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"God Save the King"

我が人生最後の外国旅行は10年間住んで人々から「ウオリー」と親しまれた町「ポート・ダグラス」にしようと決めていた。だがその思いもここ数日テレビで放映されるエリザベス女王の葬儀に目を皿にして見入っている間に変わってきた。やはり最後の旅行は僕の人格形成の原点となった英国にしなければならないと。
就職した英国商社でヒューエットさんと巡り合い、モーガンさんと知り合った。ヒューエットさんからは自己犠牲と克己心を叩き込まれモーガンさんからは中庸を遵守することを教わった。二人は僕が「ノブレス・オブリージュ」の精神を身に付けるに至った恩人と言えなくもなかった。ヒューエットさんは僕の父、モーガンさんは僕の母だった。
ヒューエットさんは幹部社員を「日英協会」の会員にすることで日本人の社交性の向上を図ろうとした。だがその志も引っ込み思案の日本人には通じなかった。ただしり込みするだけの日本人の中にあって僕だけが時折好奇心に駆られて会合に出席した。エリザベス女王の午餐会に出席したのもヒューエットさんとモーガンさんと僕だけだった。
午餐会でエリザベス女王にお会いしたのは僕が36歳の時。それから11年が経ちダイアナ妃と来日したチャールス皇太子にお会いした。やはり日英協会が主催したホテル・オークラの平安の間でのレセプションの席だった。エリザベス2世が逝去しチャーチル3世が誕生したテレビの画面を見ているとそんな若き日の感激が新たに甦ってくる。
女王が埋葬されたウインザー城には僕も一度訪れたことがある。オックスフォード大学を見て回り、テームス川上流の「トラウト・イン」で食事をした後、裏通りにあるオックスフォード最古のパブでリンゴ酒を飲んだりした。その帰りにウインザー城に立ち寄った。運悪くボヤがあった日で城内を全て見て回ることはできなかったのだが。
国分寺のオババを調べるため椎名誠の「さらば国分寺のオババ」を再読した際「おれは世の中で一番うまいものは、とにかく和食の部、洋食の部、中華の部、飲みものの部、と言うようにすべての部門を超越して「ビール」が最高である!」と言う文章に出くわした。同じくビール党の僕はこの文章に感激し、人生の最後はビールで締めなければと決心した。
ビールで締めるとなるとやはりロンドンのパブ。英国への最後の旅行の最後にロンドンに引き返し、パブの中庭でパブの常連とドクター・ジョンソンの辞書があるかないかで大論争した「Ye Olde Cheshire Cheese」に立ち寄り” Pint of bitter, please゛と声を張り上げて最後のビールを注文する。雨模様の空を眺めながらそんな夢を見続けている。
(写真:日英協会のレセプション。即位したチャールス3世に〝God Save the King“を捧げるとともに、英国の繁栄を心から祈願致します)

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