彼女がいないと体温が足りない
帰る場所は多い方がいい。
安心する匂いはあった方がいい。
眠る場所は誰かの体温があった方がいい。
狭さなんて感関係ない。
絶対に狭い方がいい。
今日も私は朝方に目を覚ました犬に餌をあげてから軽く掃除を物音をできるだけたたないようにしてからまた彼女のいるとこに着く時間が好きだ。
色んなことを思い出しながら眠る彼女の熱されすぎているような甘ったるい体温を奪ってやる。
スヤスヤと枕の下にはみ出た彼女の頭はその位置で居心地がいいように呼吸している。
寝ている時の髪の毛は起きている時よりもふわふわとしていて、
「ああずっと生きていて」
となんだかそんな情けない気持ちになる。
死んだ人の髪の毛は人形みたいだし、起きている時の髪の毛は少し汗の匂いがする。
彼女の起きている時の髪の匂いは大好きだけれど、寝ている時のあの香ばしいふわふわとした感触と匂いには勝てない。
少しちょっかいを出してみる。
手を握ってみたり鼻を潰してみたりする。(やめてあげて)
たまにぶんと顔を振って少しいびきが出る。
生まれたてのライオンみたいな音がしてそれも大好き。
後何回きけるかなんて今から怖くなるから、次の日彼女が出勤しなくて済む休日の前の日にはついつい手を出してしまう。
こうやって年をとってもいしたいけれど、死にたいしてこんなに怖いのはなくなるのが怖いのは人生で初めてかもしれない。これが、人に期待する、信じてしまうことなのかもしれない。
誰のどんな死でも、帰って行った。また戻るかもしれないし消え去ったかもしれない。でもどこかへ帰ったんだと思う私。
彼女はどこにも帰したくない。
一つわがままを言えるのであれば、彼女が死ぬ前に彼女に嫌われたい。別れをつげる悲しさや、やるせなさや帰ることを許せない私が目に見えて、どこかで生きていて健やかにしていてと勝手に願う存在に仕立て上げたいと思ってしまう私は本当に浅はかな女だなと思う。
こういうわがままや情けなさを他人に普通にペラペラと話してしまうところは祖母に似たのだと腑に落ちる。
血のつながりを感じたかなくとも温度で感覚で感じてしまう。
ああ、神様彼女との時間を永遠にください。
こんな願いをする浅はかな人間には罰が下りそうで怖くなってきたのでこの話はここだけ。
ある時間を大切に。こうやって残して美味しいところは長くは残せないから、感覚を思い出として文章に書くの。
鳥も朝日もまだ目を覚さないでもう少し彼女の寝息を邪魔しないであげて、と願う時間が結構好きだ。
私はこれからもう少し寝ます。おやすみなさい