フライムーン
人 物
ルル(10) 成人したばかりのイルカ
サン(10) ルルの友達のイルカ
カイル(10) ルルのライバルのイルカ
キララ(10) イルカの女の子
ガイル(20) 男のイルカ
母 ルルの母
〇海の中
沢山のイルカが泳いでいる。
その中でルル(10)がやる気なく泳ぐ。
ルル「そろそろ帰ってもいいか」
ルル、皆と違う方向へ進む。
〇ルルの家・外観
ルル、ゆっくりと泳いで来る。
ルル、玄関のドアを開ける。
〇同・中
ルルの母が部屋の片づけをしている。
ルル「ただいま」
母「おかえり。随分早かったのね」
ルル「うん・・・」
母「もしかして、途中で切り上げちゃった?」
ルル、止まる。
ルル「だって、スピード大会なんて出たくないんだよ。なんで男のイルカはこの大会への出場が義務なの?おかしいよ」
母、ため息をつく。
母「イルカにとって速く泳ぐことは大事なの。餌をとる時や逃げる時に必要なの。10歳になったら1人前って事なのよ」
ルル「それはわかるけどさ、別に大会にして競う必要なんてないだろう。それに結果はわかってるんだから」
母、ルルに近づく。
母「やってみなきゃわからないじゃない。練習すれば、カイル君にも勝てるかもしれないでしょ」
ルル「そんな事ある訳ない。カイルの泳ぎはシャチの様に速いって有名なんだから」
ルル、奥へ行ってしまう。
〇海面付近
サン(10)とルルが、クルクルと回転している。
サン「わぁ、あはは。凄い目が回る」
回転しながら、サンは笑っている。
ルルも負けじと回転を速める。
サン「うわぁ!」
ルル「わぁ!」
サンとルルは頭をぶつける。
ルル「痛てぇ」
サン「ルル、早いよ。回り過ぎ」
ルル、1回転する。
ルル「明日の大会、回転大会だったらな」
サン「そういえばルル、ほとんど練習してないだろ?」
ルル「そりゃそうだよ、カイルがいるんだから。練習したって勝てっこない。やるだけ無駄」
ルル、海面へ呼吸をしに上がる。
〇スピード大会会場・控室
沢山のイルカ達がウォーミングアップをしている。
その中でひと際目立っているカイル(10)。
カイルが少し泳ぐと歓声がおこる。
〇同・裏
ルル、ため息をつく。
サンがやってくる。
サン「こんなとこにいた、早く手続きを済ませないと」
サン、ルルの尾びれを押しながら連れて行く。
〇同・レース場
カイルが歓声を受けながらコースにつく。
その隣にルルとサンが並ぶ。
ルル、やる気なさそうに尾びれを下げる。
審判の声「位置について、よーいドン」
一斉にイルカ達が走り出す。
あっという間にカイルが頭一個分、体一つ分、差を広げていく。
観客が盛り上がる。
ルル、1番最後をゆっくりと泳ぐ。
観客「おい!何のんびりやってんだ!真剣に泳げ!」
ルル、観客をチラッと見る。
〇同・ゴール
カイル、ダントツでゴールをする。
続いて、他のイルカ達が続々とゴールしていく。
ルル、最後にゴールする。
〇海面付近
サンとルル、やってくる。
サン「やっぱりカイル、速かったな」
ルル「やるだけ無駄だっただろ?」
サン「そういえばさ、カイル、スピード大会優勝したら、キララちゃんとデートするって言ってたぞ」
ルル「キララちゃん、OKしたの?」
サン、小声で。
サン「それが、大会のルールだから仕方ない
からって。優勝したら好きな子をデートに誘えるっていう決まりだからな」
ルル、尾びれが下がる。
サン「このままで良いのかよ」
ルル「仕方ないだろ。もうスピード大会はカイルの優勝で決まったんだから」
サン、ルルの前に立ちはだかる。
ルル「なんだよ・・・」
サン「まだ、ジャンプ大会が残ってる」
ルル「ジャンプ大会は自由参加だろ。出たくないよ」
サン「何言ってるんだよ!カイルはジャンプ大会には出ない。ここで優勝してお前もキララちゃんをデートに誘えよ」
ルル「簡単に言うなよ」
ルル、海面へ呼吸をしに上がる。
〇ジャンプ大会会場・入口(夜)
ルル、ジャンプ大会の張り紙を眺めている。
ルル、辺りに誰もいないのを確認して、勢いよく泳ぎ始め、高くジャ ンプをする。
