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【豊島美術館】アートを包み込む母型

今回ばかりは建築的に少し真面目なコラムを書こうと思っています。

ゴールデンウィークに「瀬戸内国際芸術祭」に行ってきたのですが、豊島美術館はやっぱり感動しました。

豊島美術館の設計者である西沢立衛氏は私が大好きな建築家であり、大学3年生の時にインターンに行かせて頂いたこともあります。インターン中は海外主張に行かれていたので、2度しかお会いできませんでした。

なかなか凄い事務所でした。笑

そんな西沢立衛氏設計の豊島美術館は、ディテール「0」の建築と言われているわけですが、「豊島」という自然環境が豊かな場所に建つ美術館や内藤礼氏特有のアートを包み込む建築としては、最善であるように見えます。

今回はその「豊島美術館」について詳しく紹介書ければ良いかなと思います。

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【瀬戸内海に浮かぶ自然豊かな島】

「豊島」は瀬戸内海に浮かぶ島の一つです。自然が豊かで、大きな山や緑、水も豊かな島でもあります。人口約800人の島の面積は14.61㎢で、島の中央部には標高340mの瀬戸内海を一望できる檀山があります。

豊かな森が広がりかつては石材業の産地でもありました。美術館が位置する唐櫃地区は、「唐櫃の清水」と呼ばれる水場があり、農業としても栄えていたという歴史もあります。

しかし、1970年代に産業廃棄物の不法投棄が行われ、「産廃の島」という負のレッテルが貼られてしまいました。

「豊島美術館」の計画は「産廃の島」から「豊かな島」への再生の象徴でもあったのです。

「自然への感謝を表す気持ちが生まれるアート」

そんなコンセプトを実現できる美術館の敷地として選ばれた場所は、唐櫃港にほど近く、海を近くに望む小高い丘の中腹でした。棚田や周辺の自然が混ざり合うような場所が設定されたのです。

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【アートを包み込む自然=豊島美術館】

「豊島美術館」は瀬戸内海に浮かぶ島の1つである「豊島」に建築家である西沢立衛氏が設計した美術館であり、内藤礼氏のアートを展示した建築でもあります。

内藤礼氏は「地上の生の幸福」というテーマを作品を通じて表現し続けている女性アーティストです。

「美術と建築の一体化」がこの豊島美術館のテーマとして掲げられ、内藤礼氏と建築家西沢立衛氏が選出されたという経緯があります。

「生きる喜びを感じられる場所を創ること」をコンセプトに内藤礼氏は「泉が生まれる風景を作り出す」水を用いたアートへの挑戦、そして西沢立衛氏は、半屋外の美術館として開口部はガラスで塞がず、建築物はコンクリートのみを用いて他の材料は使用しないという希望を持って進められました。

2人のアーティストの合算によって、「豊島の風景や天候、光、その全てをありのままに受容する器」つまりは「母型」としての美術館が作られることになったのです。美術館という建築物によってアートを包み込み、自然とアート、つまりは外部と内部を断絶したものではなく、「アートを包み込む自然こそが美術館である」というコンセプトが実現されました。

【水滴のような自由曲線のシェル構造】

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「豊島美術館」はコンクリートの自由曲線によって水滴のような形態をしており、起伏する地形と調和しながらも、この場所に対して力強い印象を見ることが出来ます。

250mmの厚さをした薄いコンクリートのシェル構造で、壁も柱もない大きなワンルームは、最大で60mの空間となっています。

更に大きなシェル構造には2つの開口部が空いていて、そこから採光や通風を確保しています。開口にはガラスも何もなく雨が入って来る半屋外空間です。

最高天井高さが4.5mの低いシェル構造を250mmの壁厚のコンムリートで支えられるのはどうしてか。そんな疑問を多くの方も感じているのではないかなと思います。実際私も気になって調べました。

単純に言えば「アンボンド工法」を採用しています。コンクリートの躯体を打つ前にワイヤーで引っ張り力を与え、その上からコンクリート打設することで、引っ張りに力によって空間を持たせているのです。

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この工法によって「水滴のようなシェル構造」は実現し、自然と一体となった美術館が誕生しました。

