格好良くて、“ダサい”曲を作りたい 離婚伝説『本日のおすすめ』配信記念インタビュー
取材・文:吉田可奈
マーヴィン・ゲイのアルバム『Here, My Dear』から『離婚伝説』をアーティスト名としたふたり組が作るのは、どこか懐かしさを感じさせる、ファンキーでエヴァーグリーンな良質のポップミュージック。
今回はダ・ヴィンチ8月号(2024年7月5日発売)でのインタビューを記念して、誌面に掲載しきれなかったエピソードをカドブンに掲載!
ボーカル・松田歩とギター・別府純のふたりに、結成秘話から最新曲『本日のおすすめ』、そしてそれぞれのおすすめの本について話してもらった。
(ダ・ヴィンチ8月号:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D78HKLPL/)
――おふたりは、読書はお好きですか? おすすめの本があればぜひ教えてください。
別府:僕はあだち充先生が大好きで、夏になると毎年『H2』を読みたくなってしまうんです。あだち先生のマンガって、音楽に例えると決められたルールの中で自由な表現をする “ブルース”の雰囲気なんですよ。キャラクターや展開などに似たような要素があるんですが、どの作品にも個性があり本当に素晴らしいんです。さらに、様々なシーンの描き方もすごくオシャレで。また今年も夏がきたので『H2』を読みたいと思います(笑)。
松田:僕はサッカーマンガの『ブルーロック』です。序盤に描かれる主人公がブルーロックに召集されて真っ先に走りだすシーンに、音楽を目指し、決意して東京に出てきた自分と重なる部分があるんです。それまで自分の中で抑え込んでいた夢や理想の姿を追い求める大切さを感じさせてくれるので、きっと多くの人が共感できる作品だと思います。
――素敵な作品を紹介していただきありがとうございます。離婚伝説のおふたりは、同じ職場で知り合ったとお伺いしましたが、どのような出会いだったのでしょうか。
松田:バンドカラオケという、お客さんがリクエストした曲を生演奏するお店で働いていました。僕はフロアだったんですが、別府はギターをずっと演奏していたんです。
別府:お客さんが毎回全く違う曲をリクエストされるので、もはや反射神経ゲームのようでした(笑)。でも、働きながらギターの練習ができるので最高の職場でしたね。
――知らない曲を初めて演奏することもありますよね?
別府:あります。そんな時は、コード進行を予想して演奏したり、音源を聴いてその場で耳コピしたりしていて(笑)。ものすごく鍛えられました。
松田:当時は友達として仲が良かっただけで、お互い別々に音楽活動をしていましたし、一緒にバンドを組む未来は全く想像をしていなかったんです。
別府:でもその頃、コロナ禍に入り、お互い暇になったんですよね。そんなときに、遊びで曲を送りあうようになったんです。家から出られない、何もできないという状況下になり、“何か発信しなくちゃ”って強く思うようになったんです。
松田:その時に、既にリリースされている『メルヘンを捨てないで』などのデモも送りあっていて。“いい曲ができたよ”という軽い気持ちで送りあっているうちに、デモの曲がどんどんたまっていったんです。
別府:とはいえ、お互いミュージシャンとしてやっていきたいという気持ちがあったので、本格的に離婚伝説として活動していこうということになりました。
――楽曲のクレジットはおふたりの名義となっていますが、どのように作っているのでしょうか。
松田:作り方は曲によりかなりバラバラなんですが、作業するときは一緒にいますね。
別府:“これはどう?”“こうしようか”と言い合っている感じだよね。
松田:ふたりだからこそ、ぶつかることもなく、スムーズに曲作りができているんです。これが5人組バンドとかだと各々の主張が強くて収拾がつかないなと思っていて(笑)。
――お互いのセンスをしっかりと認め合っているからだと思うのですが、お互いのいいところはどんなところですか?
別府:ルーツは違えど、ふたりともいい曲であればいいと思っているんです。その方向性が一緒なんですよね。
松田:人間として好きだから続けられている部分が大きいですね。俺の中では世界一カッコイイギタリストだと思っているので。
別府:おぉ!
