値観を持つ者よ。救済の為の道標を築き上げ、汝が本来いた世界へのタイムラインへと移行せよ。」その声と共に私は背中を押され、真っ白い空間から追い出された。一体、何をすればよいのだろうか。そもそもこの状況を理解することすらできていない私に、何を求めているのだろうか。そんな事を考えていると、一人の女が声をかけてきた。

「あら。貴方もマスター・キーを取り上げられていないのね。ちょうどいいわ。私と楽しいことしない?」そう、言われ手を引っ張られた。何故か、その女の手は心地よく感じられた。この世界に唯一存在する温もりのように感じた。



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