伊丹十三のサラダ」
WEDNESDAY PRESS 064
「大きな木の鉢にドレッシングを作り、そこへサラダ菜、胡瓜、トマト、セロリ、玉葱、赤蕪などの材料全部を入れてかきまわす。(ドレッシングというのは野菜の上からかけるものではない。必ず先にサラダ・ボウルの中で作ると知るべし)これをそのままどんと食卓の中央に据える。こういう精神のものでなけれらばなりません」
「瓶入りサラダ・ドレッシングというものがある。フランス人が聞いたらきっと腹を立てるだろう」
「できあがったサラダをタッパーウエアかなんかに入れて冷蔵庫にしまっておく、ということをしないでください。食べる人にとっても野菜にとっても、そんなことは侮辱でしかないのだ」
というような文章が伊丹十三の「女たちよ!」という著書に書かれている。
発行は1968年のこと。僕が高校一年生。高校に入り処女作「ヨーローッパ退屈日記」を読み、すっかり伊丹十三さんの虜になっていた。
思い起こせば、ドレッシングについては自宅でボールに材料を入れ何度も作った記憶がある。
しかし、いつの間にかすっかりそれを忘れていた。
後年フランス料理のシェフに「サラダは炊き合わせと同じ。素材それぞれに味をつけ、最後に合わせるもの。サラダも野菜に応じたドレッシングを用意するのが本筋。それが無理なら、せめてドレッシングを野菜の上からかけるにはよしてほしい」と聞かされ、サラダドレッシングの和え方がサラダの判断基準となっていた。
それがなんと50年以上も前にインプットされていたとは!必要があって読み返した伊丹十三選集に記載されていたのを読み、愕然としたのであった。