松田:リスペクトして尊重することを大事にしています。
別府:嬉しいですね。彼のボーカルも、すごくいいんですよ。ちゃんと曲として声が映えるんです。僕は声も楽器のひとつだと思っているので、主旋律としてサウンドと同化してくれるから、すごく心地いいんですよね。
――とてもよくわかります。おふたりはサウンドに関しても、“良質なもの”をすごく大事にしているように感じました。
別府:そうですね。そこが一番大事にしているところです。
松田:僕たちは、ずっと聴いてもらえる音楽を作りたいと思っていて。“良質”って、定義が広くて難しいとは思うんですが……。
――エヴァーグリーンな曲を作りたいと。
別府:それ! 最近よくその言葉を聞きます(笑)。
松田:ふたりともその認識で曲を作っています。
――さらには、これまでの曲を聴いていると、ものすごくドラマティックな歌詞も多いですよね。
別府:それ、めっちゃうれしいです(笑)。
松田:本当にそうなんですよ。僕はドラマティックなシチュエーションが好きなんです。
――「今すぐ会いに来て!」みたいな?
松田:好きですね(笑)。そういう世界観の曲も、いい意味でダサくて大好きなんです。
別府:ダサいと同義語で、クサいのも好きなんです。
松田:わかる!
――あはは。そんなおふたりが描くからこそ、よりドラマティックで印象的な曲ができるんでしょうね。そして、今回リリースされる『本日のおすすめ』は、TVアニメ『ラーメン赤猫』のエンディング曲として配信されますが、書き下ろしになるんですね。
別府:はい。作品を読んだうえで、その世界観で曲を作ったのは初めてだったのですごく楽しかったです。
松田:作品への書き下ろしをさせて頂くのは大変な部分もありましたが、楽しい気持ちの方が大きかったです。そのなかで、作品に寄り添うバランス感がすごく難しかったですね。あまり寄せすぎても作品自体の世界が広がらないですし、僕たちだからこその曲にならないとダメなので、そこを調整しながら作って行きました。
別府:この『ラーメン赤猫』は原作から大好きな作品なんですが、熱狂して待ちわびて読むのとはまた違って、ふと読んで癒される素敵な物語なんです。決してこちらの体力を奪うことなく、どんな状態でも読めるんです。そういった優しい作品に合うような楽曲になったんじゃないかなと思っています。
――レコーディングには、ドラムが伊吹文裕さん、ベースが千ヶ崎学さん、キーボードはKroiの千葉大樹さんという豪華なメンバーが参加されていますが、どのような経緯だったのでしょうか。
別府:本当に好きな人達に声をかけたら参加していただけて、光栄です!
松田:レコーディング中は、毎テイク「最高!」っていうくらいしかなかったよね(笑)。
別府:冷やかし担当でした(笑)。
松田:本当に頼りになりますし、任せられる方々ですし、個性がものすごく強いのに協調性がすごくあって、素敵な曲に仕上げてくれたんです。
別府:ライブはこのメンバーで一緒に回れないので、ぜひこの音源で楽しんでもらいたいですね。
――そして、この夏は、様々なフェスに参加されますね。
松田:楽しみですね。あとは、その地域の美味しいご飯を食べたいですね。
別府:いいね。他のアーティストさんのライブが見られることもすごく楽しみなんです。
松田:本当はみなさんと仲良くなりたいんですが、なぜか尖っていると思われてしまってなかなか声をかけてもらえないんです…(笑)。一回話したら、そんなことないとわかってもらえるので、いろんなアーティストさんとコミュニケーションが取れたらいいなと思っています(笑)。
別府:みなさんの邪魔しない程度にね(笑)。
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書誌情報
離婚伝説のインタビューは雑誌ダ・ヴィンチ8月号(2024年7月6日発売)にも掲載。曲や歌詞、アートワークに関するこだわりなど、本誌もぜひチェックを!
プロフィール
離婚伝説(りこんでんせつ)
2022年にVo.松田歩、Gt.別府純のふたりで活動を開始。バンド名はマーヴィン・ゲイの名盤『Here My Dear』に由来。音源、映像ともにクリエイティブに関する部分はすべてセルフプロデュースで制作している。