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ベーシック・インカムの最大の弱点は「アホっぽい」ということ
ベーシック・インカムという発想は、一見するとアホっぽい。「もうさー、お金配れば良くね?」「え、お金もらえるの?超ラッキーじゃん!みんな働かなくて済むじゃん!」と、世の中の仕組みをなにも理解していないアホが短絡的な思考の末に言いそうなことに見えるのだ。
世の中の大人の大半は、自分を賢いと周囲に見せつけなければならないという強迫観念に駆られている。
僕はベーシック・インカムが実現しない最大の理由は「ベーシック・インカムがアホっぽい」という1点に尽きるのではないかと考えている。
周囲から賢いと思われるためには、様々なセオリーがある。例えば「上手い話には飛びつかず斜に構えて批判する」といったセオリーだ。
なぜこのような態度を取るのか? まずアホっぽい相手が「もうさー〇〇で良くね?」と言ったとき、それを「あ、ホンマやな」と受け入れてしまった場合、「アホが少し考えただけでは思いつかなかったアイデアに自分が到達できなかった」という事実をまざまざと見せつけられることになる。
つまりこれは相手よりも知的能力が低いことを意味する。それはなんとしても避けなければならない。ならば大半の大人は「いやいや、そんな上手い話はなくてね‥」となんらかのリスクを持ち出すことになる。こうすれば「お前が思いついたアイデアなどとうの昔に思いついていたが、私はお前とは違って即座にリスクを見抜き、賢明にも思いとどまっている」という事実が生産される。これにより相手よりも上手に立つことができるというわけだ。
もちろん、さほど知的能力が高くなくても、リスクを1つや2つを見つけることなど造作もない。手洗いすらあかぎれのリスクや、あかぎれから感染症に感染し、最悪の場合は死ぬリスクがあるのだ。
また、「人は強欲で怠惰である」という性悪説を唱えることも賢いと思われるためのセオリーの1つである(なぜかはわからない)。強欲で怠惰である人間にベーシック・インカムを配ったら? もちろん、碌なことにはならないという結論が得られる。
これだけでもベーシック・インカム実現を妨害するには十分だが、それだけではない。賢いと思われたい人がベーシック・インカムに賛成するとなにが起きるのかをもう少し考えてみよう。
もし、誰かとベーシック・インカムに関する踏み込んだ議論に展開してしまったとする。例えば財源の話だ。「社会保障費がカットされる」とか「増税される」とかそれくらいの話で済めば良いのだが、国債発行にまで話が及ぶことは多くの大人は避けたいはずだ。なぜなら、多くの大人はお金がどのように発行されているかを理解していないにもかかわらず、あたかも理解しているかのようなフリをしているからである。
ならば大人たちは「いやいや誰も働かなくなるだけでしょ?」とか「フィンランドで実験したところで日本じゃ無理でしょ」と一蹴し、ボロが出る前にさっさと次の話題に移ろうとするのだ。
つまり、ベーシック・インカムを礼賛するためには「アホっぽいと思われてもいい」という覚悟が欠かせない。それだけの覚悟は、多くの大人にはない。
では、ベーシック・インカムを実現するためには「楽観的で、人を信じがちな人が賢い」という風潮を生み出さなければならないのだろうか? ルドガー・ブレグマンはそれを「新しいリアリズム」と呼んで実践しようとしているが、今のところは上手くいっていない。
しかし、根気強く続けていけば良い結果が得られるかもしれない。例えば一昔前は「最近の若者は‥」と言ってゆとり世代をdisることが賢人アピールに欠かせなかった。逆に今はそれがダサいということになって「最近の若い子は礼儀正しいし、すごい」とZ世代を持ち上げることがカッコいい大人ということになった。
そろそろ性悪説や、やたらとリスクを指摘する大人がダサいと見られる風潮が来るような気がしている。来ないかもしれないが、来たら嬉しい。
まずは、文句なしに賢人だと思われている人(藤井聡太とか、マツコデラックスとか、成田悠介とか?)がベーシック・インカムを礼賛してくれればいい。そのうち潮目は変わるはずだ。
僕はそれを待たずとも、信念を持って言い続けてやろう。「ベーシック・インカムやれば、なんとかなるやろ!知らんけど」と。
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