キララの声「綺麗」
ルル、泳ぐのを辞める。
キララ、ルルの所へ来る。
ルル「キララちゃん、見てたの?」
キララ「うん、ジャンプ大会の日にちを確認しに来たの」
ルル「ああ、そうなんだ」
ルル、気まずそうに後ろに下がる。
キララ「ルル君、出るの?」
ルル「えっと・・・」
キララ、空を見上げる。
月が綺麗に輝いている。
キララ「とっても綺麗だったよ」
ルル、空を見上げるキララに見とれる。
キララ「ジャンプ大会の日、カイル君とデートの日なの。一緒に見ようって言われてる。ジャンプ大会」
ルル「えっ・・・」
キララ「楽しみにしてるね」
キララ、泳いで帰って行く。
〇練習場
沢山のイルカがジャンプの練習をしている。
サン、キョロキョロしている。
サン「いたいた」
ルル、ジャンプの練習をしている。
サン、ルルに近づく。
サン「どういう風の吹き回し?」
ルル「いや、なんとなく出てみようかなって」
ルル、気持ちよさそうに泳いでジャンプをする。
サン「おお、いいじゃん」
ルル「どこを修正したらいい?」
サン「そうだな・・・尾びれをもっと上にあげて背中を逸らすといいかも」
ルル「なるほど、やってみる」
ルル、泳ぎ出し、高くジャンプをする。
サン、真剣にジャンプを見ている。
ルル、サンの所へ戻ってくる。
サン「高く飛ぶとやっぱり背中の反りが弱い」
ルル、もう一度ジャンプをする。
ルル「はぁ・・・やっぱり無理かも。上手く行かない」
サン「まだ練習始めたばかりだろ」
ルル「どうせやっても・・・」
ガイヤの声「助走をつけ過ぎなんだよ」
ルル、サン、声の方を振り返る。
ガイヤ(20)、ルルたちの所へやって来る。
ガイヤ「もっと力まずに助走を泳いでごらん」
ルル、頷き泳いでジャンプをする。
サン「いい!」
ルル、戻って来る。
ガイヤ「君のジャンプなら優勝も狙える」
ルル「えっ?本当ですか」
ガイア「練習次第だ」
サン「よっしゃー!」
サン、グルグルと泳ぎ回る。
〇カイルの家(夜)
カイル、仲間と話をしている。
イルカA「キララちゃんとデートはいつ?」
カイル「ジャンプ大会当日」
イルカA「大会を見に行くのか?」
カイル「ああ、でも途中で抜ける」
イルカA「抜ける?」
カイル「俺、早く子孫を残したいんだよ。キララは良い子供産みそうだろ?」
カイル、不気味にニヤッと笑う。
〇練習場
ルルのジャンプを見ているガイヤ。
ガイヤ「だいぶ良くなってきたな」
ルル、何度もジャンプをする。
息が切れる、ルル。
ガイヤ「ルル!そろそろ休憩しよう」
〇同・休憩所
ルルとガイヤ、やって来る。
ガイヤ「あまり無理するなよ。大会までもうすぐなんだから」
ルル「時間が無いから、少しでも多く飛びたくて・・・」
ガイヤ「気持ちはわかるが、無理して体を痛めたら元もこうもない」
ルル「・・・」
ガイヤ、ルルの背中をさする。
ガイヤ「だいぶ筋肉付いたな。10年前、俺もここでジャンプ大会に向けて練習してたんだ。どれだけ練習しても不安で、何度も何度も飛んだよ。そしたら当日、尾びれの筋肉が切れたんだ。悔しかったよ。この日のために練習してきたのに、当日、動けないなんて情けなかった。だから、ルルには同じ思いをして欲しくないんだ」
ルル、驚いた顔でガイヤを見る。
ガイヤ「初めてルルのジャンプを見た時、感動したんだ。ルルのジャンプはとても綺麗だ。月の様に。俺は自分が果たせなかった夢をルルに重ねているんだ」
ルル、下を向いている。
ガイヤ「ルル・・・?」
ルル「あっ、ありがとうございます」
ガイヤ「お礼を言いたいのは俺の方さ。またこんなにもワクワクする感情になれるなんて。ルルのおかげさ」
〇ルルの家・外(夜)
ルル、帰宅する。
家の前にキララがいる。
ルル「どうしたの?」
キララ「いよいよ明日だね」
ルル「うん」
キララ「楽しみにしてるから」
ルル「うん」
キララ「じゃあね・・・」
キララ、帰ろうとする。
ルル、止める。
ルル「キララちゃん、何か話があったんじゃないの?」
キララ「・・・明日、カイル君と見に行くの」