どこからがアートで美術館なのか。

どこからが外部でどこからが内部なのか。

どこからが自然でどこからが建築なのか。

そんな曖昧さこそが美術館のコンセプトでもあるし、豊島美術館の凄さでもあります。

閉じられた空間でありながらも、開口部によって自然と直接的に繋がり、静かな自然環境の中で「水の動き」を観察するかのような美術館となっています。

実際に中に入ってみると、自然の気配を外にいるよりも体験できる美術館であると感じることができます。

【自然を享受するランドスケープ】

ランドスケープでは敢えて自然の中を回遊し、瀬戸内海や豊島の植生や地形、船等、この場所の美しさを感じながらをアートへと導く動線になっています。

直接的なアプローチではなく、寄り道によって豊島の自然環境を享受しながら、美術館へと入ることができます。

そんな動画を下記にUPしていますのでご覧ください。

また、アプローチの終点には床のモルタルが浮き上がったようなベンチが設置されており、その下が靴箱になっています。

自然界の中に造る建築としてのこだわりが強く感じられました。

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【土で造ったシェル構造】

60mのシェル構造の工法について少し知っている知識を描いてみようと思います。

まずこの水滴のようなシェル構造は、土を盛ってコンクリートが打設されています。ここまで自由な曲面は型枠ではさすがに作れないので、土によって作られることになったのです。

土を盛って打設前の型枠がわりとした後は、モルタルで土を固め、2重の鉄筋をを配した後、真冬に22時間ひたすらコンクリート打設を行なっています。

ミキサー車はなんと120台分のコンクリート打設を行なっており、5週間の養生期間を経てこの建築は作られています。

更に採光を確保するための開口部は駄目孔にもなっており、その開口部から6週間程かけて土を搬出したそうだから驚きです。

【水切りのディテール】

スケッチは私が描いたものですが、右に描いた駄目孔兼開口部は雨水の処理をどのように行なっているのかと疑問でした。いくら半屋外で雨が入ることを許容しているとは言え、水切りがなければ雨水は表面張力によって、天井をつたって内部まで入り込んでしまいます。

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しかし豊島美術館の開口部を目視しても一般的な水切り(躯体を欠き込んだもの)は見当たりませんでした。

帰ってきてから調べてみると、スケッチのように開口部にはわずかですが、鋭角なフカシによって水切りが設けられていました。

水切りにおいても躯体の形状だけの変化とすることで、「アートを包み込む自然こそが美術館である」というコンセプトに基づいた空間の邪魔しないように洗礼されていました。

とても勉強になりますね。

【感想】平成を代表する新しい美術館

「アートを包み込む母型」、「建築と美術の一体化」、「豊島の風景や天候、光、その全てをありのままに受容する器」というテーマを考えるのであれば、建築物的な仕様は蛇足に感じられます。

内部へと入る扉や土を搬出する駄目孔、トップライトのガラスを削除することで、アート空間でありながらも半外部として完結された建築は見事ですし、気持ちが良い。

靴下が濡れることすら有り難く肯定できます。

ここを自然の中であると仮定するならば、召し物が汚れることは必然であり、それは森を歩いていて服が汚れても誰も文句は言わないのと同じです。自然界を相手に私たちが何を言っても些細な戯言でしかないからです。

例え靴下が濡れたとしても、文句を言うことが場違いに思えて来ます。

豊島美術館はそん感じさせられる時点で「自然の中」を感じられる美術館として成立していると証明できます。

自然をアートとして感じられる美術館に自動ドアやトップライトがあれば何か違うように思えます。だからこそ敢えての「ディテール0建築」なのです。

しかしだからと言って、半外部の美術館を作ろうとはなかなか思えません。

この建築が成立する背景には、豊島の歴史や自然環境、そこで展開されるアートと内藤礼氏のアートテーマが相対的に関係しているからこそ生まれたものであると感じられます。

そういう意味で【豊島美術館】は、新しい建築感を世間に与えてくれました。まさに平成を代表する建築であると思います。

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今日紹介する建築本

西沢立衛氏のこだわりのディテールが載っています。

豊島美術館について語られた本です。


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