それから、悪(HANAちゃんストーリー第5話)
こんにちは、HANAです。
今回はね、中学生の女の子の愛犬をしていた時のお話。
近所に住む秋吉君と一緒に良く散歩に連れってくれたの。
2人はいつも一緒にいてとても仲良しだったの。
人間の世界では幼馴染って言うんですって。
その時の2人の会話で難しいような簡単なような、きっと大事な事のお話。
「悪を全て排除することが正義なのかな」
愛犬の散歩中、幼馴染の秋吉祐一が話し出した。
中二の私には何を言っているのか意味が分からない。同級生なのに思考が全く違っていた。
まあ、いつもの事。
「悪?なにそれ?戦隊もの?」
私は特撮ヒーローを想像していた。
「僕にとっては良い事でも菜々実にとっては良くない事ってあるだろ?」
「私にとって良くない事?秋吉にとっては良いことで、えっ?なに?どういう事?」
混乱する私に秋吉は続けた。
「僕がコンビニに買い物に来いったとする、ちょうど菜々実もアイスを買いに来ていた。菜々実が無類のアイス好きだと知っている僕は、菜々実が見ていない隙に最後の1個のアイスを買ってしまう。僕の横取りのせいでアイスを買えなかった菜々実は激怒する。そんな菜々実を無視して逃げるように行ってしまう。そんな僕をどう思う?」
秋吉は立ち止まり菜々実を見た。立ち止まった秋吉に気づき、振り返りながら想像した。少し頭にきてしまった。
「どうって・・・最悪だと思う。私がアイスを買うの知っていてわざとでしょ?意地悪だよ!」
「そうだろ。僕は菜々実にとって悪い奴なんだ。だけど、家に帰った僕は、アイスを、高熱を出している妹に食べさせる。そのために買いに行ったんだ。」
「えっ?そんなの知らないよ。言ってくれれば譲ったのに。」
「うん。そうなるよね。実際、菜々実は僕の状況を知らなかった。知らなかったが故に、僕は悪になるんだ。菜々実にとっての悪に。一方、妹からは優しいお兄ちゃん。走ってコンビニまでアイスを買いに行ってくれた優しいお兄ちゃんに。妹にとって僕は善だ」
秋吉は至って無表情のままだ。
「まぁ、確かに。良くも悪くもあるね」
私は口を尖らせながら返答した。
「だから、悪も必要だってことさ」
笑いながらこちらを見た秋吉に頬が赤くなってしまった。
「でも、悪い事は悪い事だよ!」
火照った顔を隠すように私は言った。
「物事をどう見るかってことだよ」
清々しい顔でまた歩き始めた秋吉に小走りで駆け寄った。
「そーだねー。とりあえず、アイスでも買って帰らない?」
と駄菓子屋を指さした。
「犬がいるのにお店に入っていいの?」
私は真顔で質問する秋吉に、あっかんべをした。
愛犬が2人の顔を笑いながら見つめていた。
終わり