書店員のイチ押し小説 第9回 ときわ書房本店・宇田川拓也さん
書店員さんが「イチ押し」だと思う本は、どんな本なのだろう?
毎日たくさんの作品に触れている「本」のプロたちに、カドブン編集部がイチ押し小説を聞いてみました!
連載第9回は、千葉県でミステリ小説を幅広く取り扱う、ときわ書房本店の宇田川拓也さん!
書店員として24年、面白いミステリ小説を見極める眼を持つ宇田川さんが選ぶのはどのような作品なのでしょうか。イチ押しの本について、メールにてインタビューを行いました。
今回のゲスト
ときわ書房本店・宇田川拓也さん
宇田川さんが書店員を選んだ理由は、「本か映画に関わる仕事がしたい」という想いから。ときわ書房採用後は特にミステリ小説のジャンルに注力し、店内には作家のサイン色紙やサイン本もずらり。
ミステリ好きにはたまらないラインナップのお店です。
――働いているお店の魅力を教えてください!
1965年の開店以来、船橋駅前にて地域のみなさまにご愛顧いただいております。1~2階をあわせても80坪に満たない規模ですが、いささかミステリに偏った文芸書・文庫コーナー、コミックの品揃えに定評あり。
――現在の宇田川さんの担当ジャンルはありますか? また、お好きな小説のジャンルを教えてください。
担当ジャンルは文芸書・文庫・ノベルス・サブカル、好きな小説のジャンルはミステリとホラーです。
――宇田川さんのイチ押し小説を教えてください!
『獄門島』横溝正史(角川文庫)
ミステリ原体験が、小学生の時にTV放映された市川崑監督の映画『悪魔の手毬唄』。そこから名探偵金田一耕助シリーズを中心に横溝作品を読み漁るなかで出会った1冊であり、いまも変わらぬマイフェイバリットミステリ。孤島という舞台、三人の娘たちが俳句に見立てて殺される魅力的な謎、巧みな伏線と仕掛けの妙、この時代と舞台だからこその犯人像と犯行動機、さらに戦争がもたらす悲劇とは戦場だけに留まらないことを突き付ける反戦小説にもなっており、さらにさらに名探偵の悲恋の物語でもあり、そしてこれだけ盛りだくさんの要素が見事なバランスで成り立っている、まさに奇蹟というしかない、日本のミステリ小説史上屈指の傑作。もしかしたら私がいまもこうしてミステリを読み続けているのは、『獄門島』を打ち破るほどの作品が現れないことを確認するためなのかもしれない――そう思ってしまうほどイチ押しのなかのイチ押し作品。
――この作品はどんな人にオススメでしょうか。
ミステリというジャンルに少しでも興味を持たれた方すべて
――そんな『獄門島』の隣に置いてオススメしたい作品はありますか?
『蘇える金狼』(野望篇・完結篇)大藪春彦(角川文庫)
ミステリ偏愛書店員を自認している私にとって、横溝正史と大藪春彦は少年の頃から神と崇めるくらい強く惹かれ、影響を多分に受けた作家。なぜそれほど惹かれたのかといえば、それは間違いなく昭和の時代に角川書店・角川映画が打ち出した「読んでから見るか、見てから読むか」のメディアミックス戦略の影響を、TVを通じて大量に浴びたことによる刷り込み効果だと思っている(私は1975年生まれ)。昼は平凡なサラリーマンが虎視眈々と企業乗っ取りを企み、私腹を肥やす重役たちを力で捻じ伏せ、野望の階段を駆け上がる悪の美しさよ。この犯罪小説の金字塔を『獄門島』と並べて売ることは、「これが私にとっての聖典である!」という自己主張であるとともに、ひとりの人間の読書観をこのように決定付けた作者への返礼にほかならない。
――イチ押しのなかのイチ押し作品、そして犯罪小説の金字塔と、宇田川さんの「好きなミステリ」の根幹に根差している作品を熱いレビューと共にご紹介いただきありがとうございます! カドブン読者のみなさんも、ぜひ手に取ってみてくださいね!