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【インタビュー】俳優・戸塚純貴の写真と作家・くどうれいんのショートストーリーが一冊に 『登場人物未満』戸塚純貴インタビュー

作家として岩手の地でみずみずしい文章を創り出しているくどうれいんと、2024年の連続テレビ小説(朝ドラ)『虎に翼』でヒロインの同期・轟太一役を熱演し大きな話題を呼んだ俳優・戸塚純貴。作家と俳優という異なるフィールドで活動する2人が、写真とショートストーリーで交差する――。
『登場人物未満』は、写真集でもなく、小説でもなく、くどうれいんと戸塚純貴だからこそ生み出すことができた、「一人の人間の本当の姿」を探す挑戦的な一冊だ。
発売を記念して、今回は写真のモデルとして本作に出演した戸塚純貴さんにお話を伺いました。

取材・文:河村道子
写真:冨永智子

くどうれいんさんのストーリーによって写真が動き出した
この一冊には“戸塚純貴の短編映画”が15本詰まっています

――戸塚さんを各所で撮影した写真をもとに、作家・くどうれいんさんが執筆したショートストーリーが収められた一冊は、これまで本として触れたことのない形のコラボレーションになりました。

ひとりで何かしている人物を僕が演じ、その写真にくどうさんが物語をつける。すごく面白いコラボレーションの形だなと思いました。こちらは『ダ・ヴィンチ』の連載企画でスタートしたものだったのですが、続けていくとその先にきっと何か凄いことが起こるのでは、という予感がしていました。

――“写真の中の戸塚純貴”15人のひとり目は、渋谷のスクランブル交差点で大ジャンプをしている人物でした。

どういうロケーション、シチュエーションで、どこにひとりでいるのが面白いのかと撮影チームで話し合っていくなか、僕が岩手県から上京し、初めて渋谷のスクランブル交差点に立ったときのことを思い出したんです。人の多さに酔い、少し気分が悪くなってしまったことを。「東京ってこういう街なのか」という恐怖さえ覚えたあのときの記憶が巡ってきたとき、このスクランブル交差点にひとりで立っているの、ちょっと面白いかも、と。東京らしさもあるし、街の中心だし、僕の人生の新たなスタートを象徴するような場所でもあったので、第1回目にふさわしいのではないかと思いました。上京当時、ここに立ったときはすごく顔色が悪かったと思うけど、今回はあえてちょっとはしゃいでいる人になってみました(笑)。この写真を元に、くどうさん、どんなストーリーを書くんだろう?ってちょっとワクワクしながら。くどうさんから返ってきた「だんちゃん」という物語は僕の想像を遥かに超えていて、この回で、この連載がこれから向かっていくところがちょっと分かった気がしました。

――「だんちゃん」は、「つかみどころのない、妙に気になってしまう高校の先輩」として戸塚さんが描かれています。読んでみていかがでしたか?

なんかドキッとしましたね。いい意味で裏切ってくれたというか。くどうさんにはこの写真、こういう風に見えているのかと。写真が一気に生々しくなったというか、静止画なのに、躍動感が現れてきたというか、ストーリーがつくことで、こんなにも一枚の写真の見方が変わるんだとびっくりしました。

――「では、次はこう仕掛けてみようかな?」といった思いは出てきましたか?

出てきましたね(笑)。会社の同僚と付かず離れずの交友関係を築く4話目の「八木」は幽霊坂という場所で撮影したのですが、一見、普通のシチュエーションなんです。でもその場所にひとりでいるという違和感を覚えるようなものを目指していました。後半にさしかかるにつれ、くどうさんがちょっと困るような写真を撮っていたかなと思います。

――「戸塚さんが難題をどんどん出してくる」と、インタビューのなかで、くどうさんもお話しされていました。けれどくどうさんが一番びっくりされたのは、連載の間、毎月ご自身のインスタに、くどうさんのショートストーリーに呼応するように文章を書いていらしたことだと。本書では「登場人物超過」と題されたその文章が収められています。ストーリーへのアンサー的なものもあるし、もしかして戸塚さんご自身のこと?と思ってしまうエッセイに寄ったものもあります。

この文章を書くとき、視点的なことは決めていませんでした。それこそ写真を見て、くどうさんが物語を作るように、自分もくどうさんの物語から受けたインスピレーションで書いてみようって。なので物語につながっているようなものもあれば、全く関係ないような内容にもなっていきました。

――連載をしていたなかで、印象に残っている回は?

黒い溶岩のなかに白い衣装を着た男が立つシチュエーションで撮影した「みゆ」です。故郷・岩手県の、溶岩流が足元にいっぱいある場所で撮ったのですが、これは本当に「くどうさん、申し訳ありません!」と思いました(笑)。きっと「これから何を書けばいいんだ?」と思われるだろうなと。でもくどうさんから返ってきたショートストーリーは、まさかの恋愛もの。「この写真で恋愛に持っていくか?大自然の壮大な感じで、あえて恋を」と衝撃を受け、くどうさんの本気を見せられた気がしました。

