21世紀の経済学者と覆面画家が教えてくれること
緊急事態制限が解除されたので、ひさびさに外出して109シネマズで映画「21世紀の資本」をみて、横浜で「バンクシー展」をみました。
「21世紀の資本」はトマ・ピケティという経済学者が書いた同名のベストセラーを映画化したものです。本は難解で読めそうになかったのですが、この映画は映像のキャッチーさもあってわたしのような経済の素人にもわかりやすく楽しめました。本が出たのはだいぶ前なので今さら感があるかもしれませんが、解釈も交えてポイントをまとめると、
1. 株などの資本によってまわる資本経済と、給与やものの売買などによってまわる実体経済とは乖離している。つまり株価は実際の景気を反映しない。
2. 資本によって得られる富のほうが、労働によって得られる富よりも速く蓄積されるので、格差が広がりやすい。
3. ごく一部の人たちがたくさんのお金や大きな権力を持つようになると、競争が阻害されるだけでなく、さらに利益を拡大するために搾取や侵略を行うようになる。これは歴史が証明している。
4. これを回避するには富裕層に課税するしかないが、タックスヘイブンなど抜け道がいくらでもあり世界的な課税システムを作るのは難しい。
という感じになるかと思います。1と2はまさに今コロナで先の見通しが立たない人たちが大勢いる中、日経平均は早々と値を戻しています。アメリカではコロナ禍の3ヶ月で富裕層の資産が62兆円増えたというCNNの記事もありました。3についてはかつて日本では財閥の利権が戦争に大きく影響したことや、財閥の解体が戦後の復興に貢献したことを思い出す人がいるかもしれません。今はそんなことないので安心ですね。あれでもなんか最近、国の補助金事業が同じ企業にばかり委託されているらしいです。納言のみゆきちゃんならこういうでしょう。日本の政府はもうジンバブエ並みにズブズブだなこりゃ。
そいで「21世紀の資本」をみた翌日、「バンクシー展」に行ったわけです。バンクシーは知っている人も多いと思いますがイギリス人の芸術家で、ストリートアートといって人んちの壁や公共物に勝手に落書きをする違法な芸で知られています。違法なので匿名で活動しており、身元もよくわかっていませんが複数人のアーティスト集団によるものではないかといわれています。犯罪なのに怒られないどころか喜ばれるという特殊な技能を持っていて、去年東京でもバンクシーの落書きというか作品が見つかったといって小池都知事が喜んでいました。
バンクシーはもともと政治や資本主義に対する風刺をテーマにした作品が多いのですが、2015年にはディズマランドという、ディズニーへのディスりがものすごいテーマパークを期間限定で開催しています。
ピケティとバンクシー、一方は経済学者で一方は現代アーティストですが、どちらもいっていることは「ファック!キャピタリズム」に変わりありません。皮肉なことに映画もアートも商業なしには成り立ちません。映画を誰もみてくれなければ配給会社はお金を出しませんし(余談ですがわたしがみた上映の観客は5人くらいでした)、商業的なプロモーションに成功しているからこそ、バンクシーの行動は注目され、発言が影響力を持ちます。ゴッホやゴーギャンみたいに一生を通して作品がさっぱり売れなくても、自分の作家性だけを追求して生きることは可能かもしれません。でも今ゴッホのひまわりを東京でみることができるのはどこかの画商が絵を売買したからです。そんな大きな矛盾に気づきながらも、わたしたちは資本主義に変わる選択肢を持っていません。欠陥のあるシステムだけど、あちこちでなんとか取り繕いながら、微妙なバランスでなんとかやってきている、というのがこれまでの状況ではないかと思います。
わたしは経済学者でも現代アーティストでもなく小さいビジネスを営むプログラマーなので少々視点はさがりますが、やはり同じジレンマを抱えています。グロースハッカーみたいな連中を遠い目で眺めながらも売上をあげるためにSNSに広告を出し、今もこうやってブログを書いています。それでもわたしはこの5年間、これからは個人や小さいチームでビジネスをする時代だといい続けてきて、ある程度の手応えも感じてきました。それがこのコロナ騒動をきっかけに一変してしまいました。この数ヶ月でほとんどの人が、「やっぱ大企業のサラリーマンのほうが安定しててええやん」と考えるようになってしまったからです。それはそうでしょう。自分らしい働き方とかいう前に、フリーランスだと明日食べるものにも困るかもしれない。会社でリモートワークもできるようになって家族と過ごす時間も増えた。仕事がなくてもお給料をもらえるのになんでわざわざ独立する必要があるのか。本当にそのとおりです。副業や独立したらええで!などとおいそれと口にできる状況ではなくなってしまいました。個人的にこの停滞感はとても残念に思います。
SNSで少し前に、検察庁法の改正に抗議する運動がありました。アメリカで黒人男性が警官に暴行された事件に端を発したデモも続いています。コロナのせいでフラストレーションが溜まっているせいかもしれませんが、今なんとなく、微妙なバランスが崩れようとしているのかもしれません。どさくさに紛れてお金や権力を持った人たちがおかしなことをするのではないかと疑心暗鬼になっている感じがしますし、実際おかしなことをしようとしているのでしょう。
先週は、コロナで対面でのレッスンが難しくなった教室の経営者向けに、Zoomなどを使ったオンラインレッスンを導入するための勉強会に参加させてもらいました。この環境の変化に対してみなさん前向きに取り組まれていたのがとても印象的でした。ステイホームによってオンラインでのやりとりに抵抗がなくなってきたので、こういった新しいかたちのビジネスに取り組む人も増えてきたようです。今から新しく事業を始められる方にとっては、これまでのしがらみがないのでかえって参入しやすいかもしれません。うちにもオンラインでこういうことができないかという問い合わせがちらほら来ています。この人たちが安心して商売ができるようになるために、もっと自分たちのサービスを改善していかなければと思いました。
展示会にあったバンクシーの言葉を自分への戒めを込めて引用します。
There's nothing more dangerous than someone who wants to make the world a better place.
世界をより良い場所にしたいと思っている奴らほど危険なものはない。
Banksy