ルル「うん」
キララ「もしかしたら、最後まで見れないかもしれない」
ルル「どうして?」
キララ「・・・」
キララ、悲しそうな顔。
ルル「キララちゃん?」
キララ「明日、頑張ってね」
キララ、立ち去る。
〇ジャンプ大会会場・控室
沢山のイルカがいる。
ルルとサン、ガイヤを探している。
サン「いた!ガイヤさん!」
ガイヤ、ルル達に駆け寄る。
ガイヤ「ごめんごめん。迷っちゃて」
サン「今回は随分参加者がいますね」
ルル、緊張している顔。
キララの声「もしかしたら、最後まで見れないかもしれない・・・」
ガイヤ「いつも通りやれば大丈夫」
ガイヤ、ルルの背びれを叩く。
ルル「はい」
〇同・コート(夜)
順番にイルカ達がジャンプの技を披露する。
アナウンス「続いて201番、ルル選手。お願いします」
ルル、呼吸を整えて泳ぎ出す。
1本目のジャンプ。
歓声が沸き上がる。
2本目のジャンプ。
ルル、ジャンプの最中にキララとカイルが目に入る。
〇同・観客席(夜)
カイルとキララが並んでジャンプを見ている。
〇同・コート(夜)
3本目のジャンプをする、ルル。
ルル、ジャンプの最中に、キララが目に入る。
〇同・観客席(夜)
キララ、カイルに尾びれを掴まれて引っ張られている。
嫌がる、キララ。
カイル、キララを会場の外へ連れ出す。
〇同・コート(夜)
3本目のジャンプを飛び終えたルル、そのまま観客の方へ素早く泳いでいく。
サン「ルル!どこいくんだよ!最後のジャンプまだやってないだろ」
アナウンス「ただいまルル選手、退場してしまったため、棄権となります」
ガイヤ、月を見ている。
〇同・外(夜)
キララを無理やり連れだす、カイル。
ルルの声「キララちゃん!」
カイル、驚いてあたりを見回す。
ルル、カイルに体当たり。
カイル「なにする!」
ルル、キララの胸びれを掴んで2人で泳ぎ出す。
カイル「待て!」
カイル、ルル達を追いかける。
カイル「待てぇ、俺はスピード大会で優勝したんだぞ。逃げられるとでも思ってるのか」
カイル、スピードをあげルルに追いつき、ルルに体当たりする。
カイル、もう一度、ルルに体当たりするように突進する。
ルル、カイルの攻撃をジャンプでかわす。
ルル、キララを引っ張りながら、逃げる。
〇同・コース(夜)
ルルとキララ、逃げながらコースへ戻ってくる。
カイル、ルルに突進する。
ルル、キララ、胸びれを繋ぎながら一緒にジャンプをする。
高くジャンプをする、ルルとキララ。
2匹の後ろに満月が輝いている。
歓声が沸き上がる。
カイル、降りてくるルルとキララに体当たりをする。
ルル「うわぁ」
ルル、意識が飛び沈んでいく。
キララ「ルル!」
〇ルルの家(朝)
ルル、目を覚ます。
母「ルル。大丈夫?」
ルル、辺りを見回す。
ルル「家?」
回想
〇ジャンプ大会会場・コート(夜)
沈んでいく、ルル。
ガイヤ、ルルの体を支える。
サン「何やってんだよ」
サンもルルの体を支える。
カイル、警備隊に捕まる。
キララ、心配そうにルルを見つめる。
回想終わり
〇ルルの家(朝)
回想前に戻る。
母「ガイヤさんとサンが助けてくれたのよ」
ルル「キララちゃんは?」
母「大丈夫よ」
ルル「良かった。そうだ、最後のジャンプ、飛べなかった・・・」
母「覚えてないの?歓声凄かったじゃない」
ルル「えっ?」
母「最後のジャンプ。キララちゃんと一緒に」
回想
〇ジャンプ大会会場・コート(夜)
ルルとキララ胸びれを繋ぎながら2匹でジャンプ。
1番高く飛んだ2匹の後ろに満月が綺麗に輝いている。
歓声が沸き上がる。
回想終わり
〇ルルの家(朝)
母、特別賞の貝をルルに渡す。
ルル「特別賞?」
母「月と遊んでいる様だったわよ」
ルル、笑顔になる。
ルル「優勝なんてできなくても、人を笑顔にする事って出来るんだね。僕、ジャンプで世界中の皆を魅了したい」
キララの声「ルル君なら出来るよ」
ルル、振り向く。
キララ、ルルに笑いかける。
キララ「だってもう、私は魅了されてるから」
ルル、照れる。
終わり