――同じく故郷・盛岡で撮影された、かつての同級生“とっくん”にばったり出会う「高橋優穂」の物語も味わい深いですね。

視点人物がまさかのフルネームなんですよね。あれ?クラスメイトにいたかな?くどうさんに見られていたのかなってちょっとドキッとしました。それまで下の名前だったり、あだ名だったり、視点人物の名前は抽象的な書き方だったのに、急に「高橋優穂」。だから僕の書いた文章もちょっと生っぽくなっているんです。これは勝手に僕が思っているだけなのですが、それまでずっと連載を一緒につくっていたのに、岩手で撮影をしたこのとき初めて、くどうさんとお会いしたんです。だから互いの書いたものも、なんとなく寄り添った文章になったのかなと思います。

――一冊を通して読んでいくと、戸塚さん主演の短編映画を十何本と見ているような感覚になります。

めっちゃうれしい!それ、すごく素敵な読み方ですね。

――この一冊は、一見戸塚さんのフォトブックに見えます。けれど読み始めると、すぐにそうではないことがわかる。「これはこういう本です」と言葉にするとしたら?

まさに戸塚純貴の短編映画です(笑)。自分でもない、でもどこか見たことがあるような、そしてもしかしたら自分もちょっと入っている……そんな曖昧な、役のようで役ではない存在がそこにいる、というものが詰まっている。くどうさんと僕、双方向から思考を巡らせてつくっていったこの企画は、ものをつくる、という観点でいうとけっこう難解なことをしていたと思うんです。けれど内容的にはすごく身近なもの。読んでくださる方にとっては、距離の近いところにあってほしい一冊だと思っています。

――5年前のインタビューで「脚本を書いている」というお話を伺いました。この一冊のなかで「登場人物超過」、そして「はじめに」をご執筆されていますが、ご自身の表現のひとつとして「書くこと」とは?

5年前、僕が脚本を書いていたのは、当時、あまり仕事がなかったから、表現する場所を自分でつくっていたんです。振り返ると、「書く」ことで自分が表現をすることをつなぎ止めたいと思っていたのだろうと。今でも「書く」ことは僕にとって、何かをつなぎ止める力のあるもの。今回、文章を書いていた時もそんな感覚をおぼえていました。多分、くどうさんのお話で、物語を完結させたくなかったのでしょうね。プラスアルファ何か添えられたら、つなげられたらいいなって。

――最後に収められている「戸塚さんを捕まえる あとがきにかえて」という、くどうさんの書き下ろしエッセイは、まるで小説のような読み心地でしたね。

すごいよかったです。でもこっぱずかしかったです(笑)、分析されているようで。くどうさんから見た僕を、誰かになっている僕を、「こういう人かな?」と思って物語を書いてきてくださった最後の最後に正体を暴いていくみたいな。

――この本のなかでは、読者の方にもご自身のことを捕まえてほしくはないですか?

たくさん捕まえていただきたいです(笑)。でも「それは本当に僕かな?」というところでしょうか。「こういうことなのかな」という解釈は、間違っていることなんてひとつもないから、その人がそういう風に思ったことがすべて。だからただ感じたままに読み、楽しんでいただけたらなと思います。パッケージも飾ってほしいものを目指しました。部屋に置いてあっても恥ずかしくない、戸塚のファンじゃない人も飾ってみてちょっといいなと思っていただけるような。

――椅子がいっぱい並べてある、このカバー写真はどんな意図をもってつくられたのですか?

いろんな人に移り変わる、ひとりの人にもいろんな席がたくさんあるという意味を込めています。この表紙には、僕のこだわりが詰まっているんです。カバーや撮り下ろしの写真は小見山峻さんというカメラマンの方が撮ってくださって。くどうさんが書いてくださった15人の何者か以外のカットは、小見山さんと、僕がいつもお世話になっているチームの方々と撮影したものなので、かなり自分の素に近い写真が散りばめられていると思います。小見山さんは空間デザインを巧みに撮ってくださる方で、椅子をいっぱい並べたなかにできた影がすごくいいなと思い、この影は入れたいなと影を生かした装丁にしました。

――ストーリーがついているものと、ついていないもの、写真によって“戸塚さん”の違いを見るのも楽しいですね。

そして、カバーを外したら何かあるかも……(笑)。本を手にしてくださった方が気づいてくれたらと、細部までこだわって作らせていただきました。

話題の俳優・戸塚純貴&作家・くどうれいんのコラボ企画が書籍化!

本とコミックの娯楽誌『ダ・ヴィンチ』で2023年から約1年連載された本企画。
都内の遊園地や釣り堀、ボードゲームカフェから、2人の出身地である岩手県の風景まで。
各所で撮影された戸塚さんの写真を元に、くどうさんが言葉で紡ぐ「この街のどこかにいるかもしれない人たち」の物語。
『ダ・ヴィンチ』誌面に掲載された15編に加え、写真家・小見山峻氏によるアーティスティックな世界観の中で撮影された戸塚さんの撮り下ろし写真、くどうさんによる書き下ろしエッセイ「戸塚さんを捕まえる」(仮)を収録。
戸塚さんの様々な表情と、くどうさんの描く色鮮やかな物語を存分に楽しめる1冊です。

書 名:登場人物未満
モデル:戸塚純貴 文:くどうれいん
発売日:2025年01月29日
定 価:1,870円 (本体1,700円+税)
I S B N:9784041155134
詳 細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322407000669/

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