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コロナでDVは増えたのか (1)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、ドメスティック・バイオレンス(DV)の増加や深刻化が問題とされました。
ロックダウンの措置が行われた諸外国では、DVの報告件数が増加し、DVは「陰のパンデミック」として、国際的に、その対応の必要性が叫ばれ、実際、緊急的な予算拡充や様々な取組が実施されました。
日本においても、2020年4月7日に初めて緊急事態宣言が発令された後、「DV相談プラス」という全国的な相談窓口が開設されるなど、DVへの対応が強化されました。
では、実際に、コロナの増加により、DVが増えたのでしょうか。ここでは、いくつかのデータをもとにして、このことを検証したいと思います。


1.DV相談件数1.6倍

内閣府の報告によると、コロナの感染が拡大した2020年度のDVの相談件数が、前年の2019年度と比べて、1.6倍に急増したとして、この数字がメディアでも多くとりあげられました。
この数字をみる上で、最初に、注意しなければいけないのが、「2019年度と2020年度で集計している相談件数の報告対象が異なる」ことです。

つまり、2019年度の相談件数は、全国の地方自治体に設置されている「配偶者暴力相談支援センター」で受けつけた件数ですが、2020年度の相談件数には、これに加えて、内閣府が2020年4月に新たに開始した「DV相談プラス」という相談窓口で受けつけた件数が合算されています。

このため、新たな相談窓口が加わったことが、大きく増加した理由となります。
図1で、青色が配偶者暴力相談支援センターですが、2020年度は、赤色のDV相談プラス分が上乗せされたことで、急増したことがよくわかります。

図1


対象が異なると、比較が難しいため、ここでは、いったん、「DV相談プラス」の相談件数は除き、配偶者暴力相談支援センターのみについて、相談件数の傾向をみていきます。

2.配偶者暴力相談支援センターの相談件数

図2は、配偶者暴力相談支援センターの相談件数の推移と前年度との増減率を示したものです。増加率は、調査開始後の2002年度、2003年度に高く、その後緩やかになり、2016年度と2017年度に若干減少したものの、全体的には、増加傾向にあります。こうした中で、2020年度のコロナ禍に入ったことになります。こうしてみると、2020年度の増加率は、15.1%となっており、近年の増加率と比べると、相談件数の増加幅が大きかったことがわかります。

図2


このため、DV相談プラスの追加による増加の影響を排除しても、「相談件数は増えた」と言えます。

ただ、ここで、留意が必要なのが、この相談件数は「延べ」件数であるという点です。

例えば、一日で、同一人物から、午前に1回、午後に1回電話での相談があれば、2件とカウントされます。さらに、この相談件数は、「来所」、「電話」、「その他」の相談種類別での集計となっているため、同一人物が、電話の後に来所して相談した場合、これも、2件となります。
このため、頻回相談者がいる場合、件数が増加するという特徴があり、純粋に、相談者(DV被害者)が増えたかどうかを把握するためには、「実人員」をみる必要があります。
「実人員」については、内閣府は2019年度から集計・公表していますが、現時点(令和3年9月12日)で、2020年度の実人員を含む詳細な集計結果がでていないため、これを比較することはできません。今後の公表を待ちたいと思います。

最後に、もう1点、留意すべき点に触れておきます。
配偶者暴力相談支援センターは、都道府県や市区町村に設置されていますが、すべての地方自治体に設置されているわけではなく、2021年7月19日現在で全国に設置されているのは、300か所になります。
都道府県のなかには、県内に1か所しか設置されていない地域もあり、設置数には地域偏在がありますが、センターが設置されていない地域で、例えば、地方自治体の相談窓口で受け付けたDVの相談はここには計上されていません。あくまで、把握した相談件数は、全国のDV相談のうち、配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数のみであるということです。

また、センターを設置する地方自治体は、年々増加しており、集計を始めた2002年度は、わずか102か所でした。19年間で198か所増加したことになります。
図2で、相談件数が増加してきたことを確認しましたが、その報告対象となるセンター数も同時に増加していたことになります。単純に考えれば、センターが増えれば、それに伴って相談件数の総数も増えることは当然であると考えられます。

そこで、1センター当たりの相談件数をみてみましょう。図3は、センター数と1センター当たりの相談件数を示したものです。
これをみると、2002年度から2019年度において、1センター当たりの相談件数は、だいたい350件~420件の間で推移しており、年々増加しているような状況ではありません。つまり、図2においてみられた経年的な相談件数の増加は、その集計対象となるセンターが増加したことが影響していることが考えられます。

図3

ここで、2020年度の件数に着目します。そうすると、2019年度と比べて、1センター当たり約50件の増加となっており、これまでの年と比べても、その増加率と件数ともに大きかったことが確認できます。
このことから、やはり、コロナ禍にあった2020年度は、DVの相談件数の増加があったと言ってよいでしょう。

さらに、図4で月別の相談件数および増減率をみると、特に、初めて緊急事態宣言の発令があった4月から6月、年度末の2月から3月にかけて増加したことがわかります。

図4

コロナの感染拡大に伴う生活環境の変化等がこれらの時期での増加につながっているのかどうかが気になりますが、内閣府の調査では、相談に至った経緯や理由まで集計されていないため、この増加がコロナによる影響なのかどうかは明確にはわからないというのが実情です。
また、緊急事態宣言やまん延等重点措置の発令、感染の状況などは地域によって異なることから、こうした地域ごとの状況も確認する必要があるでしょう。

3.小括

ここまでみてきたことをまとめると、おおむね以下のようなことが言えます。

・ 配偶者暴力相談支援センターで受け付けた相談件数は、コロナ禍の2020年度にこれまで以上に増加した。
・ ただし、コロナが増加の要因かどうかははっきりしない。
・ 増加した相談件数は、延べ件数であることに留意が必要。

ここでは、配偶者暴力相談支援センターの相談件数のみをとりあげましたが、もちろん、コロナによる影響を確認するためには、DV相談プラスなどのその他の相談状況も踏まえて、総合的に判断する必要があります。

<参考文献>
内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターの相談件数」(平成14年度~令和元年度)

内閣府男女共同参画局「DV相談件数の推移(令和2年度)」


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