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業界騒然!野性時代新人賞受賞作でブックラブ最後の読書会

こんにちは。ブックラブ事務局です。

2020年6月から始まった読書コミュニティブックラブ。毎月無料で参加できる会員交流イベントや、課題図書の著者をお招きして読書会を開催してきました。(※多くの反響をいただいておりましたが、ブックラブはサービスリニューアルのためサービス停止となっております)

今回は、ブックラブ最後の読書会。課題図書の『化け者心中』は、野性時代新人賞を選考委員満場一致で受賞した、業界騒然の話題作です。かの森見登美彦氏にも「こんなぴちぴちした江戸時代、人生で初めて読んだのである」と評され、辻村深月氏には「早くもシリーズ化希望!!」と言わしめた本作。

著者の蝉谷めぐ実氏にもお越しいただき、多くの質問にも丁寧にお答えいただいたオンラインイベントの様子をレポートします。

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-化け者心中のあらすじ-                                江戸は文政年間。足を失い絶望の底にありながら毒舌を吐く元役者、魚之助(ととのすけ)と、彼の足がわりとなる心優しき鳥屋、藤九郎(ふじくろう)。この風変わりなバディが事件の犯人と言われる鬼の正体暴きに乗り出して…

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事前に募集した質問を元にインタビュー形式で進む前半パート。執筆のきっかけ、本作こだわりのポイント、おススメの作家さんまでと、多くの質問が寄せられました。

蝉谷さんが本作を書こうと思ったきっかけは大学生時代に遡ります。江戸時代の古典芸能を専攻し、女形という存在を知ったことで作品の題材としていつか使おうと意識したそう。

「歌舞伎の中でも女形の面白さは、男性が思う“女性の色気”を男性が演じること。役者は日常生活から女性としての所作を突き詰め、色気を表現していく。その様は、女性と男性の境界を曖昧にするほどで、何をもって女性(男性)か?と思うほどです。それを表現したかった」という蝉谷さんの話を受け、参加者も大盛り上がり。女形の性別が途中で曖昧になり混乱した!とコメント欄に多くの書き込みがありました。実はこれ、蝉谷さんの狙い通りなんだとか。

読んでいて女形である魚之助の性別があいまいに感じるのは、主人公(鳥屋の藤九郎)の感覚が影響しているそう。魚之助の色気に惑わされてしまうシーンと、いやいや魚之助はあくまで男だと自分に言い聞かせるシーンで表現を分けているというのだから驚きです。「主人公が幻惑された感情がそのまま伝わっているなら嬉しいですね」と笑いながら話す蝉谷さんに感心する参加者の表情が印象に残るやり取りとなりました。

作品を執筆する上で、登場人物の行動に嘘がないことを大事にしているという蝉谷さん。登場人物の行動を(作者や物語にとって)都合の良いように動かさないよう注意を払っているのだとか。このこだわりは、人物の行動だけにとどまらず、世界の捉え方にも反映されています。


「化け者心中は、江戸時代に生きる一般人男性の一人称で執筆したので視覚、聴覚、嗅覚の表現は気を付けました。現代の感覚に安易に当てはめたり説明したりせず、江戸の町模様を当時の人々が感じたまま描写しようと。結果、江戸の色彩豊かな表現になり、音も、現代の枠に囚われた書き方にならないよう、江戸時代の人はどう音をきいていたか想像し、候補を出しながら一番合う擬音を選びました」

蝉谷さんスクショ

【上】著者の蝉谷めぐ実氏


擬音表現の次は、比喩についても話してくれました。参加者も独特だけれど伝わる比喩表現は印象に残ったようで…「鶉の卵のようなのどぼとけ」「背中の骨をつるりと引っこ抜かれたような心持」「幼子の口端から米粒がこぼれ落ちたかのような小さな声」などの比喩が『化け者心中』の世界観を深めているとの感想が寄せられました。

「江戸を舞台にはしているが、現代の感覚と切っても切り離せない感覚があるので比喩表現を入れました。比喩はこだわりのポイントでもあるのですが、元々好きなのもあり、使えるかわからなくても思いついた表現はメモしてストックしています。」と笑う蝉谷さん。

比喩表現で影響を受けた作家として三島由紀夫をあげ、美しい比喩が多いのでぜひ読んでほしいと紹介する一幕もありました。

豊饒の海_春の雪

その後も主人公が鳥屋になった経緯、お気に入りのキャラの話題など『化け者心中』に関する質問はもちろん、初心者でも楽しめる歌舞伎の演目、抑えておきたい役者、蝉谷さんが思う歌舞伎の魅力など留まることなくトークが進行。参加者から寄せられた多くの質問に、蝉谷さんも喜んでいた様子です。

