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春を迎えに来てみたら~牡羊座のきみの恋するpetit story~

 きみの星座別 恋するpetit story

【 春を迎えに来てみたら 】


 車に乗っている間の500メートルなんて一瞬で、それも、急な下り坂なものだから、スピードも上がっていて、冬に来たときには気づいていなかった。
「ここ、春に来て、歩いてみたいな」
彼女がそう言っていたことを思い出したのは、ちょうどトンネルを抜けたところだった。あの時、僕は何と答えたのか、今となっては全く覚えていないけれど、彼女がどうして春に来たいと言ったのかは、今、ようやく分かった。
 桜だ。桜の谷だ。トンネルを抜けてから下の川に交差するまでの500メートル坂に、ずらりと並ぶ桜が僕たちを迎えてくれていた。彼女は少し先の未来を見ていたのだ。
 あの時よりもしっかりとブレーキを踏み、ゆっくりと下ると、その先の駐車場にそっと車を停め、隣で眠る彼女をそっと起こした。
「わぁ、覚えていてくれたんだ」
目を開いた彼女は、今、自分が何処に居るのかがすぐに分かったようだった。
 僕はこの目の前の500メートルも、次の季節も、そしてその先の未来も、純粋無垢な桜の風に吹かれていたいと思い始めていた。



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