「鬼平対甚一」
WEDNESDAY PRESS 046
1976年1年間の日記を収めた「植草甚一コラージュ日記」という文庫本があり、時折ページをパラパラとめくる。ずっと気になっていたのが、日記の中で頻繁に池波正太郎の小説を読んだり、鬼平の残りを書いた、というような文章が出てくる。後でわかったのだが、それは1976年に出版された「池波正太郎作品集」(全十巻)に各巻巻末に書かれた解説であった。
つい先日「鬼平対甚一」という単行本を古本屋で見つけて購入。これはその解説をまとめた著作であった。そして解説の植草さんならではのスタイルを発見して感心したのである。植草さんの持ち芸、迂回と脱線は見られるものの、池波正太郎の小説の魅力について、その事件性と盛り上がりを独自のグラフにするなど、これまでの作家が取り組んでいなかった手法で作品の魅力を解き明かしてゆく。もちろん海外のサスペンスとの比較なども登場するなど、作品の解説では秀逸だと思った。
植草甚一さんの存在は、1970年代いつも気になっていたが、深く入り込むことなく、と言って全く読まなかったわけでもない。じつは、1971年9月から1973年12月まで東京新聞で「中間小説研究」という月に一回、中間小説を毎月50冊ぐらい読み、そこから気に入った単行本や雑誌に掲載された短編について書いていた文章が面白くて、本の読み方を学んだ覚えがある。
今回の「鬼平対甚一」に出会い、再び植草甚一さんの著作をあたって見ようかと思っている。