<読書会パート>

読書会パートは、運営が設定したテーマに沿って5人ひと組で感想や意見をシェアするパートです。今回は『化け者心中』の印象に残った箇所と好きなキャラクターについて参加者同士でお話いただきます。

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本を読了しているからこそ、ネタバレありの意見交換は盛り上がったようで、あっという間に時間が過ぎたという感想を数多くいただきました。

また、男性と女性で、キャラクターから受ける印象が異なったり、自分では気が付いていなかった登場人物の心情変化に気が付いたりと一人では得ることのできない収穫があったようです。好きなキャラクターがほとんどかぶった班、全員見事にバラバラだった班など読書会後の感想も様々。

途中、蝉谷さんも各グループに時間の許す限り参加し、前半では話し切れなかった執筆秘話を補足したり、歌舞伎を観たことのない参加者に感想を求めるなど交流を深めていました。

大いに盛り上がったブックラブ最後の読書会もあっという間に終了の時間。イベント後には、いつもに増してたくさんの感想をいただきましたので、一部抜粋にて紹介いたします。

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「豊富な知識と好きという気持ちがあるからこそ、江戸の芝居の世界が魅力的に鮮度高く物語に昇華されたのだと感じました。落語から影響を受けられたというスルスルと読める軽やかな文体で、色彩豊かに巧みな比喩や擬音語を交え、そこに生きる者たちの物語を紡ぐ、そんな蝉谷さんの今後の作品が楽しみです。ひとは愚かだが愛おしい、残忍だがそこが人間らしい。あたたかい陽だまりが見えるような作品で、タイトルの伏線回収も感服です!」
「普段は自分では購入しないようなジャンルですが、圧倒的な文章力に引き込まれました。小説でも特に社会派ミステリーが好きなのですが(本格ミステリーも好きだけど、ただ謎が明かされるだけじゃなくて、世情とか社会問題が隠されていて考えさせられるお話)、それに似た問いかけがある気がして好きな本の一冊になりました。化け物ってそういうことだったのか!と思って、化け物の正体に心震わされました(解釈あっているかわかりませんが)。装丁も高級感がありとても気に入っています。同年代の作家さんが活躍されているのがとても励みになっています。これからもずっと応援しています!」
「魚之助のモデルや藤九郎を鳥屋に設定した理由など、裏話を知ることができて楽しかったです。鳥の羽の毒を思いついてそこから…というお話に、そもそも足利義満にそんな仮説があったことから初めて知った…!と衝撃でした。歴史からトリックが浮かぶこともあるのですね。好きなキャラクターが寅弥というところで、「自分は才能があるとは言えないので」とおっしゃっていたところが印象的でした。世界観に没入して江戸時代人の語り口調を思うままに操っているように見えても、その裏には数多くの資料から得た情報を身体レベルにまで落とし込む努力があってこそなんですね。素晴らしいです。」
「視覚、聴覚、嗅覚を大切にされたこと藤九郎の視点で描くことで見た江戸の世界、芸の世界にゾクゾクしました。今までにない読後感を味わった作品だったので貴重なお話をたくさん聞くことが出来て、とても楽しかったです。」
「蝉谷さんがお話されるとき、言葉を大切に選んでいて、誠実な方なのだと、お人柄が知れて、今後も応援したい気持ちが強くなりました。物語の作成秘話など、たくさんお話もきけて、嬉しかったです。読書会をとおして藤九郎がさらに好きになりました。続編あれば必ず読みます。お忙しい中作品の執筆、毎日書こうとしているという気持ち、素人ながら想像がつき、本当に大変だと思います。どうかお身体を大切に、今後も蝉谷さんのペースでがんばってください。」
「推した本がこのように課題本となり、著者のお話も聞けて、とても幸せです。2ヶ月ぶりに再読したのですが、再読に耐えうる、どころか、初読よりもさらに楽しめる作品でした。
やはり”人間”たるものの、”鬼”とは異なる、多面性や複雑さを描いたものだからこその深みがあるのだと思います。
みなさまもぜひ機会があれば再読なさってください。
歌舞伎もそうですが、蝉谷さんがご紹介されていたもの全部、観たく/読みたくなりました。歌舞伎の勉強もしたいな…。」

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