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無職経営の書店

近所に、あんまりやる気のない古本屋がある。というか、あったことに最近気がついた。不在性書店 BE ABSENTというお店である。

近所なのでとりあえず行こうと思った。思って住所を見てみた。明らかに僕がしょっちゅう通る道にある。あるのだけれど僕はこれまで古本屋らしきお店を見つけたことはないし看板も見かけたことがない。どうやらマンションの4階にあるらしく、そりゃあ目につかないはずである。

外観は普通のよくあるマンション。エレベーターを登り、当該の部屋を見てみる。普通のマンションの一部屋である。が、ドアに小さくお店の名前が書いてあるだけ。知らなければ見逃すだろう。インターホンを鳴らすべきか悩んだが、お店であれば鳴らさずに入るものである。なので、そのまま扉を恐る恐る押してみた

視界に入ったのは、ワンルームマンションの部屋で若い女性客が3人、コタツを囲んでいる光景。あたりは本棚でいっぱいであり、古本屋であることは確実なようで、入る店を間違えたわけではないらしい。

てっきり僕は店主と2人きりで気まずい空気の中で佇むことになるとばかり思っていたのだけれど、なんだか陽気な雰囲気である。

話を聞いてみると、どうやらたまたま来たお客さんが誕生日であって、誕生日パーティーをやっているとのこと。「シャンパン飲みますか?」と言われ、せっかくなのでいただくことにした。マクドナルドのチキンナゲットもいただいた。

どうやら、古本屋というか、古本屋の体をなした溜まり場になっているらしい。店主曰く、書斎がわりに部屋を借りようと思って、せっかくなので副業として古本屋という体裁にしたようだ。「そうすれば人が集まるかなぁ」という気楽な動機で始めたとのこと。なるほど。そもそもが書斎なのだから、これほどまでに商売っ気がないのだろう。

ところで、副業が古本屋だということは、別で本業があるはずである。当然の流れで僕は「本業はなにをしているのですか?」と聞いてみた。すると次のような返事があった。

「本業は無職です」

「業」とはなにか?を考えさせられる返答である。が、そんな細かいことは気にしないでいいような気がした。「あ、それいい」というのが僕の率直な感想である。

以前、無職詩人が「日雇い労働やってるから無職ちゃうやん!って言われるけど、無職が日雇い労働やろうが、たまたま無職が労働してるだけであって、無職は無職」みたいなことを言っていた。無職マインドを持って、無職を名乗れば、それはもう無職であり、労働していようがしていまいが無職なのだ。

ならば僕も無職である。僕もこれから無職を名乗ることにした。

僕は、厳密な意味でのニートではないのにニートマガジンに参加していることに対して、僕はほんの少しの後ろめたさを感じていた。が、これからは堂々と参加できる。なんといっても僕の本業は無職でありニートなのだ。

そういえばゆるふわ無職も、最近はそれなりに労働に勤しんでいるらしいが、ゆるふわ無職がたまたま労働したところで、無職は無職であり、ニートはニートであろう。だから彼は紛れもなくニートマガジンのオーガナイザーに相応しい存在なのである。

さて、なにはともあれ不在性書店 BE ABSENTは居心地のいい、素敵な空間であった。横顔と服装が太宰治に似ている店主の人柄の為せる空間であろうと思うが、あんまり宣伝して欲しくなさそうなので、お店の話はこれくらいにしておこう。

けっきょく1時間ほど滞在して1冊の本を購入した。しばらくは積む予定である。

ビールとシャンパンをいただいたので、この本一冊買ってもなにも返せていない気がするが、まぁ細かいことは気にせずにおこう。

ところで、僕は書店をつくろうとしているわけだが、やはりつくるならこういうラフなお店をつくってみたい。誰でもフラっと来れる居場所である。いい刺激を受けることができた。

もちろん、あまり気合を入れてやりはじめるとよくない。あくまで副業なのである。無職の業務に支障がない範囲内にしておこう。


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久保一真【まとも書房代表/哲学者】
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