作家・下村敦史が選ぶ 私のおすすめミステリ 第8回
手に汗握る衝撃的な展開やドキドキの伏線回収など、数多くの人気作品が生まれる“ミステリ”ジャンル。そんな作品を生み出している作家の皆さんは、かつてどんな作品に出合い、そしてどのように自身の物語を生み出しているのだろうか?
今回は2025年1月24日に『ロスト・スピーシーズ』が文庫化された作家・下村敦史さんに、おすすめのミステリ作品を伺いました!
現役作家が語るおすすめミステリという、カドブンならではの貴重なインタビューです!
――下村さんおすすめのミステリ作品と、それぞれおすすめの理由も教えてください!
『ミステリ・アンソロジーII 殺人鬼の放課後』恩田 陸、小林泰三、新津きよみ、乙一:著 (角川スニーカー文庫)
僕が本格的に小説を読みはじめた頃に出会った作品です。乙一さんの『SEVEN ROOMS』は、今でも鮮烈に印象に残っています。
『天使のナイフ』薬丸 岳(講談社文庫)
初めて読んだ江戸川乱歩賞受賞作で、僕が乱歩賞に応募するきっかけにもなった社会派ミステリの傑作です。各新人賞で一次通過もできずに落選を繰り返していた僕が何を血迷ったのか、「こんなに凄い作品を輩出する賞に自分も挑戦してみたい」と思いました。『天使のナイフ』との出会いが今の僕の人生を決定づけたといっても過言ではありません。
――下村さんと小説が出合ったとき、そして作家人生のきっかけとなった作品をご紹介いただきありがとうございます!
下村さんが作家になることを決めたきっかけ、またミステリ作品を書くようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
20歳くらいの頃、趣味でライトノベルを書いていた中学時代からの友人に勧められ、自分も小説を書くようになりました。当時の僕は、高校時代にコバルト文庫系のヤングミステリにハマった時期があるくらいで、それほど小説を読んでいませんでしたが、1997年に日本で公開されたスリラー映画『スクリーム』のどんでん返しに衝撃を受けたこともあり、『スクリーム』のような作風のスリラーを主に書いていた記憶があります。友人がプロ作家を目指して公募に挑戦していた影響で、僕もミステリ系の新人賞に応募するようになり、今に至ります。
――ミステリ作品を執筆されるうえで、こだわりや意識されている点はございますか。
僕は自分をエンタメ作家だと思っているので、読者に楽しんでもらいたい、驚いてもらいたい、という思いは、デビュー当時から変わっていません。特にどんでん返しにはこだわりがあります。どんでん返しというものは、人が一般的に持っている価値観や先入観、偏見をひっくり返すことだと思っているので、社会の中で何かしらの事象を目にするたび、その大前提が覆ったらどうなるだろう、事件の裏側に世界が反転する真相があったらどうなるだろう、という視点を持っています。そこから多くの物語が生まれました。
――“どんでん返し”を意識して作品を作られているとのこと、こだわりのポイントを教えていただきありがとうございます!
今回文庫化された『ロスト・スピーシーズ』について、着想のきっかけと読みどころをお伺いできましたら幸いです。
僕は江戸川乱歩賞に9回応募し、5度の最終候補の末に『闇に香る噓』で受賞してデビューしました。4度目の最終候補作がアマゾンの密林を舞台にした日本人移民の物語でした。その頃に調べた知識があったので、それを生かして新しい冒険小説を書きたい、と思ったのがきっかけです。KADOKAWAからはサハラ砂漠を舞台にした冒険小説の『サハラの薔薇』も刊行しているので、同じ系統として、面白くて壮大な物語になると思いました。アマゾンの密林に踏み入った曲者揃いの一行がジャガーやアナコンダやクロコダイルなど自然の脅威に晒されつつ、目的に向かってサバイバルを繰り広げるアクション映画的ストーリーを楽しんでください。
――下村さんはこれまでさまざまなミステリ作品を執筆されていますが、今回は冒険小説のエッセンスが入ったサバイバルミステリなんですね!
ぜひみなさんも作中の探検隊の一員になったつもりで、お宝――がんの特効薬になる「奇跡の百合」がどこにあるのか、推理しながら読んでみてください!
『ロスト・スピーシーズ』あらすじ
どんでん返しの名手が仕掛ける、予測不能のサバイバルミステリ!
南米アマゾンにはがんの特効薬になる「奇跡の百合」があるという――。アメリカ大手製薬会社が招集した探索チームに加わった植物学者の三浦は、製薬会社社員、ボディガード役の金採掘人、植物ハンター、現地の大学生という奇妙な面々と共にアマゾンに踏み入っていく。出発早々、正体不明の男たちから命を狙われ、さらに過酷な自然に死の危機に瀕する彼ら。しかし、三浦には決して後戻りできない理由があった。そして探索チーム全員がそれぞれに思惑を隠し持っていた――。どんでん返しの名手が仕掛ける、予測不能のミステリ。